2011.05.08 Sunday
あまり知られていないバルセロナ近郊にある名建築:ラペーニャ&エリアス・トーレスによるCastelldefels城へと続くアプローチ空間
所用でバルセロナから電車で20分程の所にあるCastelldefelsと言う小さな町に行った次いでに、この町にある隠れた名建築を見てきました。
建築って言っても、この町のシンボルであるCastelldefels城へと続くアプローチ空間と公園だけなんだけど、手掛けたのはラペーニャ&エリアス・トーレス(José Antonio Martînez Lapeña and Elías Torres)。ラペーニャ&エリアス・トーレスと言えば、もはやスペイン建築界では大御所と言ってもよい存在だと思うのですが、そんな彼らがこの小さな町に名建築を残している事は案外知られていません。工事が始まったのが1987年で完成が1993年、つまり20年も前の作品なので、知られてなくても当然と言えば当然なんだけど、この建築にはその後彼らが次々と創り出していく数々の名建築の萌芽みたいなものが垣間見えてて大変興味深いと思うんですね。
バルセロナにある巨大ソーラーパネルや、トレドにあるエスカレーターなんかを見るだけでも、彼らの建築に関する「感性の鋭さ」みたいなのが伺えると思うんだけど、特にトレドのエスカレーターなんて、その独特の機能を最大限に活かした屋根の扱いによる「空の切り取り方」、「視界の展開の仕方」、そして何より、我々人間の目が地上から150センチ程度の所に付いている(当然個人差あり)と言うごく当たり前の事なんだけど、大概の建築家が忘れかけている事実に基づいた傑作中の傑作だと思います(地中海ブログ:マドリッド旅行その4:ラペーニャ&エリアス・トーレス(Jose Antonio Martinez Lapena and Elias Torres)の建築その1)。
次いでに言っちゃうと、トレドの街って物凄く良く保存されているんだけど、その陣頭指揮を執ったのは、バルセロナが誇る都市計画家、Joan Busquets氏。で、どうも小耳に挟んだ所によると、Joan Busquetsがエリアス・トーレス等の力量を見越して、彼らを直々に指名したと言う事を数年前にちらっと耳にした事がありました。で、ここからが面白い所なんだけど、実はこのトレドの傑作には、その前に「ある種の実験モデル」みたいなものが存在してて、実はそれが今回紹介するCastelldefelsのアプローチ空間だと思うんですよね。
駅からお城を目指して歩く事5分、目的のアプローチ空間が見えてきます。
コールテン鋼をカクカクに曲げて、それを上に向かってジグザグに配置していくと言うのがこの建築の基本的な構造なのですが、完成から20年以上も経っているが故に、周りの風景と「これでもか!」と言うくらいに馴染んでいます。槙さんの風の丘の葬祭場、そしてRCRの一連の作品なんかからも分かる様に、コールテン鋼って緑と物凄く相性が良いですよね(地中海ブログ:RCRアランダ・ピジェム・ヴィラルタ・アーキテクツ 2(RCR Aranda Pigen Vilalta Arquitectes))。この建築に関して言えば、「このデザインが20年も前のものなのか!」と思う程、新しく見えると言う所が本当に素晴らしい。
まあ、そんな事を思いながらジグザグ街路を登って行ったんだけど、これが案外面白い。真っ青な芝生や木々の間に絶妙な感じで配置されたコールテンが物凄く良いハーモニーを醸し出しています。
上方を見ると、こんな感じでコールテン鋼が交わっていて、風景を切り取っているのが大変印象的です。見事なまでにジグザグ(笑)。
大変気持ちの良い空間を抜けると、頂上にあるお城に到着します。で、振り返るとこの風景:
街を一望の下に見下ろす事が出来る展望台の様になっているんですね。つまりジグザグ空間を登らせつつ、同時にお城をチラチラと見せつつ、最後には振り返り様に地中海の海を見せると言う物語がこの空間には展開している訳ですよ!「なかなか上手い空間展開だなー」とか思ったんだけど、何か違和感が・・・。一見単純そうに見えるこのジグザグの中に、何かしらの仕掛けがある様な気がする・・・そう思ったら最後、見極められるまでとことんやるのが、僕の性格なのですが、この山を行ったり来たりと言うのを15回くらい繰り返したした時の事、「あれ?」って気が付いた事がありました。それは、「この壁、その高さによって、視線操作してるんじゃないの?」って事だったんですね。と言う訳で、もう一度、最初のアプローチから壁の高さに注目して登っていく事にします:
先ずは右手側(山側)に頭上を越える程高いコールテン鋼が聳え立っているのが分かるかと思います。ここでは、視線は前方に集中し、右手側の緑やお城がある頂上なんかは見える事は全くありません。そして折り返し:
ここでも山側に背の高いコールテン鋼がジグザグ配置され、且つ、緑の木々なども伴い、上方への視線は遮られているのが分かるかと思うんですね。そしてそこを抜けると次のターンへ:
この辺りからホンの少しづつだけど、コールテン鋼の背が低くなり始めて、上方への視界が開け始めてきます。そして決定的なのがこのターン:
3回目の切り返しで、コールテン鋼の背が明らかに低くなり、山側の木々の間から目的地であるお城の姿がチラチラ見える様になってきました。
つまり彼らはさりげなく、コールテン鋼の背の高さを微妙に調整する事によって、このアプローチ空間に展開するメイン空間、お城の姿を少しづつ見せると言う物語を演出している訳ですよ!上手い、これは上手い!って、こんな事、多分余程注意してない限り気が付かないだろうけど、「ここで実験された事が、後のトレドのエスカレーターの視線操作に繋がるのか!」と思うと、かなり納得です。隠れた名建築!大満足の数時間でした。
