地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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エドゥアルド・トロハ(Eduardo Torroja)の傑作、サルスエラ競馬場
前々から訪れたいと思っていた建築、エドゥアルド・トロハの傑作、マドリッドのサルスエラ競馬場へ行ってきました。



各々の都市にはそれぞれ訪れるべき建築が幾つかあるとは思うのですが、マドリッドにおいてこのサルスエラ競馬場は、20世紀を代表する構造デザイナー、エドゥアルド・トロハが残した珠玉の名品であると言う意味において、真っ先に訪れるべき建築の一つに数えられると思うんですね。

では、「そんなお宝中のお宝に何故に今の今まで行かなかったのか?」と言うとですね、実はこの建築、現在も現役の競馬場として使用されている事から、レースが開かれる時しか開いてないらしいんですよ。で、競馬が開かれる時って一体何時なのか?と言うと、マドリッドでは金曜日の午後か日曜日の午前中らしいんですね。しかも毎週行われる訳じゃなくて、その月によって違うって言うんだから、今まで僕のマドリッド出張の予定がナカナカその開催日に合わなかったと言う訳なんです。

で、今回の出張ではカンファレンス(カタルーニャ自動車財団での発表。8人いた発表者の内、僕以外は全員60歳以上。昼食会では話題が自然と定年の話になって、ちょっと焦った(汗))の予定が月曜日の朝一から入っていたので、それに間に合うように前日の夜にマドリッド入りしてれば良かったんだけど、競馬の日程を見たら、何と運良く今週はレースが入ってるじゃないですか!と言う訳で、日曜日の朝、ちょっと早起きして、わざわざバルセロナから出向いて来たと言う訳なんです。

先ず、この競馬場への行き方なのですが、地下鉄6号線のMoncloa駅を出た所にあるバス停前(Intercambiador)から、レースの開かれる日に限り、15分おきに競馬場への無料送迎バスが出ている模様です。それに乗ればものの10分程で到着しちゃいます。思ったより早く着いたのでルンルン気分でバスを降り、「イザ中へ!」と思ってたら、なんか様子がおかしい・・・。みんな、チケット売り場みたいな所に列を作って、入場券みたいなのを買ってるじゃないですか!てっきり競馬ってレース場に入って馬が走る所を見るだけかと思ってたら、なんと入場料が要るんですね!しかも9ユーロも取られた!予想外の支出に「ちぇ」とか思ったのも束の間、次の瞬間、「世にも奇妙な光景」が僕の目に飛び込んできました:



な、なんだー、あの不思議な形をした屋根はー!!!って言うか、有り得なくないですか?あんなの!!特に日本の構造物の感覚に慣れてる僕達の目には、かなり「奇妙なバランス」に映ると思うんですよね。




だって、こんなに薄い屋根がまるで折り紙を折るかの様に、「ふわっ」と載ってるだけなんですよ!もっと言ったら、この屋根がコンクリートで出来ていると言う事すら、ちょっと疑ってかかってしまう程です。



コンクリートって、こんなに薄く、そしてこんなに「軽く」打つ事が出来るんですね。建築を語るのにあまり抽象的な言葉は使いたくないけど、これを見てると本当に「無重力」と言う言葉が心に浮かんでくるかの様ですらあります。ふむふむ、とか思いながら反対側に回って、コレ又驚き!見てください:



半端無いキャンティレバーです。この出方!
圧巻の一言ですね。はっきり言って僕は構造方面にはそれ程明るくは無いのですが、こんな事、出来るんですかね??って言うか、建築家にそのような疑問を抱かせる事自体、それはそれでもう既に物凄い事だと思うんですけどね。



ほら、この一点だけで、あんな大屋根を支えているんですよ!



繰り返しになりますが、これこそ、この建築を見た時の「驚きの起源」だと言っても過言では無いと思います。「これはちょっと凄いなー」とか思っていたら、なんか館内放送で「今から第7レースが始まります」みたいな放送が流れて来た。それと同時に建物からドバッと人が出て来て、それこそアレクサンダーじゃないけど、「出てくるわ、出てくるわ」()



ついでだからと思って、馬が走る所を見てたのですが、最初に思ったのは、「競馬場って結構広いんだなー」と言う事でしたね。あのコース、何メートルあるのか知らないけど、あの距離を全力疾走するのって、馬だって大変だと思いますけどね。そんな事を思いつつ、「殆どの人がグランドに出てる今の内に、内部の写真を撮っちゃおう」と思って、そそくさと建物内部へと入っていったのですが、これが大当たり:



本当に誰もいなかった(笑)。まあ、みんな、今日は競馬を見に来てるんだから、レースをやってる時はそちらを見に行くっていうのは、当たり前と言えば当たり前なんですけどね。



それにしても、内部には支柱の無い、大変気持ちの良い空間が広がっています。天井が少しカーブしている事により、抱擁されている様な温かい感じの空間に仕上がっています。実はここに入った時、何かしら違和感と言うか、「あるべきモノがあるべき所に無い感じ」を受けたのですが、この時はそれが何なのかはイマイチ分からず。そんなムヤムヤした気持ちのまま再び外へと出たのですが、やっぱりこの屋根のシルエットは強烈だなー。



