地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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スペインの管制官仮病騒動の裏側に見えるもの:実は裏で糸を引いてたのはスペイン政府じゃないの?って話
先週金曜日の午後に始まったスペイン全土の空港閉鎖問題なのですが、各種メディアの発表によると、騒動から3日経った現在、ようやくスペイン各都市の空港は平常に戻って来つつある模様です(地中海ブログ: スペインの航空管制官の仮病騒動その2)。今でもテレビや新聞はそのニュースで溢れ返っているのですが、今日はそれらメディアが絶対に書かない事、もしくは書けない事をメモ程度に記してみたいと思います。初めに断って置きますが、ここに書くのは、あくまでも僕の意見であって、「こういう見方も出来る」くらいに思ってもらえれば嬉しいです。

さて、先週金曜日に起こった今回の騒動なのですが、実は僕はそのちょっと前、水曜日にサパテロ首相がとった「とある行動」に、ある種の違和感を感じていました。


今回の騒動の引き金となったのは、サパテロ首相が先週水曜日に発表し、
2日後の金曜日に閣僚会議で決定した「管制官の労働時間削減法案」だったのですが、先ず第一の疑問として、「何故、内閣はこの時期に、この様な削減法案を急いで出す必要があったのか?」と言う点が挙げられるんですね。と言うのも、先週末はスペイン全土で憲法記念日に関する大連休が始まる週であり、毎年何万人と言うスペイン人達がヨーロッパ各国で連休を満喫する為に空港に押し寄せる為、もしその直前に削減法案なんかを決定すれば、管制官達がストを起こす事くらい容易に予想出来たはずだからです。

つまりここでの焦点は、「スペイン政府は、管制官が先週末、重大な問題を起こす事を予見出来ていたのか否か?」と言う点にある訳なのですが、実はそれを示唆するかの様な行動を、先週水曜日、サパテロ首相がとっています。それが先週金曜日からアルゼンチンで開かれたイベロアメリカ首脳会議(
Cumbres Iberoamericanas de Jefes de Estado y de Gobierno)への突然のキャンセル(2日前)でした。理由は「スペイン国内の経済対策を優先する為」と言うものだったのですが、この会議はスペインと南米諸国の関係を密にする為の大変重要なものであり、第一回目が開かれた1991年から、未だかつてスペインの首相が欠席した事など無かったんですね。その首脳会議を欠席する理由が「国内の経済対策を優先させる為」と言うのは、ちょっと説得力に欠ける。ここが、僕が最初に「違和感」を感じた瞬間でした。

そう思っていた矢先に起こったのが、管制官達の仮病騒ぎだったんだけど、そこからのスペイン政府の手際が、コレ又驚く程良かった。数時間後には、民主化後初となる非常事態宣言
(Estado de Alarma)が出される事になるんだけど、初めてにしては、「待ってました」とばかりにスムーズに事が運んだと言うのが僕の印象ですね。「非常事態宣言は国家の一大事なので、迅速に事が運ぶのは当然だ!」って言う意見もあるかもしれないけど、なんせココはスペインですからね。そのスペインでこれだけスムーズに事が運ぶ事の方が、「非常事態」だと思います(笑)。

更に決定的だったのが、昨日の新聞
(El Pais, 5 de Diciembre 2010)に載っていたホセ・ブランコ(Jose Blanco)勧業相のインタビューでのこの発言です:

記者:昨日の出来事を予想されていましたか?


大臣:全く予想していませんでした。管制官の勤務時間削減法案に対するリアクションとして、彼らが何らかの行動を起こすのではと言う噂は日に日に強くなってきてはいましたが、まさか、このような手段に出るとは思ってもいませんでした。

記者:では、もし予想されていなかったのなら、どうして勤務時間削減法案と同時に、緊急の場合に限り、空港などの公共サービスを軍管理下に置く法案を緊急に閣僚会議(金曜日午前中)で決定したのでしょうか?それらのツールによって、如何なる混乱にも対処出来ると考えたからなのでしょうか?(以下省略)

P:Se esperaba lo de ayer?

R:Sinceramente, no. Porque a pesar de que había un rumor cada vez mas intenso de que iban a tratar de poner en dificultades la navegación aérea como consecuencia de la interpretación sesgada del computo de horas de trabajo, no esperábamos que se hiciera de esta forma.

P:Y si no lo esperaban, porque llevo usted al consejo de ministros un decreto urgente y dos disposiciones para regular el método de computo de las horas de trabajo y poder militarizar el servicio? Creyo que con estos instrumentos legales podría combatir mejor cualquier protesta?


