地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
<< ブリュッセル出張:ユーロシティとかEU-JAPANセンターとか | TOP | バルセロナ市への観光税の導入の議論に垣間見える市政の台所事情 >>
スペインを代表する現代アーティスト、ミケル・バルセロ(Miquel Barcelo)の展覧会:La Solitude Organisative
今週金曜日からバルセロナではモンジュイックの丘にある銀行系の文化施設カイシャ・フォーラム(Caixa Forum)にて、スペインを代表する現代アーティスト、ミケル・バルセロ(Miquel Barcelo)氏の展覧会、Miquel Barcelo 1983-2009, La solitude organisativeが開催されています。



例のごとく、全く関係無い話から始めたいと思うのですが(笑)、バルセロナにはミケル・バルセロという名で知られている人物が少なくとも3人います。一人目は政治家で22@BCNの会長を勤め、La Ciutat Digitalなどの著作もあるミケル・バルセロさん。今は確かFundacio b_TECの会長だったかな。2人目はカタルーニャ工科大学の教授であり、工科大学サステイナビリティ顧問にしてヨーロッパSF賞の創設者でもあるミケル・バルセロさん。そして3人目が今回紹介するアーティストのミケル・バルセロさんなんですね。個人的にはカタルーニャ工科大学のミケル・バルセロさんとは昔から仲が良いのですが、最初の内はえらくとまどいました。「え、ミケルさんってSFにも詳しくて、情報学部の教授なのにアートもやってるんですかー!!!」みたいな(地中海ブログ:
カタルーニャとSF)。

そんなどうでも良い話は置いといて、今回の主役である現代アーティストのミケル・バルセロ氏の近年の活躍ぶりには目を見張るものがあります。最近話題となった所では、約22億円(1850万ユーロ)をかけて2008年に完成したジュネーブ(Geneve)の
国連欧州本部の人権理事会Human Rights and for the Alliance of Civilisations at the United Nations, Geneva本会議場「Room XX」の天井装飾なんかは非常に有名ですよね。



「海と洞窟、それは表面性と内面性を表しているが、その基本的な宇宙観をまずは表現したかった。垂れ下がった鍾乳石のような形は、赤、黄、紫など、色も
形も1つとして同じものはない。それはまるで、人権委員会に集まる異なる言語と異なる意見を持つ人々のようだ」 ミケル・バルセロ

ナルホドなー、上手い事言うなー。こんなコンセプトの下、様々に彩られた氷柱をどう表現するのか?など技術的な安全性の問題なども含めて約1年間アトリエで研究し、その後13ヶ月かけて創り上げられた傑作がこの天井装飾だったんですね。ちなみに下記の写真は当時何度となくスペインで報道されたものなんだけど、絵の具を天井に吹き付ける際に、ガスマスクをして作業に当たっている様子を撮影したものだそうです。



この傑作が世界中に発表された時のスペインメディアの騒ぎようと言ったらすごいものがあったんだけど、まあ、アートと言うのはその国の成熟度を測る指標であり自国のアイデンティティを確立する為の道具として政治的に利用されてきたという歴史的事実を考えれば特に驚くべき事でも無いかな(地中海ブログ:
パリ旅行その8:公共空間としての美術館。つまりアートって言うのはある意味、広告的な側面を持っていると言う事です。だからこの作品の制作費22億円の内、約半分をスペイン政府が負担していると言う事も、まあ、当然と言えば当然か。

さて、ミケル・バルセロ氏のアーティストとしての名声は今やヨーロッパ中に知れ渡り、世界のアートシーンの第一線で活躍するアーティストの仲間入りを果たしたと言っても過言では無いんじゃないかと思うのですが、その反面、実は日本では驚く程知られて無いんじゃないのでしょうか?ちなみに今、ウェブで関連情報を調べてみたんだけど、日本語では殆ど出てこない・・・。辛うじて
ピカピカさんがフォローしているくらいかな(さすがピカピカさん!)



ミケル・バルセロは1957年、スペインのマヨルカ島に生れました。マヨルカ島って、今はヨーロッパ屈指の観光リゾート地として有名なんだけど、実は昔からショパンやジョルジュ・サンド、もしくはミロなどと言ったアーティストを育んできた地でもあるんですね。そしてミケル・バルセロに関して言えば、このマヨルカ島という地が、実は彼のアーティストとしての才能や彼の作品に多大なる影響を与えているのでは?と思われる節がしばしば見受けられます。


今回の展覧会ではそんなミケル・バルセロの比較的初期の作品から昨年のヴェネツィアビエンナーレに出展され大きな話題となったゴリラの絵(La solitude Organisative)など180点が集められ、彼のアーティストとしての軌跡が辿れるようになっているのですが、この展覧会を訪れて先ず驚かされるのは、彼の作品のバリエーションの広さなんですね。




抽象画は勿論の事、水彩画やタピエスの伝家の宝刀である、様々な素材を画面に貼り付けていく事で立体的な3次元を構成していく様な作品、はたまた彫刻などまで、彼のアーティストとしての許容力の幅広さを見せ付けられる展覧会となっています。




