地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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バルセロナの古本市2010
今週辺りからバルセロナはぐっと気温が下がり、朝方毛布が必要な時期になってきました。人間って勝手なもので、無茶苦茶暑かった時には「早く涼しくなれ!」とか思ってるんだけど、イザ涼しくなって見ると、「やっぱ暖かい方が良いよな」とか言ってる自分がいる。何て身勝手な生き物なんだ!僕だけか?(苦笑)でも、こういう矛盾した感情を抱えてる生き物こそ人間と言う証なんだし、そういう時こそ、「あー、生きてる」って実感出来る瞬間でもあるんですよね(と、そういう事にしておこう(冷汗))。

さて、毎年この涼しくなる季節にバルセロナの中心街で行われる僕が非常に楽しみにしている年中行事があります。それが一年に一回開かれる、バルセロナ青空古本市なんですね。



カタルーニャ広場からカサ・バトリョがある辺りまで、グラシア通りの両脇に所狭しと並べられたテントの中には、沢山の古本や古地図がずらーっと並べられ、古本好きのカタラン人や観光客で例年大賑わいを見せています。かく言う僕も昔から古本が大好きでこのお祭りを大変楽しみにしている者の一人なんですが、何故に僕が古本市が好きかと言うとですね、それは「予定調和的では無い出会いが待っているから」なんですね。これは僕が旅行好きと言う事と関係しているのかも知れないんだけど、僕にとって、旅行の醍醐味と言うのは全く予期せぬものとの出会いにあると思うんですよ。「事前に調べ上げて現物を見に行く」って言う楽しみも勿論あるんだけど、個人的には全く予想もしなかったものと出会った時の方が感動が大きいんですよね。それが一昨年偶然にも発見したベルニーニであり、昨年不意に出会ってしまったカミーユ・クローデルだったりした訳です(地中海ブログ:ベルニーニ(Bernini)の彫刻その1:サン・フランチェスコ・ア・リーバ教会(San Francesco a Ripa)にあるルドヴィーカ・アルベルトーニ(Beata Ludovica Albertoni)、地中海ブログ:パリ旅行その5:カミーユ・クローデル(Camille Claudel)の芸術:内なる感情を全体で表している彫刻作品、もしくは彼女の人生そのも

古本市もこれと同じ事が起こり得て、4年程前に全く偶然出会ってしまった本がコチラでした:



プッチ・イ・ボアダ(Isidre Puig i Boada)さんと言うガウディ研究の方が書かれたコロニア・グエルに関する本なのですが、とある古本屋のテントの片隅でこの本の表紙のデザインを見た瞬間、目を離す事が出来なくなってしまい思わず衝動買いしてしまった一品だったんですね。良い本と言うのはその本自体が力を持ってると言うか、何かしらの魅力を放っていると思うのですが、その時は中身を確認せずに「きっと良い本だろう」と確信してルンルン気分で家に帰ったんだけど、夕食後本を捲っていてビックリ!裏表紙の所に著者のボアダさん自身が書かれたと見られるメッセージとサインがあるじゃないですか!!



しかもこのメッセージは見る人が見れば歴史的価値があるものだと一目で分かるものだし・・・(興味のある方はコチラ:地中海ブログ:アントニ・ガウディ(Antoni Gaudi)の建築:コロニア・グエル(Colonia Guell)その4:プッチ・ボアーダ(Puig i Boada)とジョアン・マラガル(Joan Maragall):ガウディ新資料発見か

こんな体験も手伝ってか、毎年このお祭りには何かある!と言う全く根拠の無い自信と期待を抱きつつ、毎年来るのを楽しみにしていると、まあ、こういう訳なんです。そんなこんなで天気の良かった昨日の午後はグラシア大通りを5時間掛けて4往復してきたのですが、とある古本屋に入った時に目に留まったのがコチラ:



じゃーん、皆さんお馴染みのGA JAPANです。そう、何と、結構な数のGA JAPANのバックナンバーが山積みで置かれてたんですね。懐かしさも手伝って、かなりの時間立ち読みしてしまったのですが、その中でも特に懐かしいこの号(No.18, 1996-1/2)を買っちゃいました(ちなみにお値段の方は一冊3ユーロ、2冊でも5ユーロと言う超お買い得!)



