地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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大型イベント誘致戦略に見るエンターテイメント性と都市のイメージ:GSMA2011(Mobile World Congress2011)
今週バルセロナでは世界最大規模の携帯電話の祭典、Mobile World Congressが国際見本市会場にて行われていました。

この祭典、20年程前(1987年以来)から南フランスのカンヌを舞台に行われていたのですが、つい5年程前(2007年以降)からはその舞台をバルセロナに移し、この数日間だけは「地中海の首都」が世界中の携帯関連の研究者や起業家達の熱い視線を独占する事に成功しています。一応僕は今まで携帯電話関連の仕事をする機会が数回あり、スペインのNTTこと、テレフォニカと何度かプロジェクトを立ち上げた事があるのですが、それよりも何よりも、今回のイベントが僕にとって大変興味深いのは、「何故にバルセロナ市はこのイベントをそんなにも必死になって誘致しているのか?」と言う市政側から見た誘致戦略、もしくは都市戦略みたいな観点の方なんですね(それについては今までのエントリで散々書いて来た通りなので興味のある方はコチラ:地中海ブログ:バルセロナのイベント発展型都市戦略とGSMA2010(Mobile World Congress 2010)、地中海ブログ:バルセロナのイベント発展型都市戦略とGSMA(Mobile World Congress 2009))。

一言で言っちゃうと、4日間で5万人もの人を集めるイベント故に、そこに落ちるお金も半端じゃ無くて、この様な短期イベントを効率的に誘致する事が出来るかどうか如何によっては、かなりの見返りが期待出来ると、まあ、こういう訳です。ちなみに去年までのデータを並べてみるとこんな感じ:

2007

入場者数:
52千人
経済効果:
150億円

2008

入場者数:
5万5千人
経済効果:
170億円

2009

入場者数:
47千人
経済効果:???


2010

入場者数:
49千人
経済効果:
220億円

4
日間で220億円相当のお金が落ちるという事は、1日で50億円以上ですから、このイベントのインパクトがどれだけ強いかが分かるかと思います。では今年はどうだったのか?と言うとですね、何と今年は入場者数の新記録を更新し、4日間で6万人もの人々が訪れたと言う事でした。6万人ですよ、6万人!カンヌ時代の最高入場者数は35千人(34900人)と言う事ですから、5年間で倍近くになった訳ですね。詳しい経済効果のデータはまだ出てないのですが、「230億円を超える事は確実なのでは?」と見られています。

さて、問題はここからなんだけど、こんな「都市にとって大変美味しいイベント」を他の諸都市が放っておくはずが無く、再来年からの5年間の契約を巡って、もう既にヨーロッパの各都市がイベント誘致に動き出しています。候補となっているのは、パリ、ミュンヘン、ミラノそしてバルセロナの4都市なんだけど、一昨日の新聞に、これら各都市のホテルの数や一泊の値段、イベント会場の規模や位置、そして年間観光客数なんかの詳細データを比較した記事が載っていました(El Pais, 17 de Febrero 2011)。その中でも僕の目を惹いたのは2つのデータ、空港から市内へのタクシーの値段と気候条件でした:

パリ
オルセー空港−市内間:
27ユーロ
シャルル•ド•ゴール空港−市内間:
43ユーロ
2
月の気温は1−7度で月に9日程の雨

ミュンヘン
空港−市内間:
5060ユーロ
2
月の気温はマイナス4度から3度で、月に9日程の雨

ミラノ
マルペンサ空港−市内間:
60ユーロ
2
月の気温は08度で、月に7日程の雨

バルセロナ
空港−市内間:
24ユーロ
2
月の気温は712度で、月に5日程の雨

何故空港から市内までのタクシー料金が重要なのか?と言うとですね、市内へのアクセッシビリティと言うのは、「その都市の効率性を表す一つの指標」であり、ひいては「その都市の生活の質の豊かさを測る指標の一つ」と成り得ると思うからです(地中海ブログ:アムステルダム出張:如何に訪問者にスキマの時間を使って街へ出るというインセンティブを働かせるか?:スキポール空港(Schiphol Airport)の場合、地中海ブログ:フランクフルト旅行その1:フランクフルト(Frankfurt)に見る都市の未来)。

そういう観点で見ると、バルセロナとパリが機能的には優れてるかなとは思うんだけど、逆にミラノやミュンヘンの60ユーロって言うのは、ちょっと救いがたい気がする。まあ、携帯電話の祭典に来る人達って言うのは、自家用ジェットに乗ってくる様な人達なので、60ユーロって言うのは彼らにとってはコーヒー一杯くらいに考えてるのかもしれないんですけどね(苦笑)。

そしてこの都市のアクセッシビリティ以上に重要だと思われるポイントが、僕が今回注目したもう一つのデータ、都市の気候条件なんだけど、これはもう明らかにバルセロナが頭一つ抜けています。2月だから何処でも寒いのは当たり前なんだけど、バルセロナ以外はどの都市も0度に近いですからね。そして何よりも、ヨーロッパ中で雨模様が多いこの時期に、地中海が提供してくれる高く澄み切った青空は何ものにも代え難い気がする。

実はこれらの点って見落とされがちで、バカにされがちなんだけど、結構本質的な事なんじゃないのかな?今日の新聞には、これらの誘致を巡る4都市について、「参加者の声」みたいな感じで、海外からイベントに駆け付けた人達のインタビューが載ってたんだけど、その内の一人の意見が結構的を得てる様な気がしました:

「太陽、美味しいご飯、そしてバルセロナの人達とモデルニスモの建築群‥‥ここ数日間の体験は何者にも代え難い体験だったわ」

国際会議や国際カンファレンスで重要なのって、勿論、その都市の交通インフラがキチンとしてるか?とか、ホテルの数が確保されてるか?とか、そういう最低条件みたいなのは当たり前としても、それ以上に重要になってくるのは、その都市が提供してくれる「エンターテイメント的な要素」だと思うんですね。何故ならその様な国際会議や国際プロジェクトで一番重要なのは、プレゼンや会議の内容と同等に、ランチやディナー、そしてカフェでのおしゃべりだったりするからです。実はそういう所で大事な商談なんかが決まって行く事の方が多い様な気がする‥‥。そういう舞台にビーチがあったり、気持ちが良い程晴れていたり、もしくは美味しいワインと海産物が並んでたりしていたら、それらがポジティブに働く事はあっても、ネガティブに働く事は先ず無いんじゃ無いのかな?

その様な「良いイメージ」を植え付けられた人達が、自分の都市に帰って行き、同僚なんかに、「ねえ、会議どうだった?」とか聞かれて、「バルセロナ最高だった」なんて言うと、それがそのままバルセロナの広告に成る訳ですよ。正に実写版、ソーシャルネットワークによる広告なり(笑)。


まあ、それは冗談だとしても、都市のエンターテイメント性が、その都市にとっての大変重要な付加価値であり競争力になって行く事は間違いありません。何故なら僕達の社会は全てがエンターテイメントになって行く社会に向かっているのだから。そういう意味で言うと、バルセロナ程、競争力のある都市はナカナカ無いんじゃないでしょうか?ちなみにこの携帯電話の祭典が行われていた3日目の事だったのですが、バルサ対アーセナルの試合があり、バルセロナ中がこの試合の行方を見守っていました。そんな事も手伝って、今回の参加者達にはかなり良い印象を残したのでは?と思います。

次回の開催都市の発表は春先になるそうですが、何処の都市になるのか?今から非常に楽しみです!
| 都市戦略 | 07:11 | comments(0) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
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