地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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オープンハウス in バルセロナ(48 OPEN HOUSE BCN)その1:ジョセップ・リナス(Josep Llinas)のInstitut de Microcirurgia Ocularに見る視覚コントロールの巧みさ
先週末バルセロナでは、普段はなかなか入る事の出来ない名建築の数々を2日間だけ一般公開すると言う大変嬉しいイベントが行われていました。

建築家が創った作品って、雑誌に掲載されて発表される事が多いと思うんだけど、それらの多くは私企業のオフィスだったり、集合住宅だったりして一般には公開されない事が多々あるんですね。でも建築って、写真では伝わらない「何か」が実際の空間の中に存在し、そういう、「写真では決して映らない質」を持った建物の事を「建築」って言うと思うんですよね。逆に言うと、写真で見るだけで十分な建物の事は建築とは言わないとすら思える程です(そして近年では、実物よりも写真写りが良い建物というのが結構増えてきているという大変憂うべき状況にいるんですけどね)。


そんな数少ない本物の建築の空間を「是非この目で見てみたい!」、「是非中に入って実際の空間を体験してみたい!」、建築家と言うのはそんな欲求を常に持っている訳なのですが、そんな建築家達のワガママな要望に応えてくれるイベント、それが今回バルセロナで企画された
48 OPEN HOUSE BCNと言うイベントな訳です。



って言っても、実はこのようなイベントは世界中の都市で行われていて、例えばロンドンの
Open House Londonなんかは良く知られている所だと思います。確か毎年9月の第二週目の土日を使ってロンドン中の名建築を一般公開してたはずなんだけど、昨日の新聞に載ってたデータによると、何でもその2日間でそれら建築を訪れる人の数は275千人にも上るのだとか。まあ、リチャード・ロジャースのロイズ銀行とか、ノーマン・フォスターの事務所とかに入れるんだから、そんなに驚くべき数字では無いとは思うんですけどね(地中海ブログ: ロンドン旅行その5:Richard Rogers( リチャード・ロジャース)の建築:Lloyd's of London、地中海ブログ: ロンドン旅行その4:Norman Foster (ノーマン・フォスター) の建築その2:スイス・リ本社ビル )。

さて、今回バルセロナで催されたイベントでは、市内で約
130程の建築が一般公開されたそうなのですが、勿論それら全てを回る事なんて出来るはずも無く、最近はあまり使っていない僕の頭をフル回転させて悩みに悩んだ末、2日間で回るcruasanの特別建築ツアーリストを作っちゃいました。その記念すべき初日に訪れるべき作品に僕が選んだのが、何を隠そうジョセップ・リナス(Josep Llinas)Institut de Microcirurgia Ocular(眼科関係の病院)だったと言う訳です。

ジョセップ・リナスと言う建築家については、以前のエントリで何度か取り上げたのですが、現在星の数程いるスペイン人建築家の中において、空間をきちんと創る事が出来且つ、建築空間で人を感動させる事が出来る数少ない建築家だと僕は思っています。 そしてあまり知られてないんだけど、実は彼は熱烈なジュジョールのファンで、タラゴナにあるジュジョールが設計したメトロポール劇場の増改築なんかも手がけているんですね。そんな彼がデザインした最新作だからこそ、沢山の他の魅力的な建築を差し置いても、初日の今日、一番に訪れようと思った訳なんです。と言う訳で早速行こうと思って場所を調べてみてビックリ!




バルセロナ市街が一望出来る山の手、しかも無茶苦茶行きにくい場所に建ってるじゃないですか!こんな山の上には地下鉄も通ってないし、バスも
60番とか言う、ものすごいマイナーな線しか走ってない。普通に行ったら地下鉄とバスを乗り継いで1時間くらいかかるんじゃないか?と思われたので、しょうがないからタクシーで行く事に。そんな結構苦労して辿り着いた今回のお目当てがコチラです:



じゃーん、第一印象は「屋根の波々デザイン」大爆発って感じですね(笑)。まるで折り紙をクネクネさせて創ったみたいなー。これは最近彼が頻繁に使う形態言語で、図書館とかにも使ってるのですが、まあ、「見事だな」と思うのは、普通これだけクネクネやったら、ゴチャゴチャしたり、訳が分からなくなったりして汚くなるのが常なんだけど、彼の場合は不思議と形態がそれなりに纏まっててクドくなってないんですね。




さすがにその辺は良く考えてて、例えば一番手前の屋根の角度と伸びはゆったりとさせておいて、それをこの建築に流れる物語の「序章」としつつ、真ん中部分のクネクネ度が最高に盛り上がる部分へと受け流しています。そして、そのクライマックス的な部分がそのまま最高潮気分では終わらず、少しリズムを整える感じで静かに終わっている。




更にその終わり方も、オープンエンドにせず、少しキックさせて(折り返して)終わっているので、結構締まりが良いんですね。これがこの建築をパッと見た時の印象なんだけど、これだけ見ただけでも、彼が徒者では無い事が容易に分かるかと思われます。




