地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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スペイン各都市で大規模デモ:「ジャスミン革命がスペインにも飛び火」って言われてるけど・・・
今、欧州関連で最もホッとな話題と言えば、IFMの専任理事、ドメニク・ストロス・カーン氏逮捕の問題だと思うんだけど、実は今、スペインが凄い事になってます。と言うのも、スペインの全国各地で数千人、数万人規模のデモが同時多発的に起こっていて、それを指して、「ジャスミン革命がスペインにも飛び火」と報道する新聞まで現れる程の事態に陥っているんですね。



個人的には今回のデモとジャスミン革命は全く関係が無くって、デモが暴動に発展する事は無いと思うんだけど、規模としては確かに凄くて、メディアで流れてくる映像なんかを見てると、各国の主要紙がアラブ諸国の革命と比べたくなるのも分からないでもないかな(ジャスミン革命についてはコチラ:地中海ブログ:エジプトの暴動とアラブ諸国への連鎖可能性に関するスペインの見方)。



このデモ、一体何に起因しているのか?と言うとですね、実は今週日曜日(5月22日)、スペインでは地方選挙が控えてて、現在のスペイン政治と市民の間に出来た深い溝、多くの市民が陥っている酷い生活状況を直視せず、それに真っ当な政策を打ち出そうとしない政治家や一部の利権保持者達などに、堪忍袋の緒が切れた人達が草の根的に集まってきたと言うのが、その始まりだったんですね。ついでに言うと、今回の選挙はスペイン史上、結構重要な転換点になる選挙だと見られていて、と言うのも、今まで全国の主要都市で政権を維持してきた労働左派(PSOE)が大敗すると言うデータが出ているからです。こちらの方は(本当に)ちょっとした革命で、スペイン民主化後、1979年から現在まで政権を維持してきたバルセロナやセビリアと言った労動左派にとっては居城とも言える様な大都市でさえ、大敗が予想されているくらいです。

では、今回のこのデモがこの「政権交代に関係があるか?」と言うと、その関連はあまり見られない様な気がします。と言うのも、全国の各都市で同時多発的に起こっているデモでは、「一つの政党を推す」とか、「現政権に反対だから、他の政党を応援する」と言った様な動きは全く見られないからなんですね。では一体彼らの目的は何なのか?それはこのデモのスローガンに良く現れていると思います:

“No hay pan para tanto chorizo”

このスローガン、直訳すると、

 「そんなに沢山のソーセージに合わせる為のパンは無い」

となるのですが、これは勿論比喩で、スペインでChorizoは泥棒を意味し、このコンテクストにおいて、Panはお金を意味します。つまり上述のスローガンは

 「そんなに沢山の泥棒達にやるお金は無い」

となるんですね。で、これが一体何を意味しているのか?って言うのが問題なんだけど、ここには、スペインが現在置かれている非常に根の深い問題、経済危機やそれに関連する高い失業率、そして沢山の国民達が抱えている、払いきれない程の住宅ローンなんかが関連していて、それらの利益をこうむっている極一部の人達、もっと言っちゃうと、政治家と銀行を指して、「泥棒」と言っているんですね。

日本ではあまり知られてないかもしれないけど、現在のスペインの状況は本当に酷くって、失業率は20%以上、25歳以下の若者に限ると、この数字が40%以上まで跳ね上がると言う状況が続いています。更に欧州委員会からのお達しで、政府は社会政策費の削減を余儀なくされてて、そのメスがとうとう教育や医療と言った、その社会における基礎の基礎となるインフラにまで入れられ、沢山の公務員達が職を失い、病人の為のベッドを確保出来ない病院まで出てきたり、ひいては、教室の暖房費や電気代が払えない学校まで出てくると言う事態にまで発展してきています。

そんな状況の中、先週日曜日(5月15日)に、マドリッドの中心街に数千人が座り込みをすると言うデモが行われ、その日以来、マドリッドのソル広場には日に日に人々が集まり出して、選挙の当日までテントなどを張って寝泊りすると言う現象が起こりました。この運動は瞬く間に全国に広がっていって、今ではバルセロナやセビリアを始め、全国の主要都市や欧州各国のスペイン大使館の前に人々が集まりデモを行うと言う現象まで見られる様になってきたと言う訳なんです。