展覧会場の入り口には、昨年パリのグラン・パレ国立美術館でも展示されていたゾウがひっくり返った彫刻が我々を出迎えてくれます。見た瞬間、「何でゾウなんだ?」って言う疑問が沸いてくるんだけど、現代アートの知識が恥ずかしいくらい無い僕にはそんな疑問に答えられる余地全く無し(悲)。まあ、現代アートって言うのは、その本質的な所は「コンテクスト読み」にある訳で、そういう意味においてこれだけ複雑になってしまった現代アートのコンテクストを読み切れる人間が世の中に一体何人いるんだろう?って事も思うんですけどね。そんな訳で、今回は僕のアンテナに引っかかった作品だけを、(何時ものように)僕の独断と偏見で(笑)紹介したいと思います。先ずはコチラ:




2003
年に出たスペイン版のダンテ神曲(Dantes Divine Comedy)の挿絵シリーズです。ダンテ神曲に関しては、その内容が様々な想像力を刺激する事から、今まで沢山の芸術家達によってイメージの解釈が出ています。ロダンの地獄の門とか、日本人にはお馴染みの作品もその内の一つですね(地中海ブログ:パリ旅行その5:カミーユ・クローデル(Camille Claudel)の芸術:内なる感情を全体で表している彫刻作品、もしくは彼女の人生そのもの)。ミケル・バルセロのダンテ神曲シリーズは合計24点で全てアクリルで描かれてるんだけど、人間の苦しみとか悩みとか、そんなものが本当に良く表現されてて、直に心に伝わってくるかのようです。アクリルと言う比較的単純な画法で、ココまで人間の内側に迫れると言うのはちょっと凄い。



これなんて、この光の玉(魂?)の中に人間のエネルギーが満ち溢れているようでいて、しかし同時にそこには何かしらの「儚さ」も感じさせられるんですね。そう、まるでそれら相反する2つの力が共存しているかのような・・・。




これなんて、アクリルでサッと描いただけなんだけど、人間の苦悩が本当によく表現されている。2年程前に見たスロベニア出身の画家、ゾラン・ムジチの作品群も人間の「恐ろしさ、おぞましさ」にかけては秀でたものがあったんだけど、このシリーズもナカナカ見ごたえがあります(地中海ブログ:
ゾラン・ムジチ展覧会:ダッハウからヴェネチアへ ( Zoran Music: De Dachau a Venecia))。ちなみにミケル・バルセロのこのシリーズは2004年にルーブル美術館で展覧会が行われ、大成功を収めたそうです。納得の質!そしてコレなんかも目を奪われました:



エイを題材にした作品なんだけど、海の底で静かーに獲物を待っているかのような、「気迫」みたいなものがマザマザと伝わってくるかの様な大変力強い作品です。ヒョロっと伸びたエイの尻尾と重く鎮座する体とのバランス、そしてそれによる視線の移動、空白が空白に見えない構図の素晴らしさ・・・見れば見るほど、良いなー。そして今展覧会の主役とも言うべき作品がコチラです:




2009
年のヴェネティアビエンナーレ、スペイン館に出展されたLa Solitude Organisativeと言う作品です。見ての通り、ゴリラが一匹コチラを向いて座っているだけの作品なんだけど、これまた不思議な作品ですね。



このゴリラ、確かな存在感があるかと思いきや、今にも消えて居なくなりそうな儚い存在感をも醸し出しています。そんな、存在と非存在の間にいる存在、それがこのゴリラかな。
今までミケル・バルセロと言えば、動きのあるダイナミックな作品の印象が強かったんだけど、このゴリラは全くその逆。いや、存在感がある事では今までの作品と同じ系譜に載っているんだけど、それだけじゃない「何か」がある気がする。そしてそれがあるが故に、僕達の想像力/創造力を刺激し、魅力的な解釈へと導いているのかも知れません。

この展覧会、2011年の19日までだそうなので、バルセロナに観光に来られた方々には是非お勧めです。入場無料ですし、ミースのバルセロナパビリオンの真ん前ですし、スペインの現代美術に浸る良い機会なのでは?とも思います。
| スペイン美術 | 08:21 | comments(2) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント
cruasanさん、こんにちは。

マドリードでこの展覧会行きましたよ〜。
逆さのゾウさんのお出迎え、インパクトありますよね!

私はあまり美術に造詣が深くないので、興味があるものはガイドツアー(カイシャ・フォーラムは無料の場合が多いので嬉しい!)に参加するのですが、説明を聞きながら見ると、“なるほど〜”と思うことばかりです。私の場合、そこで終わってしまうことがほとんどなんですけど。。。

カイシャ・フォーラム、興味深い展示も多いので、よく行きます。
マドリードでは今、フェデリコ・フェリーニに関する展示があって、その関連で29日にはコンサートもあるようです。こういうイベントや展示に気軽に触れられるというのは嬉しい限りです。

| sara | 2010/07/25 7:31 PM |
Saraさん、こんにちは。

逆さのゾウに、かなりやられました(笑)。インパクトありすぎ!

フェデリコ・フェリーニの展覧会は実は先日までバルセロナでやってました。多分、マドリッドとバルセロナで展覧会をとっかえっこしてるんでしょうね。

カイシャフォーラムの無料ガイドは僕もおおいに利用させてもらっています。しかも顔覚えられる程、毎回行っているので、僕にとってはありがたい限りです。
| cruasan | 2010/07/27 3:06 AM |
コメントする