地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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スペインのゼネスト2010が終わった後で:スペイン人はゼネストやった後に、「あれ、何で俺達ゼネストやったんだ?」って考える?
前々回のエントリやTwitterの方で繰り返しお知らせしたのですが、今週水曜日(929日)、スペイン全土でゼネストが行われました。「スペイン、労働者、バルセロナ・・・」、これらのキーワードで即座に思い付く事と言えば、ジョージ・オーウェルの「カタロニア賛歌」なのですが、1936年、若きオーウェルがバルセロナで目にした光景、それは紛れも無く、カタルーニャの労働者が最も輝いていた時期だったんですね。

「当時のバルセロナの様子には、目をみはらせ、人を圧倒するものがあった。労働者階級が権力を握っている町に来たのは、ぼくにはこれが初めてだった。ほとんどすべてのビルディングが、労働者によって占拠され、その窓からは赤旗が、アナーキストの赤と黒の旗が垂れていた。壁と言う壁には、ハンマーと鎌や、革命党の頭文字が描かれていた。」(カタロニア賛歌)

バルセロナの労働者に関してはこんなイメージが最初にあり、そして個人的には人生初めてのゼネストだった事も手伝って、今回は正直かなりビビってたんだけど、終わってみれば普通の水曜日と殆ど変わらない一日で「ちょっと拍子抜けした」と言うのが本音ですね。

公共交通機関も朝と夜は事前通告通り(バルセロナでは25%、マドリッドでは50%)稼動していたようだし、何時も行くカフェもレストランも通常通り営業してたし、まあ、変わった事と言えば、近くにある大学に学生が全く居なくて大変静かな平日だった事と、毎日読んでる新聞2紙(El país, La Vanguardia)がものすごく薄くて、クロワッサンとコーヒーを飲み終わる前に読み終わってしまったと言う事くらいでした。



それでもバルセロナ中心街では一部、ゼネストとは全く関係の無い、政府や市当局などに不満を持っている若者や、ただ暴れたいだけの輩なんかがこの期に便乗してパトカーを燃やしたり、街中の店舗のガラス、電灯やゴミ箱など公共物を破壊・破損したりしていた様です。ちなみに僕はこのパトカーが燃やされている事実をウェブで知ったのですが、最初はてっきりゼネストによるものだとばかり思い込んで、

「今日のスペイン全土を巻き込んだゼネスト関連で、予想されていた通り、一部の過激派が警察のパトカーとか燃やしてるらしい。特にバルセロナ大学前の広場とかすごい事になってるとか。」

Twitterでつぶやいたら、「フランスの日々」のMadeleine Sophieさんが

「フランスではパトカーに火は無い気がする」

と言われていたのは印象的でした。

多分フランスではスペインよりも頻繁にストライキなどが行われる事などから、その辺の事情にお詳しいと思われるのですが、ごもっともな意見です。何ってったって、ゼネスト関連じゃ無かったんですから。逆に言うと、ゼネストとは関係の無い所でこのような破壊工作が行われ、それがメディアに取り上げられ、今回のゼネストの一般的なイメージになってしまった事は大変悲しい事であり、そんなゼネストと言うお祭りに便乗する事でしか、自分達の存在をアピール出来ない、バルセロナのAnti-Sistemaを名乗る皆さんの程度の低さを表出してしまいましたね(ちなみにAnti-Sistemaの皆さんは、この日の為にわざわざバルセロナに集結したそうなのですが、何故マドリッドや他の都市ではなくバルセロナなのか?と言う事は、カタルーニャがバスク地方と並んで、スペインの中で最初に労働運動を発生させた先進的な地域であり、それは最初の労働者団体が出来る1840年に遡ると言う事と関係ありそうなんだけど、それを書き出すとちょっと長くなりそうなので又今度)。

まあ、そんなこんなで、今回はその後の分析とか特にするつもりも無かったんだけど、何時も見てるブログ、Barcelona +++Tankenに「cruasanさん、ゼネストの分析ヨロシク」みたいな事が書かれていたので、「まあ、そういう事だったらちょっと書いてみようかな」と思い、メモ程度に記しておこうかと思った次第です。