冒頭に書いた様に、メディアから流れてくる映像なんかを見る限り、街路を埋め尽くした人々の姿はインパクト抜群で、「ジャスミン革命がスペインに飛び火」みたいな報道をしたくなるのも分からないでもないけど、僕が見る所によると、今回スペイン各地で起こっているデモとジャスミン革命は、一見似てる所もある事はあるんだけど、本質的には全く違うと思います。



先ず第一に、スペインは紛れも無い民主主義国家であり、アラブ諸国の様に独裁政権下で市民が民主主義を求める為に立ち上がったと言う状況とは全くコンテクストが違うと言う点が挙げられます。その反対に、似てる点としては、今回のデモがFacebookやTwitterと言ったソーシャルネットワーク(SNS)を通して草の根的に広がったって言う点が挙げられるんだけど、以前にも書いた様に、SNSなどを用いた草の根ネットワークによる選挙革命が世界で始めて行われたのは実はスペインなんですよね(詳しくはコチラ:地中海ブログ:東さんの「SNS直接民主制」とかマニュエル・カステル(Manuel Castells)のMovilizacionとか)。そういう意味で言うと、スペインにおいてデモなどがSNSを通して草の根的に組織されたと言う事はそれ程驚きではありません。

しかしですね、その一方で、市民の怒りは頂点に達していて、「ハッキリ言ってこれ以上我慢出来ない」、「変化が必要だ!」って言う空気が社会的に蔓延しているのも又確か。それはスペインに住んでいる人なら、誰しもが感じている事だと思います。

 数年前、日本の閉塞的な状況、そして未来が全く見えない状況の中、一人のフリーターが書いた文章が話題になった事がありました。

 「「丸山真男」をひっぱたきたい。31歳フリーター。希望は、戦争。」

スペイン人でこの文章の存在を知ってる人が居るとは思えないけど、多分、今スペインに住んでる人達にとっては非常に共感出来る内容じゃないのかな?(スペインのフリーターに関してはコチラ:地中海ブログ:スペインのニートはニニ(Ni Ni)と言うらしい:世界のニート事情

今回のデモが暴動に発展するとは僕には思えません。と言うか、思いたくありません。しかし、これ以上、政治家が市民の現状を省みず、現状を直視しない状況が続けば、今回のデモが暴動に発展しないと言う可能性が無いと言い切れない事も又確かです。それ程、現在のスペインの状況は切羽詰っていると言う事で、日に日に、スペインの空気はそちらの方に向かっている気がしない事も無いかな。とにかく、今週日曜日までは気を張った状況が続きそうです。

追記:
選挙が終わって1週間が経とうとしている今日(5月27日)、若者達を強制排除しようとした警察と若者との間に乱闘が起こり、事態はどんどん暴動に向かっている様に見えます。メディアでは警察に殴られて頭から血を流している人とかの映像がどんどん流れてくる。
| スペイン政治 | 06:29 | comments(3) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント
これは注目!“No hay pan para tanto chorizo”
| sby007 | 2011/05/20 9:41 PM |
スペインの15-29歳人口比率は10%程度で、アラブ諸国の30%と全く違う状況なので、ユースバルジが起こる可能性はかなり低いと思います。 http://bit.ly/mauLE4

でも、このIndex of Potential Unrestを観るとEU内でスペインとポルトガルは「不穏度」が東欧並に高いのが気になりますね。 http://bit.ly/ineNLa
| Gen | 2011/05/23 8:06 AM |
Genさん、こんにちは。コメントありがとうございます。

そうそう、僕も以前アラブ諸国の若者比率を調べた事があったのですが、あっちの人口構成って、ちょっと想像が出来ないくらい若いんですよね。ちなみに、その時に識字率も調べたのですが、こちらは思っていた程低くは無くて、逆にビックリしました。
http://blog.archiphoto.info/?eid=1170555
| cruasan | 2011/05/25 5:49 AM |
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