地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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リュイス・ドメネク・イ・ムンタネール(Lluis Domenech i Montaner)によるモデルニスモ建築の傑作、サンパウ病院(Hospital de la San Pau):病院へ行こう!どんな病気も直ぐに治るような気にさせてくれるくらい雰囲気の良い病院
今週の土曜日から日曜日にかけて、カタルーニャモデルニスモ建築の至宝であり世界遺産にも登録されているサンパウ病院の内部空間(一部)が一般公開されています。



サンパウ病院(Hospital de la San Pau)は、ガウディのライバルであり当時のスペイン建築界の巨匠でもあったリュイス・ドメネク・イ・ムンタネール(Lluis Domenech I Montaner)がデザインした、カタルーニャ音楽堂と肩を並べるカタルーニャが誇るモデルニスモ建築の傑作中の傑作です。(カタルーニャ音楽堂についてはコチラ:地中海ブログ:リュイス・ドメネク・イ・ムンタネール(Lluis Domenech i Montaner)の傑作、カタルーニャ音楽堂:コーディネーターとしての建築家の役割を再確認させてくれる名建築)。

元々この病院は1401年に現在のカタルーニャ図書館(Biblioteca de Catalunya)が入っている建物にSant Creu i Sant Pau病院として設立されたのですが、その後数百年が経過する内に、市内で急増する患者等の需要に応え切れなくなってきた事などから、1902年に今の場所に移されたという経緯があります。その時全体計画を任されたのが、リュイス・ドメネク・イ・ムンタネールだったと言う訳なんですね(サンパウ病院の歴史についてはコチラ:地中海ブログ:ドメネク・イ・ムンタネール(Lluis Domenech I Montaner)によるサン・パウ病院(Hospital de la Sant Pau)の横に新しい病院棟完成)。



そんな歴史ある由緒正しいサンパウ病院なのですが、実は2009年からその機能を一掃し、新たなるシンボルとして生まれ変わらせるべく、大規模な修復工事が始まっています。と言うのも、このモデルニスモ建築の傑作を「地中海同盟」の拠点の一つにしようという動きがあるからです。

地中海同盟の常設事務局がバルセロナに置かれる事は既に何度か当ブログでお伝えしてきた通りなのですが、それに伴い集まってくるであろう国際機関や企業、研究センターなどをどうするのか?実はその点が長い間不明確で、バルセロナにとっては大問題でした。(地中海ブログ:地中海連合(Union pour la Mediterranee)の常設事務局はバルセロナに)。そこへ名乗りを上げたのが、病院としての機能を終える事が決まっていたサンパウ病院だったと言う訳です。今日はその修復工事の一部が完了したので、是非市民の皆さんに見てもらおうと、まあ、こういう事らしいです。



地中海の青い空にものすごく映えるオレンジ色の正面ファサード。前回来た時(約1年前)は左翼が修復中で工事シートが掛かってたんだけど、今回は右翼に掛かっていました。



近くに寄ると良く分かるんだけど、彫刻やらモザイク、ステンドグラスのアンサンブルが素晴らしいですね。これら諸芸術が一体となり建築に統合される事によって、まるでこの建築自身が「都市の喜び」を表象しているかの様です。そしてこの点こそが、同時期にヨーロッパ各地で華開いたアール・ヌーヴォーとカタルーニャで謳歌したモデルニスモの一番の大きな違いだと僕は思います。つまり前者が世紀末の退廃的な様相を呈しているのに対して、カタルーニャモデルニスモは、まるで、その全体で「生きる喜び」を表現しているかの様な印象を受けるからです(地中海ブログ:ウィーン旅行その7:グスタフ・クリムト(Gustav Klimt)の「接吻(The Kiss)」に見る「愛するという事」)。そんな事を思いながら、正面エントランスを潜り、イヨイヨ中へと入っていきます。そこで遭遇する空間がコチラ:



上空へと我々を誘う上昇感溢れる大変気持ちの良い大階段です。



螺旋を描きつつ、手すりの長さを「短」から「長」へと変化させる事によって、圧倒的な上昇感を創り出す事に成功しています。そしてふと上を見上げると、この天井:



眩暈を引き起こすかの様な見事な装飾天井です。なるほどー、最下段の少しキックした短い手すりから始まった運動が螺旋系に上昇し、最後はこの天井で帰結するという物語かー。大変ドラマチックですね。

さて、この素晴らしい階段ホールを昇り切り、左手に折れると、この建築のメインホールに辿り着くのですが、そこがココ:



天井が高く、至る所に装飾が施された極めて格調高い空間に仕上がっています。



天井は勿論カタランボールト。カタランボールトの曲線とアーチが交わって、大変魅力的なハーモニーを醸し出していますね。そして面白かったのがこの柱のデザインです:



上半分が四角くて重量のあるデザインになっているのに対して、下半分は円柱+モザイクで彩られている事から、大変軽い感じを受けます。このコンビネーションは面白いなー。そしてこの部屋から眺める事が出来る病院の中庭側の風景がコレマタ絶景:



正に緑の中に佇む病院と言う感じですね。



実はこの病院は上の全体計画図が示す様に、沢山の独立したパビリオンが中庭を介して寄り添う様に集まってひとつの病院を構成しているのですが、その各パビリオンの間に溢れんばかりの木々を配置する事によって、大変爽やかな雰囲気を創り出す事に成功しています。ココには僕達が「病院」と聞いて、連想するような陰気くささや暗さと言ったイメージは全くありません。こんな楽しげな明るい病院だったら、病気もさぞかし早く治るんだろうなー。病は気からって言うし。正に「病院へ行こう!」(笑)。



さて、この配置計画に際して、大変面白い展示がされていました。実はこれら独立して建てられているパビリオンは全て地下道で繋がっていて、一見バラバラに見える部分の集合が、全体で一つの病院として機能しているらしいんですね。つまりドメネク・イ・ムンタネールは病院と言う施設を巨大な一つの建物としてデザインしたのではなく、各々の部分をネットワークで繋ぎ、各部位に違う機能を宛がう事によって、全体として動く一つの生物の様にデザインする事を目指していたんだそうです。

今でこそ、インターネットやソーシャル・ネットワーク、もしくはネットワーク理論なんかに熱い注目が集まり、それまで知られていた一極集中型モデルだけではなく、多極構造モデルの存在が明らかになりつつあるんだけど、100年も前に既に同じ様な事を考えて、実際に建築をデザインしていた人がいたなんて、ものすごく新鮮な驚きでした。



ちなみに各パビリオンの中はこんな感じで大部屋になっていて、当時はココに十分な間隔を取りながら、患者さんのベッドが置かれていたんだそうです。今は各パビリオンにはサンパウ病院の歴史や、この建築の街との関わりなどを示す展覧会場となっていたりするのですが、将来的にはココに上述した地中海同盟関連の企業などが入るものだと思われます。そんな中でも面白かったのがこのパビリオン:



彫刻やモザイク、ステンドグラスなどがどのように修復されているのか?を実演を交えて説明していました。

こんな素晴らしい環境の中で、これからバルセロナが「地中海の首都」としてどのような活躍をしていくのか?ちょっと創造してみただけでも、心がウキウキしてきませんか?
| 建築の歩き方 | 19:42 | comments(10) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント
サンパウ病院は、かれこれ6、7年前に見に行きましたが中には入れず、外観のみの見学でした。
中が見れてうらやましいです。

バルセロナ好きな僕にとっても、「地中海の首都」という位置づけはなんかウキウキしますね♪
| Aki | 2010/04/25 11:13 PM |
こんにちは、cruasanさん。
サンパウ病院の写真を見て、思わずまたコメントしちゃいました!

本当に病院とは思えないような、素敵な場所ですよね。
以前バルセロナ滞在中に、こちらの病院のトップの方に
内部や庭等を案内していただいてから、お気に入りの場所の一つになりました。

その時撮った写真の中に、あの大階段と天井を同じようなアングルで
撮ったものもあり、何だか嬉しくて!

帰るとき「正面に見えるSagrada Familiaも素敵だよ」と言われ、
アーチの向こうに見える額縁の絵のようなSagrada Familiaに
うっとりしながら帰って来ました(笑)

そうそう、Gaudi&NaturalezaはSagrada Familiaの中にあるんです。
(言葉がたりなくて、すみません)

Gaudiが自然から学んだ多くの事を、
どのようにモチーフに取り入れているかを説明している・・・、
と言った感じのコーナーです。
宜しかったら、ぜひ足を運んでみてください!

