2010.09.20 Monday
バルセロナに出来た新しい建築学校その2:Barcelona Institute of Architecture:バルセロナ建築スクールの諸問題
前回のエントリ、バルセロナに出来た新しい建築学校その1:Barcelona
Institute of Architecture:山本理顕さんとか、都市のマーケティングとかの続きです。
バルセロナの建築教育事情に関して僕が最近ちょっと気になっている事があります。それが近年バルセロナにボコボコ出来つつある、建築関連の新しいマスターコースについてなんですね。バルセロナでは数年前から「インターナショナル」を謳い文句に外国人をターゲットにしたマスターコースが本当に数多く作られているのですが、そのコースが我々日本人にとって一体どのような意味を持つのか?もっと言っちゃうと、特にその闇の部分についてはさっぱり語られてきませんでした。大体、(正規)の学校やコースを創るなんてそう簡単に出来るはずが無く、そんなものがボンボン、ボンボン出てきている現象の裏には絶対何かあると言うのが世の常と言うもの・・・。今日は、「これから是非バルセロナで建築を学びたい!」と言う日本の優秀な若い皆さんに是非知っておいてもらいたいお話です。
多分このような建築関連のマスターコースのさきがけとなったのは、僕が以前通っていたメトロポリスプログラムだと思います。このプログラムに関しては以前のエントリで何度か書いたのですが、さすがにメトロポリスプログラムはイグナシ・デ・ソラ・モラレスがディレクターを務めていただけあって、彼の生前中には、教授陣と言い、世界中から集まって来ていた学生と言い、そこで行われていた議論と言い、ものすごいクオリティがあったと思うんですね(地中海ブログ:イグナシ・デ・ソラ・モラレス(Ignasi de Sola Morales)とマスター・メトロポリス・プログラム(Master Metropolis))。
しかしですね、イグナシが亡くなってからというもの、それを傍から見ていた人達が見よう見真似で作ったマスターコースがどんどんと顔を出しては消えていくと言う時期があり、その代表的なものがMETAPOLISだとか、最近のThe Institute for Advanced Architecture of Cataloniaだったりするんですけれども、それらマスターコースには幾つかの共通点があります:
1.ターゲットが外国人である為、英語を標準語としていると言う事
2.授業料がスペインの他のコースに比べてすこぶる高いと言う事
3.講師陣にビックネームを並べていると言う事(そしてそれらビックネームの大半は授業を受け持つ事は勿論、講演会にすら来ない人が多い幽霊部員ヨロシクの幽霊教授陣)
まあ、上に挙げた諸特徴の中でNo.3以外はさほど問題では無いかなとは思うのですが、これらのマスターコースには上述の諸問題とは比べ物にならない程の大問題が潜んでいます。それがそれらのコースが学生に授与する学位の問題です。ここでハッキリと言っておきたいのですが、これらのマスターコースを修了した際、学校から学生に授与される学位は国際的に認められている「修士(Master)」と言う学位ではありません。確かにこれらのコース終了時にはMasterと言う学位が授与されるのですが、この学位は日本やアメリカに行った際にMArchや MSc(日本で言う修士)などに振り返る事が出来ない、各々の学校が独自に発行しているDiplomaと言われる学位なんです。
云わばスペインで言われているマスターコースと言うのは、日本で言われている修士コースとは全くの別物であって、僕の経験から言わせてもらうと、それは学士を修了した人がドクターコースに入る前に「ちょっと補足勉強しておこうかな」くらいの専門学校的な位置付けだと思われます。
では、スペインには他国で言われている様な修士レベルの学位は無いのか?と言うとですね、勿論存在します。しかしながらその学位はマスターとは呼ばれず、DEAと言われていて、学位のレベルとしては日本で言う博士未満、修士以上と言う位置付けになってくるかと思われるんですね。そしてここが肝心なのですが、DEAを提供しているのは、マスターコースでは無くて、ドクターコースの中においてなんです。この辺が日本の教育システムとは違っていてややこしい所なのですが、スペインでは学士コースの上にドクターコースがいきなり存在していて、更にそのドクターコースは大きく2つのフェーズに分かれています。前半がドクター論文のテーマを決め、その下書きを論文として提出する時期までで、その論文が認められると上述のDEAと言う学位が与えられます。その後、ドクター論文を提出し認められるとドクターの学位が授与されると言うシステムを採っています。だからもしもスペインで修士の学位が欲しいと言う人は、このドクターコースに入学し、DEA取得を目指す事になるのですが、ドクターコース入学には学士の学位を持っていれば(たいていの場合は)入学が許可されます。ちなみに僕はこのDEAと言うタイトルを運良く取得する事が出来ました。かなり苦労しましたけどね(地中海ブログ:DEA (Diploma de Estudios Avanzado) 取得)
