地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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バルセロナに出来た新しい建築学校その2:Barcelona Institute of Architecture:バルセロナ建築スクールの諸問題
前回のエントリ、バルセロナに出来た新しい建築学校その1:Barcelona Institute of Architecture:山本理顕さんとか、都市のマーケティングとかの続きです。

バルセロナの建築教育事情に関して僕が最近ちょっと気になっている事があります。それが近年バルセロナにボコボコ出来つつある、建築関連の新しいマスターコースについてなんですね。バルセロナでは数年前から「インターナショナル」を謳い文句に外国人をターゲットにしたマスターコースが本当に数多く作られているのですが、そのコースが我々日本人にとって一体どのような意味を持つのか?もっと言っちゃうと、特にその闇の部分についてはさっぱり語られてきませんでした。大体、(正規)の学校やコースを創るなんてそう簡単に出来るはずが無く、そんなものがボンボン、ボンボン出てきている現象の裏には絶対何かあると言うのが世の常と言うもの・・・。今日は、「これから是非バルセロナで建築を学びたい!」と言う日本の優秀な若い皆さんに是非知っておいてもらいたいお話です。

多分このような建築関連のマスターコースのさきがけとなったのは、僕が以前通っていたメトロポリスプログラムだと思います。このプログラムに関しては以前のエントリで何度か書いたのですが、さすがにメトロポリスプログラムはイグナシ・デ・ソラ・モラレスがディレクターを務めていただけあって、彼の生前中には、教授陣と言い、世界中から集まって来ていた学生と言い、そこで行われていた議論と言い、ものすごいクオリティがあったと思うんですね(地中海ブログ:イグナシ・デ・ソラ・モラレス(Ignasi de Sola Morales)とマスター・メトロポリス・プログラム(Master Metropolis)。

しかしですね、イグナシが亡くなってからというもの、それを傍から見ていた人達が見よう見真似で作ったマスターコースがどんどんと顔を出しては消えていくと言う時期があり、その代表的なものがMETAPOLISだとか、最近のThe Institute for Advanced Architecture of Cataloniaだったりするんですけれども、それらマスターコースには幾つかの共通点があります:

1.
ターゲットが外国人である為、英語を標準語としていると言う事
2.
授業料がスペインの他のコースに比べてすこぶる高いと言う事
3.
講師陣にビックネームを並べていると言う事(そしてそれらビックネームの大半は授業を受け持つ事は勿論、講演会にすら来ない人が多い幽霊部員ヨロシクの幽霊教授陣)

まあ、上に挙げた諸特徴の中でNo.3以外はさほど問題では無いかなとは思うのですが、これらのマスターコースには上述の諸問題とは比べ物にならない程の大問題が潜んでいます。それがそれらのコースが学生に授与する学位の問題です。ここでハッキリと言っておきたいのですが、これらのマスターコースを修了した際、学校から学生に授与される学位は国際的に認められている「修士(Master)」と言う学位ではありません。確かにこれらのコース終了時にはMasterと言う学位が授与されるのですが、この学位は日本やアメリカに行った際にMArch MSc(日本で言う修士)などに振り返る事が出来ない、各々の学校が独自に発行しているDiplomaと言われる学位なんです。

云わばスペインで言われているマスターコースと言うのは、日本で言われている修士コースとは全くの別物であって、僕の経験から言わせてもらうと、それは学士を修了した人がドクターコースに入る前に「ちょっと補足勉強しておこうかな」くらいの専門学校的な位置付けだと思われます。

では、スペインには他国で言われている様な修士レベルの学位は無いのか?と言うとですね、勿論存在します。しかしながらその学位はマスターとは呼ばれず、DEAと言われていて、学位のレベルとしては日本で言う博士未満、修士以上と言う位置付けになってくるかと思われるんですね。そしてここが肝心なのですが、DEAを提供しているのは、マスターコースでは無くて、ドクターコースの中においてなんです。この辺が日本の教育システムとは違っていてややこしい所なのですが、スペインでは学士コースの上にドクターコースがいきなり存在していて、更にそのドクターコースは大きく2つのフェーズに分かれています。前半がドクター論文のテーマを決め、その下書きを論文として提出する時期までで、その論文が認められると上述のDEAと言う学位が与えられます。その後、ドクター論文を提出し認められるとドクターの学位が授与されると言うシステムを採っています。だからもしもスペインで修士の学位が欲しいと言う人は、このドクターコースに入学し、DEA取得を目指す事になるのですが、ドクターコース入学には学士の学位を持っていれば(たいていの場合は)入学が許可されます。ちなみに僕はこのDEAと言うタイトルを運良く取得する事が出来ました。かなり苦労しましたけどね(地中海ブログ:DEA (Diploma de Estudios Avanzado) 取得