この号が発売された当初、僕は未だ高校生だったのですが、本屋でこの号を見つけた瞬間、表紙の写真が余りにも美しく衝撃的だったので即買いしてしまった事を今でも覚えています。勿論その当時は建築を取り巻く状況なんて殆ど無知でこの本を買ったのは全くの偶然だったんだけど、この号は本当に素晴らしくて、谷口吉生さんの豊田市美術館、安藤忠雄さんのユネスコ瞑想の庭、槙文彦さんの東京キリスト教の教会と風の丘の葬祭場の計画案なんかが収録されているんですよ。更に批評座談会も二川さん、磯崎さんそして鈴木博之さんを交えた豊田市美術館の○と×、更に石山修武さんや原広司さんを交えた建築の総括と展望なんかも収録されていると言う奇跡の一冊なんですね。学生の頃はそれこそ穴が明く程見てたんだけど、まさかバルセロナで再びお目にかかる事が出来るとは夢にも思いませんでした。

そんな中でも僕が昔からかなり感動して読んでいたのが、谷口吉生建築設計事務所の宣卓さんによる豊田市美術館の材料調達時のエピソードなどを綴った文章でした(P40-41,豊田市美術館材料と工法)。この文章の核心は、豊田市美術館の印象を決定付けている外皮に用いられている大量の緑色のスレートを何処から調達し、どう加工するかと言う苦労話なんだけど、そもそも屋根材などにしか使われていなかったスレートは小さいサイズでしか市場では扱われていなかったらしく、あれだけ大きなサイズを同じ様な質で大量に確保するのは相当難しかったそうなんですね。更に北米産のバーモントスレートは加工が非常に難しいらしく、結局、石の質を確保する為に、アメリカで石を一時加工しておいて、そのまま船で輸送、そして名古屋港でウォータージェットで2次加工して現地に運ぶみたいな事をやっていたそうです。更に更に、表面に風合いを出す為に丹念に削ったり、加工が上手くいかなかった石は、床材に転用したり、はたまた、あれだけサイズの大きな石を取り付ける際、職人が仕事をしやすいようにと、足場を通常よりも壁から離して設置したと言う様な事まで考案していたらしい。

では、谷口さんは何故にそれ程まで、あの緑の石の質や精度を確保する事に躍起になったのか?それは、あの表皮を覆う大きな大きな石のサイズと精度こそが、この美術館の質を左右するという確信があったからなんでしょうね。



個人的に思うのですが、バルセロナにあるミースパビリオンも同じ様な事が言えて、あの建築が醸し出している信じられない様な建築の質は、ある意味で、表面を覆っているあの大理石のサイズと、その精度にあると思います。特にあのサイズが重要。あれがもっと小さかったりしたら、あのパビリオンは全く違ったものになってたと思う(地中海ブログ:ミース・ファン・デル・ローエ・パビリオン(Mies van der Rohe Pavilion/ バルセロナパビリオンBarcelona Pavilion:アントニ・ムンタダス(Antoni Muntadas)のインスタレーションその)。

それが分かっているからこそ、谷口さんはあの緑の石の質の確保にあれ程までの執念を掲げたんだと思います。素晴らしい執念です。そして、あんな素晴らしいデザインの裏には、目に見えない途方も無い努力が隠されていると言う事も僕達は知っておいた方が良い。一見、ごく単純に見える一本の線、一枚の壁の裏側には、凄まじい程の努力や技術が隠されていると言う事、それも「どんな形にするか」と言う、形やデザインの努力だけではなくて、それらの材料を何処から調達し、どうやって運び込み、どうやって現場で組み立てるのか?などと言った、凄まじい程の努力の結晶が、それら単純な線や壁になっている訳なんですよね。

そんな単純な一本の線から、その裏に隠された深い物語が見えるかどうか?は自分次第。自分にどれだけ深い知識とそれを見通す目があるかどうかなんですね。一見、建築と言うはその建物を「鑑賞者」が評価している様に見えるんだけど、本当に良い建築と言うのは、実は見ている「こちら側」が、その建築によって試されていると言う事が多々あります。正にミースパビリオンや豊田市美術館のような建築は、それらを体現する数少ない建築の内の一つだと思います。

日々精進だという事ですね。
| 建築 | 04:08 | comments(2) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント
先日、建築評論家で、武蔵野美大時代の恩師である「長谷川堯たかし」先生のセミナーにて、バルセロナ・パビリオンを絶賛していました。
で、急に再訪したくなったのですが、10/31(日)は開館してるでしょうか?
つまらない質問ですみません。
| Aki | 2010/10/02 12:10 AM |
Akiさん、こんにちは。
バルセロナパビリオンは特別な事が無い限り午前10時くらいから19時くらいまで開いてると思います。真ん前には磯崎さんのカイシャフォーラムもあるので、観光には丁度良いエリアですよね。
| cruasan | 2010/10/03 4:10 AM |
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