(注意:実は今ヨーロッパでは大規模な大学教育改革プログラム(ボローニャ計画)が進行中で、スペインでも既に各大学、各学科によって少しずつ教育プログラムが変化して来ている様です。その改革によって、幾つかの学科ではもう既に修士コースとドクターコースが分かれているそうです(2010年9月現在)。しかしながら、この改革によって修士レベルの学位を授与するコースには、「マスターオフィシャル(Master Oficial)」と名前が付く事になっているので、その辺はお間違いなく。又、各々のプログラムによって与えられる学位にもバリエーションが出てくると思われるので、入学を希望される方は、くれぐれも、どんな学位を取得する事が出来るのか?それはオフィシャルな学位なのかどうなのか?その辺の事を電話ではなく書面で確認される事をお奨めします。)
ここまで書いてきてなんなんですけど、僕はこれらマスターコースを特別に批判するつもりは全く無く、逆に彼らのプログラムには良い所も沢山あると思っています。例えば特にドクターコースに進む予定の無い人や、「学位なんてどうでも良い!」という人にとっては、このような英語で入れる学校と言うは、「自分で事務所を立ち上げる前にちょっと外国の空気を味わっておくか」とか、「バルセロナで後々働きたいんだけど、その前にちょっと1年くらい様子見をしてみるか」と言った具合に大変都合の良いコースである事は確かだと思うんですね。これらのコースは(スペインにしては)ちょっと授業料が高いけど、滞在ビザは確実に出してもらえるし(滞在ビザを取得するのがスペインでは結構重要な問題)、何より国際的な人脈は確実に広がると思います。
ただそうじゃない人、最初から修士の学位を取りに来ている人が、何の情報も無い為に誤ってこれらのコースに入ってしまい、時間とお金の無駄使いをするのは本当に悲しい。
少し前まではこういう情報が全く無かったので、日本人の皆さんはこんなローカル事情なんて知る由も無かったと思うのですが、グローバリゼーションが進行するにつれ、段々とスペインにも留学生が増えてきて、このような現地でしか知り得ない情報が蓄積されてきつつあります。その様な有益な情報を後進の為に提供していく事、共有していく事は先にスペインに来た者としての義務だとすら感じています。
この情報がこれからスペインで建築を学ぼうと言う優秀な若い人達のお役に経つ事を願っています。
バルセロナの建築教育事情に関して僕が最近ちょっと気になっている事があります。それが近年バルセロナにボコボコ出来つつある、建築関連の新しいマスターコースについてなんですね。バルセロナでは数年前から「インターナショナル」を謳い文句に外国人をターゲットにしたマスターコースが本当に数多く作られているのですが、そのコースが我々日本人にとって一体どのような意味を持つのか?もっと言っちゃうと、特にその闇の部分についてはさっぱり語られてきませんでした。大体、(正規)の学校やコースを創るなんてそう簡単に出来るはずが無く、そんなものがボンボン、ボンボン出てきている現象の裏には絶対何かあると言うのが世の常と言うもの・・・。今日は、「これから是非バルセロナで建築を学びたい!」と言う日本の優秀な若い皆さんに是非知っておいてもらいたいお話です。
多分このような建築関連のマスターコースのさきがけとなったのは、僕が以前通っていたメトロポリスプログラムだと思います。このプログラムに関しては以前のエントリで何度か書いたのですが、さすがにメトロポリスプログラムはイグナシ・デ・ソラ・モラレスがディレクターを務めていただけあって、彼の生前中には、教授陣と言い、世界中から集まって来ていた学生と言い、そこで行われていた議論と言い、ものすごいクオリティがあったと思うんですね(地中海ブログ:イグナシ・デ・ソラ・モラレス(Ignasi de Sola Morales)とマスター・メトロポリス・プログラム(Master Metropolis))。
しかしですね、イグナシが亡くなってからというもの、それを傍から見ていた人達が見よう見真似で作ったマスターコースがどんどんと顔を出しては消えていくと言う時期があり、その代表的なものがMETAPOLISだとか、最近のThe Institute for Advanced Architecture of Cataloniaだったりするんですけれども、それらマスターコースには幾つかの共通点があります:
1.ターゲットが外国人である為、英語を標準語としていると言う事
2.授業料がスペインの他のコースに比べてすこぶる高いと言う事
3.講師陣にビックネームを並べていると言う事(そしてそれらビックネームの大半は授業を受け持つ事は勿論、講演会にすら来ない人が多い幽霊部員ヨロシクの幽霊教授陣)
