今週はマドリッドで欧州委員会の人達と打ち合わせがあった為に、何時にも増して一週間が慌ただしく過ぎていった様な気がしたんだけど、そんな中、先週の月曜日にふとした事がキッカケで、FCバルセロナ(バルサ)の本拠地、カンプ・ノウ・スタジアムと、そこに併設されているバルサ・ミュージアムに行く機会がありました。
僕はそんなに熱狂的なバルサファンと言う訳では無いので、毎週末カンプ・ノウにバルサの応援に行くと言う事はあまり無いのですが、それでも今までに何回かはこのスタジアムに足を運んだ事はあったんですね。収容人数98600人を誇る欧州最大のこのスタジアムの中に最初に身を置いた時の興奮は、今でも昨日の事の様に覚えています。10万人もの人々が、ゴールが決まりそうになる度に悲鳴の様な歓声を上げると、正にその度に空気が振動する様なあの感覚!あの臨場感!
そんなスタジアムの真横に併設されているミュージアムは、実はバルセロナに数多く存在する美術館/博物館の中でも、ピカソ美術館に次ぐ集客力を持つ協力な観光スポットなんだけど、今まで一回も行った事が無かったんですね。そんな訳で今回は「良い機会」とか思って、かなり軽い気持ちで行ったんだけど、これが予想以上に面白かった。
先ず、長-い列に並びチケットを購入すると、そこから真っ直ぐに延びるブリッジを渡りスタジアムへとアプローチして行く事になります。実は今日は全く建築的な質なんかには期待してなかったんだけど、このアプローチ空間に関しては、「今からスタジアムに入って行くぞ!」って言う気持ちを整える空間として見事に機能している様な気がしますね。そしてここには国内外に良く知られているFC Barcelonaの、こんなスローガンが掲げられています:
「クラブ以上の存在(MES QUE UN CLUB))
そう、カタルーニャにとってバルサと言うチームは、一つのサッカークラブ以上の存在として捉えられ、正にカタルーニャのアイデンティティそのものであり、民主化運動の歴史そのものだと考えられているんですね。
何故か?
何故ならカタルーニャが徹底的に虐められていたフランコ政権下においてさえも、心おきなく「ヴィスカ!(万歳)」と(当時は禁止されていた)カタラン語で叫ぶ事が出来た唯一の公共空間がカンプ・ノウであり、レアルマドリッド対バルサの一戦に限っては、フランコ対反フランコと言う、云わば、代理戦争そのものの様相を呈していたからなんです。まあ、フランコ政権側としては、圧政下での「ガス抜き」と言う意味合いもあった様ですけどね。
そんな遥か昔に思いを巡らせながらミュージアムの中に入っていくと、あるわ、あるわ、お宝が!
110年と言う長―いクラブの歴史を示すかの様な、歴代の優勝カップやらメダルなんかが所狭しとガラスケースの中に立てかけられているじゃないですか!しかもその数が半端じゃないし。
タッチパネルなどの最新技術を用いて、歴史に残る名勝負の数々を思う存分楽しむ事が出来る仕掛けなんかは、ファンにとっては嬉しい事この上ないはずです。
ここを抜けると選手達が普段使っているロッカールームやら、実際に記者会見などをするプレスルームなんかを通り抜ける事になるんだけど、観光客の皆さんにとって最も嬉しい瞬間、最も興奮するであろう、この博物館のクライマックス的な空間はココでしょうね:
バルサの選手がフィールドに入ってくる時に駆け下りてくる通路です。実はこの通路、両サイドに仕掛けられたスピーカーから、実際の試合時に録音したと思われる観客の歓声や拍手が流されていて、あたかもバルサの選手になり切った様な気分を味わう事が出来る空間になっているんですよ!「いやー、これは気持ちがいい!」。「こんな感じで選手はフィールドに立つんだなー」と言う事が、正に五感を通して伝わってくるかの様です。そしてその先に待っているのがこの空間:
約10万人収容の欧州最大規模を誇るサッカースタジアムの全貌です。これはスゴイ!圧巻の風景。
向こう側にはさっきも見たバルサのスローガン、「クラブ以上の存在(Mes que un club)」と言う文字が座席に掲げられています。
実際の試合ともなると、このスタジアム全体を10万人もの人々が埋め尽くし、その人達が阿吽の呼吸で掛け声とかするんですから、それはそれで(ある意味)恐ろしい光景が目の前に広がる訳ですよ。10万人って言ったら、関ヶ原の合戦の徳川軍よりもちょっと多いくらいの人数ですね。と言う事は、当時の関ヶ原の合戦では、「これだけの人達が家康の「いけー」とか言う掛け声にのって、一斉に傾れ込んだのかー」とかちょっと訳の分からない事を考えてしまった(笑)。
さて、この圧巻の風景が広がるグランドを抜けると最上階に位置するプレスルームへと導かれるのですが、ここは全面ガラス張りで、試合が一望出来る、正に特等席になってます。
これは見やすいなー。テレビで見るのとほぼ同じ感覚です。
歴代選手のユニフォームやスパイクの陳列、そしてバルサの歴史から始まって、選手のロッカールームだとか、スタジアムを堪能しまくった後は、ファンならずとも気持ちが高ぶってくると言うもの。そこを逃すまいとちゃっかり攻め込んでくるのがバルサのマーケティングのすごい所なんだけど、このルートの最後には何と、合成技術を使った、「メッシと一緒に記念撮影」みたいなコーナーがあるんですね。
これが結構高いんだけど(一枚確か10ユーロとか(詳細は分からず))、やっぱりみんな興奮してるから、メッシと一緒に写真撮影したいと思うんだろうなー。
だって、こんなに並んでるんですよ、この合成写真の為に!そして最後のダメ押しがコチラです:
バルサのオフィシャルショップ。こちらでは選手のロゴが入ったユニフォームだとか、マグカップとか売ってるんだけど、興奮状態の中でこういうの見せられると、それだけで買いたくなっちゃうのが人情と言うもの。子供にせがまれた親も、「今日くらいは」って財布の紐が緩くなっちゃうのも分からないでも無い。
うーん、この建物全体を最大限に利用したマーケティングはちょっとスゴイかも。人々の気持ちをどうやって高揚させるかを考え抜いた末に、ある一つの物語を考え出し、それを一つのルートに乗っけて実践していく巧みさ、そしてその戦略性には舌を巻くものが有ると思います。更にスタジアムと言うのは試合をやってる時以外は「もぬけの殻状態」なので、メンテナンス費用がかかる分、放置しておくとその分だけマイナス費用を生み出すお荷物な訳ですよ。そこにちょっとした飾り付け(展示物)をして、ルートを設定するだけで、「金の卵を産む鶏」に変えてしまったのだから、その手腕は素晴らしいと言わざるを得ないと思いますね。
バルサの試合には毎回興奮するけど、「それ以外にも実は見るべき所はある」と言う事を痛感させられた今回の訪問でした。正に「ゴールは偶然の産物ではない!実はその裏には物凄く巧妙に張り巡らされた戦略と言うものが潜んでいるんだ!」と言う事を、正に体験を通して見せ付けられたバルサ・ミュージアム初体験でした。
追記:
今年(2016年)最後のリーグ戦(12月18日、エスパニョール戦)でメッシが4人を抜き去る神業ドリブルを披露!La Vanguardia紙(12/20)は見開きで詳しすぎる解説を載せています。