ここで注目すべきは
2点。一点目は、大臣が「その様な噂はあった」と語り、しかしながら、「今回の様な大事に発展するとは思わなかった」と言っている所です。この点に関しては、はっきり言って首を傾げざるを得ません。何故なら、今回の騒動に大変酷似した案件がつい数ヶ月前、バルセロナ空港で起こったばかりで、政府がそっちの可能性を考えないと言う事の方が、むしろ不自然だと思われるからです(地中海ブログ: ブリュッセル出張:Infoday 2010:バルセロナ空港管制官の仮病騒動とか

そして二点目は、この記者が鋭く指摘している様に、金曜日午前中の閣僚会議で、「緊急の場合に限り、公共サービスなどを軍管理下に置く事が出来る法案」を緊急に閣僚会議で決定したと言う点です。今回の騒動は、発生から約
48時間で沈静化に向かったのですが、その大きなターニングポイントとなったのは、「空港が軍の管理下に入った」時点だったのは間違いありません。何故かと言うと、軍の言う事を聞かない管制官は、軍の法律で裁かれる事になるので、それを恐れて早々と仕事に戻ったと言う訳なんですね。しかしこの様な事が出来たのも、この騒動が発生する前に、この法案を閣僚会議で決定していたからだと言う裏事情があります。

何が言いたいか?


つまり、今回、管制官が集団で仮病を使い、空港を混乱に陥れると言う事を、スペイン政府は知っていたんじゃないのかな?そう仮定すると、全ての辻褄があってきます。もっと言っちゃうと、今回の事件を裏で操っていた人物、それは現政権のスペイン労働左派(
PSOE)だと僕は思っています。

何故そう思うのか?


今回の事件では、管制官や観光客と言った、非常に沢山のプレーヤー達が絡んでいたのですが、その中で唯一得をした人物、それが
PSOEだからなんですね。彼らが今回の事件を意図的に起こした理由は主に2つ:

一つ目は、長い間ホセ・ブランコ大臣が調整しつつも、なかなか上手く事が運んでいなかった、「公務員」である管制官が貰っている法外な給料削減案件を、何とか軌道に乗せたかったと言う点。前にも書いたんだけど、管制官は公務員でありながら、一人平均
2000万円もの給料を手にしています。時給にすると、何と184ユーロ!実はここが削減出来るかどうか?が今後のスペイン経済回復の一つの鍵になるかも知れず、と言うのも、この問題は、先日サパテロ首相が発表したスペイン空港の一部私有化とも関わってくる大変重要な問題だからなんですね。

そして
2点目が、カタルーニャ州議会選挙におけるカタルーニャ労働左派(PSC)の惨敗で、全国的にも支持率が急落している労働左派の信用回復をすると言う点。左派の支持率の急落はものすごくて、昨日の新聞によると、24.3%まで落ち込み、野党第一党の民衆党(PP)との差は、18.8%にも及ぶのだとか。

この
2つのポイントを一気に解決出来る策としてPSOEが思い付いた事、それが管制官達を怒らせる事によって、彼らにスト、もしくは違法ストをやらせた上で、PSOEがそれを早急に収めると言うシナリオだったと言う訳なんですね。更に、その時期を大型連休に重ね、多大なる被害を被るであろう国民の怒りの矛先を管制官に向けさせつつ、「管制官には何かしらのペナルティーが必要」と言う世論を創り出し、それを背景に、政府が要求する給料カットと私有化をゆうゆうと進める事が出来ちゃうと言う訳。更にココにはおまけもついて来て、政府の一挙手一投足に野党(PP)は(何も考えず)必ず反対してくるので、PSOEは国民の側、そして野党は管制官側と言う対立図になる事は必死。つまり、野党の評判は落ち、PSOEの評判は上がると言うシナリオも描ける訳なんですね。

多分このシナリオを創ったのは、ルバルカバ
(Alfredo Perez Rubalcaba)もしくは彼の側近じゃないかな?と僕は睨んでいます。そして実は今回の事件を手引きした裏には、もう一つの重要な案件が隠されていて、それがサパテロ首相からの権力委譲なんですね。

今回の事件で重要な発表にはサパテロ首相は一回も絡んで来ませんでした。出て来たのはブランコ
(Jose Blanco)、チャコン(Carme Chacon)、そしてルバルカバ(Alfredo Perez Rubalcaba)。「ここだ」と言う非常に重要な場面では、必ずルバルカバがしゃべっていたと言う事も付け加えておいて良いかも知れません。

最初に書いた様に、今回僕がココで展開したのはあくまでも僕の解釈で、「こんな風にも読める」と言う程度のものです。しかし、支持率が限界まで急落してきて、はっきり言って打つ手無しの労働左派が、これくらい考えてても何の不思議はないですけどね。まあ、単なる
cruasanの独り言です。
| スペイン政治 | 02:10 | comments(0) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
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