建築って言っても、この町のシンボルであるCastelldefels城へと続くアプローチ空間と公園だけなんだけど、手掛けたのはラペーニャ&エリアス・トーレス(José Antonio Martînez Lapeña and Elías Torres)。ラペーニャ&エリアス・トーレスと言えば、もはやスペイン建築界では大御所と言ってもよい存在だと思うのですが、そんな彼らがこの小さな町に名建築を残している事は案外知られていません。工事が始まったのが1987年で完成が1993年、つまり20年も前の作品なので、知られてなくても当然と言えば当然なんだけど、この建築にはその後彼らが次々と創り出していく数々の名建築の萌芽みたいなものが垣間見えてて大変興味深いと思うんですね。
バルセロナにある巨大ソーラーパネルや、トレドにあるエスカレーターなんかを見るだけでも、彼らの建築に関する「感性の鋭さ」みたいなのが伺えると思うんだけど、特にトレドのエスカレーターなんて、その独特の機能を最大限に活かした屋根の扱いによる「空の切り取り方」、「視界の展開の仕方」、そして何より、我々人間の目が地上から150センチ程度の所に付いている(当然個人差あり)と言うごく当たり前の事なんだけど、大概の建築家が忘れかけている事実に基づいた傑作中の傑作だと思います(地中海ブログ:マドリッド旅行その4:ラペーニャ&エリアス・トーレス(Jose Antonio Martinez Lapena and Elias Torres)の建築その1)。
次いでに言っちゃうと、トレドの街って物凄く良く保存されているんだけど、その陣頭指揮を執ったのは、バルセロナが誇る都市計画家、Joan Busquets氏。で、どうも小耳に挟んだ所によると、Joan Busquetsがエリアス・トーレス等の力量を見越して、彼らを直々に指名したと言う事を数年前にちらっと耳にした事がありました。で、ここからが面白い所なんだけど、実はこのトレドの傑作には、その前に「ある種の実験モデル」みたいなものが存在してて、実はそれが今回紹介するCastelldefelsのアプローチ空間だと思うんですよね。
駅からお城を目指して歩く事5分、目的のアプローチ空間が見えてきます。
コールテン鋼をカクカクに曲げて、それを上に向かってジグザグに配置していくと言うのがこの建築の基本的な構造なのですが、完成から20年以上も経っているが故に、周りの風景と「これでもか!」と言うくらいに馴染んでいます。槙さんの風の丘の葬祭場、そしてRCRの一連の作品なんかからも分かる様に、コールテン鋼って緑と物凄く相性が良いですよね(地中海ブログ:RCRアランダ・ピジェム・ヴィラルタ・アーキテクツ 2(RCR Aranda Pigen Vilalta Arquitectes))。この建築に関して言えば、「このデザインが20年も前のものなのか!」と思う程、新しく見えると言う所が本当に素晴らしい。
まあ、そんな事を思いながらジグザグ街路を登って行ったんだけど、これが案外面白い。真っ青な芝生や木々の間に絶妙な感じで配置されたコールテンが物凄く良いハーモニーを醸し出しています。
上方を見ると、こんな感じでコールテン鋼が交わっていて、風景を切り取っているのが大変印象的です。見事なまでにジグザグ(笑)。
大変気持ちの良い空間を抜けると、頂上にあるお城に到着します。で、振り返るとこの風景:
街を一望の下に見下ろす事が出来る展望台の様になっているんですね。つまりジグザグ空間を登らせつつ、同時にお城をチラチラと見せつつ、最後には振り返り様に地中海の海を見せると言う物語がこの空間には展開している訳ですよ!「なかなか上手い空間展開だなー」とか思ったんだけど、何か違和感が・・・。一見単純そうに見えるこのジグザグの中に、何かしらの仕掛けがある様な気がする・・・そう思ったら最後、見極められるまでとことんやるのが、僕の性格なのですが、この山を行ったり来たりと言うのを15回くらい繰り返したした時の事、「あれ?」って気が付いた事がありました。それは、「この壁、その高さによって、視線操作してるんじゃないの?」って事だったんですね。と言う訳で、もう一度、最初のアプローチから壁の高さに注目して登っていく事にします:
先ずは右手側(山側)に頭上を越える程高いコールテン鋼が聳え立っているのが分かるかと思います。ここでは、視線は前方に集中し、右手側の緑やお城がある頂上なんかは見える事は全くありません。そして折り返し:
ここでも山側に背の高いコールテン鋼がジグザグ配置され、且つ、緑の木々なども伴い、上方への視線は遮られているのが分かるかと思うんですね。そしてそこを抜けると次のターンへ:
この辺りからホンの少しづつだけど、コールテン鋼の背が低くなり始めて、上方への視界が開け始めてきます。そして決定的なのがこのターン:
3回目の切り返しで、コールテン鋼の背が明らかに低くなり、山側の木々の間から目的地であるお城の姿がチラチラ見える様になってきました。
つまり彼らはさりげなく、コールテン鋼の背の高さを微妙に調整する事によって、このアプローチ空間に展開するメイン空間、お城の姿を少しづつ見せると言う物語を演出している訳ですよ!上手い、これは上手い!って、こんな事、多分余程注意してない限り気が付かないだろうけど、「ここで実験された事が、後のトレドのエスカレーターの視線操作に繋がるのか!」と思うと、かなり納得です。隠れた名建築!大満足の数時間でした。