注意:実は今ヨーロッパでは大規模な大学教育改革プログラム(ボローニャ計画)が進行中で、スペインでも既に各大学、各学科によって少しずつ教育プログラムが変化して来ている様です。その改革によって、幾つかの学科ではもう既に修士コースとドクターコースが分かれているそうです(20109月現在)。しかしながら、この改革によって修士レベルの学位を授与するコースには、「マスターオフィシャル(Master Oficial)」と名前が付く事になっているので、その辺はお間違いなく。又、各々のプログラムによって与えられる学位にもバリエーションが出てくると思われるので、入学を希望される方は、くれぐれも、どんな学位を取得する事が出来るのか?それはオフィシャルな学位なのかどうなのか?その辺の事を電話ではなく書面で確認される事をお奨めします。)

ここまで書いてきてなんなんですけど、僕はこれらマスターコースを特別に批判するつもりは全く無く、逆に彼らのプログラムには良い所も沢山あると思っています。例えば特にドクターコースに進む予定の無い人や、「学位なんてどうでも良い!」という人にとっては、このような英語で入れる学校と言うは、「自分で事務所を立ち上げる前にちょっと外国の空気を味わっておくか」とか、「バルセロナで後々働きたいんだけど、その前にちょっと1年くらい様子見をしてみるか」と言った具合に大変都合の良いコースである事は確かだと思うんですね。これらのコースは(スペインにしては)ちょっと授業料が高いけど、滞在ビザは確実に出してもらえるし(滞在ビザを取得するのがスペインでは結構重要な問題)、何より国際的な人脈は確実に広がると思います。

ただそうじゃない人、最初から修士の学位を取りに来ている人が、何の情報も無い為に誤ってこれらのコースに入ってしまい、時間とお金の無駄使いをするのは本当に悲しい。

少し前まではこういう情報が全く無かったので、日本人の皆さんはこんなローカル事情なんて知る由も無かったと思うのですが、グローバリゼーションが進行するにつれ、段々とスペインにも留学生が増えてきて、このような現地でしか知り得ない情報が蓄積されてきつつあります。その様な有益な情報を後進の為に提供していく事、共有していく事は先にスペインに来た者としての義務だとすら感じています。

この情報がこれからスペインで建築を学ぼうと言う優秀な若い人達のお役に経つ事を願っています。
| 大学・研究 | 19:38 | comments(5) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント
cruasanさん、こんにちは!

映画「愛を読む人」のレビューで検索して飛んできて以来、チェックさせてもらってます。
う〜ん、バルセロナ建築スクールの諸問題の件、興味深いですね!
実はいま日本でも「英語が標準語」等、国際性を強調した学部が次々と設置されている状態です。グローバル化の高まりから、自然な流れなのかなーと思いますが、所謂名門と言われるような大学さえ、ほぼレポート提出で単位認定される様なところまで出てきていて(主に帰国子女向けの学部)、正直「大丈夫か?」と思うこの頃です^^;

ところで、日本では海外に注目が向くにつれ、「海外=進んでる、日本=悲惨」という風潮が(リーダー不在も手伝って)とても強くなってきていますが、スペインではどうでしょう??グローバル化に伴って自国に対する批判も高まっていますか?

まだまだ猛暑が続いてると思いますが、お互い乗りきりましょう^^
M
| M | 2010/09/22 5:05 PM |
Mさん、こんにちは、大変興味深いコメントありがとうございます!

個人的に思うのですが、良く言われる「海外=進んでる、日本=悲惨」と言う図式は本当かな?と思ってしまいます。はっきり言って、世界中何処を見渡しても日本程良い国は無いと思うのですが‥‥日本人がそのレベルの高さが分からないのは、多分、日本の環境の良さに慣れてしまっているからなのでは無いでしょうか?