「地中海の首都」・・本当にワクワクしますね☆

毎回写真も素敵ですが、文章もとても勉強になります。
これからも楽しみにしています。
| Grace | 2010/04/26 11:31 AM |
Akiさん、こんにちは。
僕も中へ入ったのは今回が初めてでした。8年近く住んでますが、この病院の内部が一般公開されるというのは、今回がおそらく初めてじゃないのかな?と思われます。ラッキーでした!
| cruasan | 2010/04/29 3:22 AM |
Graceさん、こんにちは、コメントありがとうございます。
え、中に入られた事あるんですか!しかもトップの案内付きで。すごいですね!羨ましい限りです!!
僕は今回入ったのが初めてだったのですが、本当に素敵な病院で心底感動しちゃいました。
僕もこの病院から見えるサグラダファミリアのアングルはバルセロナの風景の中でもお気に入りの一つです。ガウディのライバルだった、ムンタネールの思いというか、色々と考えさせられる関係だなーとか思います。

Gaudi Naturaleza、面白そうなので、機会があったら是非行ってみようと思っています。
| cruasan | 2010/04/29 3:27 AM |
さきほど日本のテレビ『THE世界遺産』でカタルーニャ音楽堂とサン・パウ病院が放映されていました。興味を持ち、ネットで調べていたところ、こちらにたどり着きました。
カタルーニャ音楽堂のモザイク美しいですね。サン・パウ病院はすごいですね。建物が人間に与える影響は大きいと思います。こんな病院ならどんな病気もはやくよくなりそうですね。
スペインにはまだ行ったことはないですが、ぜひ行ってみたいです。スペインは食べ物もおいしそうですし、大好きなサッカーも観てみたいです!
cruasanさんは建築家さんなのですね。建築のお仕事を手伝ったことありますが、色んな知識と、細やかな想像力が要るお仕事ですよね。がんばってください!
| mikinoko | 2010/05/23 7:09 PM |
いつも楽しい話題、ありがとうございます。
私もTHE世界遺産を見ました。

カタルーニャ音楽堂は外側の入口付近だけ、サン・パウ病院はまったく見たことがなく、gyuさんのところの写真などで想像を膨らませていたのですが、TVという大きめの動画で見たら、よりその大きさ、立体的な感じが感じ取れて、素敵さがやっと実感できたような気がしました。リアルで見るとまたもっと違うんでしょうけど。

あああ、見てみたい。でもなかなか行けない・・・。
| KLE4c | 2010/05/23 9:23 PM |
cruasanさん、はじめまして。

私も世界遺産組です(笑)
去年バルセロナに行き、一番感動したのがSantPau病院でした。
テレビでは「2009年まで使ってた」的なことを言っていたので、
いろいろ調べたところ、なるほど改修・引っ越しだったんですね。
「今でも病院として使われている」という点にぐっときてたんで、
少々残念です。世の中には合理化するべきモノと、そんなものが必要ないモノがあると思っています。なんでもかんでも合理化じゃ、世の中つまらなくなってしまうなぁ。
| SantPau | 2010/05/24 12:40 PM |
Mikinokoさん、こんにちは、コメントありがとうございます。
この病院、本当に雰囲気が良くて、あそこにいると、気分がよくなっていく感じがします。デザインの力って偉大だなー、と思います。
バルセロナは食べ物は美味しいし、気候は良いし、人はみんな親切だし、住んでいて本当に楽しい街です。一度、是非お越しください!
| cruasan | 2010/05/25 2:55 AM |
KLE4cさん、こんにちは。何時もお世話になっています!
世界遺産のドメネク特集、かなり好評だったようですね。たくさんの方からメールや質問など受けました。僕も見てみたかったですー。
この病院、本当に素敵で、この雰囲気を見てしまったら、ナカナカ他の病院へ行こうという気にはならないかも?というところが、少し問題かも知れません(笑)。
是非一度、実物を見ていただきたいです!
| cruasan | 2010/05/25 2:59 AM |
Santpauさん、初めましてこんにちは。
世界遺産組みの皆さん、ちょっとうらやましいです。
僕もその番組、見たかったです。

僕も全くSantpauさんの意見に賛成で、僕達の世界の豊かさっていうのは、実は合理的では無い部分から出てきている所が多いんですよね。
究極的には文化だって不合理なわけで、効率性から言えば、全て均質にしてしまえば、世界の生産性はあがるわけなんですが、そうしたら、世の中は本当につまらない無機的なものになってしまう。

こういう無駄が実は一番有用だったりする。
僕も、こういう世界を豊かにする仕事、そういう事に貢献出来たらなー、と思い、日々生きています。
| cruasan | 2010/05/25 3:03 AM |
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