って言っても本当に書く事とか無いと思うんだけど、翌日の新聞に載ってたサパテロ首相についてのコメントとかはちょっと面白かったかな。と言うか、分かり切ってた事なんだけど、彼の「苦悩」が窺い知れる内容だったんですね。

今回のゼネストを計画、遂行したのはスペインにある2大労働組合、UGTCCOOなんだけど、現スペイン政権の労働左派(PSOE)は党員の約60%がUGTに加盟していると言う事実からも分かる通り、UGTとは結成以来、約1世紀もの間、円満な夫婦関係にあるんですね(一時離婚したけどね)。かく言うサパテロ首相もUGTのメンバーであり、地元の新聞、しかも労動左派の広報紙であるEl Paisなんかは、2002年のアスナール政権下で行われたゼネストのデモ行進の中にしっかりと参加している、当時のサパテロ首相の写真なんかを掲載したりしていました。



こんなんだから、政府側もおおっぴらに今回のゼネストを批判出来ないと言うのが実情。木曜日に発表された政府の公式見解は「そこそこの成功」。コルバッチョ労働相なんかはこんなコメントを発表したりしています:

「今回のゼネストの成功の度合いは各分野、そして各地においてバラバラだった(el seguimiento ha sido desigual, por sectores y territorios)」

つまり、今回のゼネストは政府側から見れば明らかに失敗だったのに、それを失敗と直接言わず(もしくは言う事が出来ず)、かなりオブラートに包んで、“Desigual”と言ってる。確かに大企業の生産工場なんかでは労働者の参加率が非常に高く、それなりの成果を上げてたみたいなんだけど、その他の分野では明らかに失敗であり、少なくともゼネスト=社会全体を巻き込んだストライキと言うには程遠い、と、まあ、こう言いたいんだと思います。

個人的に興味深かったのは、ゼネストのインパクトを計る指標を何処から持ってくるか?と言う問題でした。当然こういう指標って言うのは、政府側と労組側でそれぞれに優位な数字を示す為、そこには明らかなバイアスがかかっているんだけど、例えば、今回マドリッドのデモ行進に参加していた人数を、労組側は50万人としているのに対して、El Pais95千人としていたり、バルセロナでのデモ行進参加者数については、労組側の発表では40万人だったのに、La Vanguardiaでは10万人と言った様に、全く違う数字が出てたりします。じゃあ、もっと客観的なデータは無いのか?と言うと、こういう時、消費電力の落ち込みデータを用いるそうなんですね。つまり、その日の消費電力の落ち具合を見る事によって工場やお店なんかがどれくらい活動していたか?が分かると言う訳です。



今回発表されたデータでは14.7%の落ち込みを示していたらしく、これは2002年に行われたゼネスト時の消費電力の落ち込み、20.5%の約4分の3程度だったそうです。まあ結果としてみればそんなもんかなと思うんだけど、こういう時、消費電力を見ると言うのは知らなかった。ちょっと驚き桃の木。

もう一点僕が注目した点は、前回のエントリでも指摘した事なんだけど、過去に行われたゼネストを見る限り、ゼネストが現政権の「終わりの始まり」を引き起こしていると言う点、つまり今回もこれは当てはまるのか?と言う点ですね。

2002
年に行われたアスナール政権は右派だったので労働組合は当然の様に反発したんだけど、その前に行われたゼネスト、1996年時のゴンザレス政権は現政権と同じ労働左派政権。この時は、労働法改正を要求していた労組と折り合いが付かず、結局、誕生から一世紀もの間、ずっと円満な夫婦関係を続けてきたUGTと労働左派は離婚すると言う結末となり、その後に行われた総選挙で政権を右派に奪取されると言う結果に終わりました。

では今回はどうか?