海外には日本への憧れのまなざしを持っている人達が数多く居ます。というか、殆どの人達が「日本は凄い」と言う感覚を持っていると思って先ず間違い無いと思います。日本は幾ら最近失業率が高いと言っても、知れてますからね。スペインは40%です。ちょっと冗談な様な数字でしょ?それにコチラで言う移民の人程酷い生活環境に居る人なんて、そうそう居ないだろうし。

2番目の質問なのですが、スペイン人は本当に楽観的且つ、自国を批判すると言う事を知らない民族なので、そんな風潮はあまり無い様な気がします。確かに経済が悪くなっているので、現政権に対する風当たりは厳しいものがありますが、それだって、何処まで本気か分かったもんじゃありません。

むむむ、考えれば考える程興味深い問題です。
建設的な意見、どうもありがとうございました。
これからもヨロシクお願いします!
| cruasan | 2010/09/23 5:48 AM |
はじめまして。
日本で建築設計をしているmkfootbalexと申します。
バルセロナという街、そしてFCバルセロナが大好きな建築家としていつも楽しく拝見させて頂いております。

学生の頃にバルセロナを訪れて以来、日本でのキャリアとライセンスを取得した後、バルセロナに留学及び建築家として働きたいと思っていました。

cruasanさんの記事を某雑誌で拝見させて頂き、地中海ブログを見させて頂き様々な情報を頂いており本当に感謝しております。

そこで、ご質問させて頂きたいのですが、現在様々なマスターコースが出来ては消えている状況という中で、cruasanさんが参加された様なメトロポリスプログラムのような質の高いプログラムは現在はあまり無いという事なのでしょうか?また、現在日本でも数年前まで好調だったスペイン経済が急減速し、建設業界もかなりの不況だというニュースを見ますが、そういった経済状況が建築教育に与える影響というのもあるのでしょうか。

私もスペインで英語で参加できるプログラムには非常に興味を持っており、もしその他のプログラムでお勧めの物やローカルな情報をご存知でしたら教えて頂ければと思います。

ご多分に漏れず私も、日本の建築教育の中で工学の修士を取得し、日本の一級建築士を取得し、cruasanさんの仰る通りあなたエンジニアなのね、と言われる口です。。

また、もしよろしければgmailの方にも是非メールさせて頂ければと思います。

こういった質問等も多いと思いますが、よろしくお願いします。
| mkfootballex | 2011/05/02 8:17 AM |
Mkfootballexさん、初めまして、こんにちは。コメントありがとうございます。

ご質問の件なのですが、僕の見る限り、今のバルセロナにはそれ程魅力的なマスターコースは存在しない様に思います。そもそも英語でインターナショナルにやってる所自体が少なくって、IAACってのがありますが、確かにアイゼンマンや坂茂さんなど、有名どころを講師として呼んではいるのですが‥‥って感じです。

もう一つのご質問なのですが、現在のスペインで建築事務所の仕事を見つけるのは本当に奇跡に近いと思います。先日の新聞に出ていたのですが、70%のスペイン在建築家が、外国に仕事を求めて移住する事を検討してると言う事でした。スペインは今、ハッキリ言ってドン底だと思います。

もしもう少し込み入った事がお知りになりたいと言う事でしたら、Gmailの方にご連絡を頂ければと思っております。
| cruasan | 2011/05/04 3:39 AM |
Mkfootballexさん、初めまして、こんにちは。コメントありがとうございます。

ご質問の件なのですが、僕の見る限り、今のバルセロナにはそれ程魅力的なマスターコースは存在しない様に思います。そもそも英語でインターナショナルにやってる所自体が少なくって、IAACってのがありますが、確かにアイゼンマンや坂茂さんなど、有名どころを講師として呼んではいるのですが‥‥って感じです。

もう一つのご質問なのですが、現在のスペインで建築事務所の仕事を見つけるのは本当に奇跡に近いと思います。先日の新聞に出ていたのですが、70%のスペイン在建築家が、外国に仕事を求めて移住する事を検討してると言う事でした。スペインは今、ハッキリ言ってドン底だと思います。

もしもう少し込み入った事がお知りになりたいと言う事でしたら、Gmailの方にご連絡を頂ければと思っております。
| cruasan | 2011/05/04 3:39 AM |
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