まあ、上に挙げた諸特徴の中でNo.3以外はさほど問題では無いかなとは思うのですが、これらのマスターコースには上述の諸問題とは比べ物にならない程の大問題が潜んでいます。それがそれらのコースが学生に授与する学位の問題です。ここでハッキリと言っておきたいのですが、これらのマスターコースを修了した際、学校から学生に授与される学位は国際的に認められている「修士(Master)」と言う学位ではありません。確かにこれらのコース終了時にはMasterと言う学位が授与されるのですが、この学位は日本やアメリカに行った際にMArchや MSc(日本で言う修士)などに振り返る事が出来ない、各々の学校が独自に発行しているDiplomaと言われる学位なんです。
云わばスペインで言われているマスターコースと言うのは、日本で言われている修士コースとは全くの別物であって、僕の経験から言わせてもらうと、それは学士を修了した人がドクターコースに入る前に「ちょっと補足勉強しておこうかな」くらいの専門学校的な位置付けだと思われます。
では、スペインには他国で言われている様な修士レベルの学位は無いのか?と言うとですね、勿論存在します。しかしながらその学位はマスターとは呼ばれず、DEAと言われていて、学位のレベルとしては日本で言う博士未満、修士以上と言う位置付けになってくるかと思われるんですね。そしてここが肝心なのですが、DEAを提供しているのは、マスターコースでは無くて、ドクターコースの中においてなんです。この辺が日本の教育システムとは違っていてややこしい所なのですが、スペインでは学士コースの上にドクターコースがいきなり存在していて、更にそのドクターコースは大きく2つのフェーズに分かれています。前半がドクター論文のテーマを決め、その下書きを論文として提出する時期までで、その論文が認められると上述のDEAと言う学位が与えられます。その後、ドクター論文を提出し認められるとドクターの学位が授与されると言うシステムを採っています。だからもしもスペインで修士の学位が欲しいと言う人は、このドクターコースに入学し、DEA取得を目指す事になるのですが、ドクターコース入学には学士の学位を持っていれば(たいていの場合は)入学が許可されます。ちなみに僕はこのDEAと言うタイトルを運良く取得する事が出来ました。かなり苦労しましたけどね(地中海ブログ:DEA (Diploma de Estudios Avanzado) 取得)
(注意:実は今ヨーロッパでは大規模な大学教育改革プログラム(ボローニャ計画)が進行中で、スペインでも既に各大学、各学科によって少しずつ教育プログラムが変化して来ている様です。その改革によって、幾つかの学科ではもう既に修士コースとドクターコースが分かれているそうです(2010年9月現在)。しかしながら、この改革によって修士レベルの学位を授与するコースには、「マスターオフィシャル(Master Oficial)」と名前が付く事になっているので、その辺はお間違いなく。又、各々のプログラムによって与えられる学位にもバリエーションが出てくると思われるので、入学を希望される方は、くれぐれも、どんな学位を取得する事が出来るのか?それはオフィシャルな学位なのかどうなのか?その辺の事を電話ではなく書面で確認される事をお奨めします。)
ここまで書いてきてなんなんですけど、僕はこれらマスターコースを特別に批判するつもりは全く無く、逆に彼らのプログラムには良い所も沢山あると思っています。例えば特にドクターコースに進む予定の無い人や、「学位なんてどうでも良い!」という人にとっては、このような英語で入れる学校と言うは、「自分で事務所を立ち上げる前にちょっと外国の空気を味わっておくか」とか、「バルセロナで後々働きたいんだけど、その前にちょっと1年くらい様子見をしてみるか」と言った具合に大変都合の良いコースである事は確かだと思うんですね。これらのコースは(スペインにしては)ちょっと授業料が高いけど、滞在ビザは確実に出してもらえるし(滞在ビザを取得するのがスペインでは結構重要な問題)、何より国際的な人脈は確実に広がると思います。
ただそうじゃない人、最初から修士の学位を取りに来ている人が、何の情報も無い為に誤ってこれらのコースに入ってしまい、時間とお金の無駄使いをするのは本当に悲しい。
少し前まではこういう情報が全く無かったので、日本人の皆さんはこんなローカル事情なんて知る由も無かったと思うのですが、グローバリゼーションが進行するにつれ、段々とスペインにも留学生が増えてきて、このような現地でしか知り得ない情報が蓄積されてきつつあります。その様な有益な情報を後進の為に提供していく事、共有していく事は先にスペインに来た者としての義務だとすら感じています。
この情報がこれからスペインで建築を学ぼうと言う優秀な若い人達のお役に経つ事を願っています。