昨日の新聞によると、サパテロ政権はそれまで頑なに否定してきた年金改正法の見直しを始めると言う妥協案を示したのですが、それに対して労組側は「年金問題だけではなく、雇用システムを含む全ての社会政策の見直し」を迫っている為、両者の歩み寄りは今の所見られない様です。とは言っても、最終的にはどちらも妥協して再び歩み寄りを見せるとは思うんですけどね。

それにしても、バルセロナのカフェなんかで人々が話している事が結構的を得てるんじゃないかと思うのですが、「どうせゼネストやるなら法改正の前にやらなきゃ意味無いんじゃないの?何で、法が国会を通った後にゼネストやるの?」

全くその通り!全くその通りなんだけど、なんでやらなかったかって、多分夏休みとか冬休みとか、復活祭とか、そういう大型連休と重なって、「もうちょっと後で、後で」とか言ってる間に改正法が国会を通っちゃって、でも「一応何かやっとくか」って事で、今回のゼネストに至ったって言うのが本音じゃないのかな?もしかしたらヨーロッパで良く言われるジョークが、今回の状況を良く現しているのかも知れません:

フランス人というのは走り出す前に「何故走るのか?」を考えてから走り出す。イギリス人というのは「何故走るのか?」を走りながら考える。スペイン人というのは、「何故走るのか?」を走った後に考える。

つまり、この今回のゼネストも、「やったー、終にゼネストやったぞー!あれ、でも何で俺達ゼネストやったんだ?」みたいな(笑)。だからスペイン人って面白い!
| バルセロナ都市 | 03:36 | comments(4) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント
クルワさん(勝手に省略するなって?)、記事のリクエストにも答えてくれるんですねー、お優しい。

2002年の時はカタルーニャ広場のすぐ近くに住んでいたので、抗争などを目の当たりにして、あーあ、ひでーな、と思ったものですが、今回はごくセントロに近づかなかったので、まあそれほどでも、という感想です。

これ絶対法改正前にやるべきでしたよね。今回はやる前から、「あんま意味ねーし」みたいな空気が流れてましたし。

電力でゼネストの盛り上がりを計るとは、ほんと意外でした。ふむふむ、また賢くなった(ような気がする)。

ところで店舗によって若干変わるのか分からないけど、Fornetのバタークロワッサン、端っこカリッとしてて後からホロホロ、ってな感じが美味しいですよねー。同じチェーン店でもPaulのクロワッサンは、ベチョ系なのでいまいち。その他のパンとかケーキはPaulの方が好きだけど。

あ、そうそう、クルワさん、いつも私のブログ読んで下さってるんですね、誠にありがとうございまする。でも今日のクルワさんの記事読んで間違って私のブログに来ちゃった方達、この二つのブログのギャップにとまどっちゃわないかしらん?
| ay | 2010/10/04 9:10 AM |
Ayさん、こんにちは、クロワです(笑)。そんな風に呼ばれたのは初めてで、なんかとっても新鮮な感じがします。

今回のゼネスト、何がひどかったって、やっぱりアンチシステマの皆さんの品行ですよね。この機をちゃっかり利用して、その辺壊すわ、盗むわ、燃やすわ、やりたい放題だったようです。これはちょっと悲しいなーと思いました。

実はこの間、友達に教えてもらってPaulのアップルパイ食べたんですが、もう、無茶苦茶美味しかったです。僕が行ったのは、Valencia-Enric Granadaのお店なのですが、ホッペが落ちるくらいの美味しさでした。良かったら一度試してみてください。

Barcelona+++Tanken、何時も読んでますよー。はてなブックマークにも登録して、次の更新は未だか、未だかと楽しみにしています。全く知らないカフェ情報とか載ってって、結構活用させてもらっています。これからも楽しみにしています!
| cruasan | 2010/10/06 6:23 AM |
こんにちは、クロワさん(笑)
私も今回のセネストが意味不明すぎたので、興味深く拝見しました!あの暴走は便乗でしたか、やはり。。。そしてスペイン人、走った後に考えちゃったんですね・・・jaja

データの面白さと言えば、W杯のとき水の消費を新聞に載ってて笑えました。最初は視聴率かと思ったら、試合後に一斉にトイレに皆が行くので、どれだけの人が試合観戦してたかをうかがい知るものでした。視点の違うウマイ情報だなぁと。
| Ana | 2010/10/06 7:23 PM |
Anaさんも、クロワさんですかー!!(笑)。
確かに短くて呼びやすいですけどね。

W杯の水の使用データは全く知りませんでした。とても面白い視点ですね。確かに、みんな一斉にトイレに行くので、情報の質としてはかなりの信憑性があると思います。
貴重な情報どうもありがとうございました!

| cruasan | 2010/10/07 4:39 AM |
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