そしてここがこの建築の導入部分なんだけど、屋根のデザインを縞々にする事によって、そこから漏れる光に緩急を付け、「こっから先は別世界ですよ」って言う境界を大変上手く表現しています。更にこの部分にはもう一つ重要な(隠された)機能があって、それが視界コントロール機能なんですね。この建築は高台に建っている為、人の意識や注意は嫌でも素晴らしい景色の方にいってしまいがちなのですが、今まで見放題だった視界をこの導入部分を使ってある程度限定しつつ、「風景から建築(屋根のダイナミック性)」へと人の意識をコントロールする意図が伺えます。「む、む、む」と思いながらも、言われるままに進んで行くと、現れてきました、この建築の特徴が:




何重にも折り重なったクネクネ屋根の特徴を存分に生かした空間です。屋根の重なりの高低差によって、空間にダイナミックさと抑揚を上手い事付けている。




更にこの屋根部分には2種類の異なった材料が組み合わされていて、一つは真っ白の部分で光を通すと言うよりは、下からの光を反射する部分。そしてもう一つはアルミのパンチングパネルの部分で、光を柔らかく透過させる屋根と言った具合です。これら2種類の屋根を上手く使い分け、組み合わせる事によって、この空間に大変面白い効果を生み出しています。それが最も良く現れているのがコチラです:




エントランス前に広がるこの空間なんだけど、パンチングパネルから柔らかくこぼれ落ちる光と影、そして燦々と光り輝くあちら側の風景、更に屋根の重なりの隙間からチラチラ見える空の青なんかがモザイクの様に重なり合って、見事な空間を演出しています。




それは下階に行って屋根を見上げた時や、逆に上階に行って屋根を見下ろした時に、ものすごく痛感する事でもあります。




見る角度や場所によって、「これって本当に一つの建築の風景なのか?」ってくらい、多様な風景が目の前に立ち現れるんですね。




歩いて行くと、ほら、こんな感じで思いもよらなかった所から空が見えたり、あっち側が見えたりして結構楽しい。これらと同時にもう一つ重要なのが、やはりこの建築を通して見られる視界コントロールだと思うんだけど、それは簡単に言うと、「開いて閉じて、閉じて開いて」って事なんですね(笑)。




導入部分を抜けると、左手側に街を見下ろす素晴らしい風景を存分に楽しむ事が出来る廊下部分が続きます。物語の流れとしては、ここで「パッ」と視界を開くと言う流れだと思うんだけど、さっきから強調してる屋根の織りなすダイナミックさに少し押されて、どちらかと言うと風景はあまり目に入らない様になっているんですね。つまりココではその風景を「じーっと楽しむ」と言うよりは、チラ見で終わっていると言った方が良い様な気がします。そしてこれこそ、彼がココで展開している視界コントロールの妙な訳ですよ!そしてこの後に来るのがエントランス部分です:




まあ、このエントランスは普通かなと思うんだけど、ここからの空間構成が面白かった。見てください:




この風景は僕が今入って来た入り口部分を振り返り様に撮影しているのですが、入り口のドア(右側)と、次の部屋へと続くドア(左側)が同じラインに並んでいる事が分かるかと思います。つまりこの建築は、次の部屋に進む為に、来客者に対してエントランスを入った進行方向に対して
180度ワザワザ回り込ませる事を強制しているんですね。そんな事をする理由はただ一つ。今来た風景とその向こう側の風景を見せたいからです。次の部屋の風景がコチラ:



ほらね。右手側は全面ガラス張りで燦々と太陽光が降り注ぎ、天井が高く、大変気持ちの良い空間となっています。そしてそこから見える風景はこの立地が最大限に生きる風景、高台から街を一望出来る風景になっているんですね。つまり、さっき「チラ見」させた風景を、エントランス部分で一度遮断し、回り込ませてからもう一度見せる事によって、ドラマチック性を演出し、来館者にとって「忘れられない風景」を提示してる訳なんですよ。そしてこのロビーに来て初めて、来館者はゆっくりと座りながらこの風景を楽しむ事が出来る様になっている訳です。


さすがに熟練だけあって、その辺の操作は抜群に上手い!加えて、ナミナミ屋根の形態とその効果も抜群!!良かった。非常に満足な建築体験でした。


オープンハウス
in バルセロナ(48 OPEN HOUSE BCN)その2:ジョセフ・ルイス・セルトの建築へと続く。
| 建築 | 06:33 | comments(2) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント
初めまして、いつも面白く拝見しております。

今回のリナスの作品ですが、斬新なデザインで
美術館みたいですね。

Googleで検索しようとしたらなかなか見つからず、
綴りの違いを発見
“Institut de Microcirurgia Ocular”(カタラン?)
“Instituto de Microcirugía Ocular”(標準語?)
  http://www.imo.es/ (URLが短い!)
公式には共通語、壁面には地元の言葉と使い分けて
いるということでしょうか。

ちなみに、今ならGoogleのマップ(航空写真)と
ストリートビューで建築中の様子が見られます。
| orso maggiore | 2010/11/03 12:00 PM |
orso maggioreさん、はじめまして、こんにちは。コメントありがとうございます。

これ、ストリートビューで見れるんですか!知らなかった・・・。
技術の進歩と言うのはすごいですね。今朝も、先日行われたクールジャパンのカンファレンスの模様をUSTで生中継で見たと言う事を聞いたばかりですし・・・。そのうち、本当に何処でもドアとか出てきそうな予感がします(笑)。

ちなみに、上のつづりはおっしゃる通り、カタラン語とカステリャーノ語の違いです。
| cruasan | 2010/11/03 8:23 PM |
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