そんな中でも僕が注目したのがこの部分です:



この建築の基本デザインと言うのは、部分ユニット(ボールト)を決めておいてそれを無限に繰り返していくと言う手法によって決定されていると思うのですが、こういう時、非常に難しいのが「端部をどう終わらせるか?」と言う問題なんですね。そしてそこに「建築家のデザイン力」を見る事が出来ると思うのですが、この建築はこんな風になっていました:



ほら、端っこの2つのボールト部分を取り出して、そこに特別なデザインを与える事によって、単調になりがちなデザインを引き締めているのが分かるかと思われます。そして一番端っこのデザインを「敢えて途中で止める」事によって、「今にも飛び立ちそう」と言う感覚を増長しているんですね。このような、「敢えて形態を途中で止めて、その後の姿を予想させつつ、形態に動きを出す」って言うデザインは、日本だと槙さんが幕張メッセのメイン会場でやられていると思います。



幕張メッセの様に、これだけ大きな構造物になると、どうやって周辺に威圧感を与えず、且つ軽い感じを出すかが非常に重要なポイントになったと思うんだけど、それを、緩やかに湾曲する屋根と、そして全体の8分くらいの所で一旦曲線を終わらせておいて、それをもう一度飛翔させる事により、まるで、「その屋根自体が飛び立つかの様な感覚」を醸し出す事に成功していると思います。さて、そんな事を思いながら、横に回ってみたのですが、これが又、カッコイイんだな!



これこそ、「設計は断面からすべし!」って言うお手本の様なものですね。実はこの建築は現在大規模な改修中なのですが、その部分を見てみると、この建築の「秘密」が垣間見えてくる様で大変興味深い。




トロハの(数少ない)作品集なんかをめくると良く目にするのが、この印象的な大屋根と、それを支える支柱の写真だと思うのですが、それらの写真が僕らに与えるイメージと言うのは、あたかもこの建築がこの支柱一点のみで支えられているかの様な印象だと思うんですね。しかしですね、実は現場に来て見ると、この支柱の後ろに、細いもう一本の支柱がある事に気が付きます:



「あ、やっぱねー、こんな大きな屋根をあんな小さな一点のみで支えられるはず無いじゃん」とか、その時は思っていたのですが、ホテルに帰って競馬場の情報を探していたら、以前バルセロナに滞在され、構造方面からデザインを展開されている森田一弥さんのブログに大変面白く明確な構造解説がされていたので、ちょっと紹介したいと思います。

「‥‥今まで写真で見ていたときは、屋根のシルエットだけに注目してみていたのですが、よく見ると屋根の裏側の鋼管で屋根の先を支えながら、同時に入り口部分を吊り上げているのです。このおかげで競技場の下のエントランス部分にも荷重を支える柱が現れず、開放感のある気持ちのいい空間になっています。」(そうだ、トロハ、行こう@マドリード、建築家+左官職人 森田一弥の写真日記

な、なる程!僕が下階の内部空間に入った時に感じた違和感はこれだったんですね!!さすが森田さん、素晴らしい解説です!!


人間って自分の予想しなかった風景に出会った時、もしくは自分が想像出来ない様な光景に出会ってしまった時に心の底から感動すると思うんだけど、今回の体験は、全く僕の想像を超えていた事から、近年稀に見る感動を味わう事が出来ました。ありがとう、サルスエラ競馬場。そしてありがとう、トロハ!
| 旅行記:建築 | 17:35 | comments(2) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント
おひさしぶりです。いやー、ついに行っちゃいましたか、トロハの競馬場。今まで情報不足もあってここに行ったことのある日本人建築家に会ったことがなかったのですが、このブログの情報のお陰で日本人の来訪者が増えるはずです!僕は不法侵入して退去させられたのですが、競馬開催の日に行けたのほほんとうにうらやましいです。以前からメンテもされたようで、相変わらずすばらしいですね、この建築は。コンクリートという素材でこんなことができるんだ、という驚きと、それを引き出している人間の叡智への感動と、スペインに伝わるレンガ積み工法カタランボールトの造形的伝統を未来へと受け継ぐことによる歴史への敬意と、すべてを高度なレベルで実現してしまっているんですよね。我々もいつかこんな仕事がしたいですね。
| もりかず | 2010/12/09 9:43 AM |
もりかずさん、こんにちは。お久しぶりです!
いやー、とうとう行っちゃいました!!そして物凄く感動しました!
あんな事が出来るんですね、正に人類の創造力の勝利だと思います。
それと同時に、やはり、もりかずさんの目の良さ、構造などの理解力の深さには頭が下がります。

そうそう、この競馬場、なかなか情報が無いんですよね。本当にコレを機に、沢山の日本人建築家の方が訪れる事を願うばかりです。
| cruasan | 2010/12/12 7:52 PM |
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