地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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EUプロジェクト提出!:都市こそが鍵である
先週から昨日にかけて、EUプロジェクトのプロポーザル提出の最後の追込みの為に近年稀に見る忙しさに苦しんでいました。多分こんなに忙しかったのは、僕がバルセロナに来て以来初めての体験だったかもしれない。

EU
プロジェクトに関しては僕の重要な仕事の一つである事から当ブログでは事ある毎にその話題に触れてきました(地中海ブログ:EUプロジェクト、ICING (Innovative Cities for the Next Generation)最終レビュー)。一応、今の僕の肩書きは「EUプロジェクトの責任者」という事になってますから。「えー、cruasanって、パエリアとか食べて適当に感想とか書く人じゃなかったのー???」って思ったあなた、地獄に落ちてください。「えー、cruasanって、単なる旅行好きかと思ってたー!!」って思ったあなたも火あぶりの刑、決定です。一応、僕はヨーロッパでは欧州プロジェクト・マネージャー&歩行者計画のスペシャリストって事になってるの!!(冷汗)。

ではEUプロジェクトとは一体何なのか?

EU
は毎年、各分野の研究テーマに対して幾らかの予算を付けていて、定期的に「我々は今、こんな分野のこんな事に興味があるので、これくらいの予算を付けます」という要綱を発表します。例えば、「ITを駆使した新しい交通計画や交通情報システムに関する提案」みたいな。この要綱を読んだ人の中で、「このテーマだったら、こんな事が出来るなー」みたいに考えた人が、そのアイデア実現に向けて、ヨーロッパ中の研究機関、大学、私企業もしくは都市などからパートナーを選びチームを編成して、EUからの補助金を勝ち取りに行くという、云わば団体戦みたいなものなんですね。

勿論そこには幾つかのルールがある訳なんだけれども、最も重要且つ、絶対に守らなければならないルールの内の一つが「3カ国ルール」です。これは、各チームにはヨーロッパの国々の中から最低3カ国以上のメンバーを加える事という規則です。

何故か?

それについては以前のエントリでこんな風に書きました:

"
・・・しかしながら、いちパートナーとして実際にEUプロジェクトに参加していて気が付いた事は、これらEUプロジェクトには、この表向きの目的の他にもっと大切な裏の目的があるんじゃないかと言う事です。それは一つのプロジェクトの実現を通して各都市の結束を固め、都市間のコミュニケーションを円滑にし、その結果、創造性を増幅する事によりEU全体の競争力を高めるという裏目的が存在するような気がしてしょうがないんですね。

一つのプロジェクトを様々な文化と専門のバックグラウンドを持ったパートナー達と実現していくという事は決して楽な事ではありません。話す言語は違うし、扱う専門用語も違う、働き方も違うし思考形態も違うパートナー達と一緒に働いていていると、仕事の生産性という観点から見た時、「自分達だけでやった方が
楽なのに」と思う事はしばしばです。笑い合う事がある数だけ、「データが無い」とか「言語間の違い」とかで怒鳴りあう事がある事も事実なんですね。

しかしながらこのような仕事の生産性の指標だけでは計れない「何か」がある事も又事実です。それは明らかに文化間の違いが生み出す多様性に依っていて、プロジェクトを豊かなモノにしている。自分達とは違う文化圏の人の働き方や休息の仕方といった生活様式に触れる事によって、人間が成長するんですね。


どうも僕が見た感じ、
EUはプロジェクトの生産物に期待するというよりは、プロジェクトを通した各国間・各都市間のコミュニケーション促進の方に期待しているのではないかと思えてきます。その結果、プロジェクトに投資した何倍もの見返りが、そこで構築されたネットワークから出てくる新しいプロジェクトや提案という形でEUに還元される訳です。実際ICINGプロジェクトからは草の根的に幾多のプロジェクトがパートナー間で既に生まれています。結果としてEU都市間の結束が固まり、EU全体の競争力の強化に繋がる訳です。

僕が関わっているもう一つの
EUプロジェクトである、ロボットプロジェクト(URUS Project)ではその傾向というか、EUの戦略性はより明らかです。現在のロボット技術の強力なセンターは日本とアメリカだそうです。その2つの地域に比べて明らかに遅れを取っているのがヨーロッパ。そこでEUEU各国からロボットのエキスパートを集めてコミュニケーション型ロボットを創るというEUプロジェクトを立ち上げました。ロボットを創ると言ってもロボットは色んなパーツや機能から成り立っているので各部分によってどの国のどの都市が優れているとかいう優劣があるわけです。その良い所取りをして最上級のロボットを創ろうというのが表の目的。

しかしですね、ココには明らかに裏の目的があるわけです。それは各国各都市でばらばらなプロトコルや基準、用いる言語などを今の内に統一して来る次世代ロボット戦争に備える為に、日本やアメリカに負けない強力なセンターを創り出そうという戦略が見えるわけですよ。一つの生産物を創り出すという目的に従って、定期的にミーティングを開き、技術的な問題を解決
EUで統一していく事に加えて、上述のような各国・各都市のコミュニケーションを促進する役割をも果たす、正に一粒で二度美味しい戦略。

こういう事って、紙の上に書かれた経過報告書やプロジェクトレポートといったオフィシャルな記録からは絶対に見えてこない事です。
EUが正に結束を強めているこの時期に、日本人として、その中心に直にリアルタイムに関わる事が出来るというのは、この上ない幸せだなと思います。"地中海ブログ:EUプロジェクトを通して見えるEUの戦略:二つのEUプロジェクト・ミーティングを通してから抜粋)

さて、このような、「ヨーロッパ委員会が発表する要項には書いてないけど、経験者の間では共有されている暗黙の了解」みたいなのが幾つかあって、例えば、一つの提案に対する予算はだいたい3百万ユーロ(4億円)前後だとか、スタートアップ企業をパートナーに加えた方が有利になるだとか、実際に現場を体験しないとナカナカ分からない事が多いんですね。(実はヨーロッパの中でもこのシステムを熟知している人は比較的少数で、今、そういうスキルを持った人達の奪い合いが始まろうとしています。)

そのような暗黙の了解の中でも僕が近年非常に注目しているのが「都市の重要性」です。こんな事は勿論何処にも書いてないし、公式な見解じゃないんだけど、パートナーに都市(バルセロナ市やパリ市など)が参加しているかどうか?という点は、プロポーサルが認可されるかどうか?という一線を決める、非常に重要な要素だと確信しています。

何故か?

何故ならこの種のプロジェクトではフィールドテストをする事が出来るかどうか?が非常に重要な鍵となってくるからです。「じゃあ、都市を加えればいいじゃん」って思うかもしれないけど、実はコレが一番厄介なんですね。先ず第一に、欧州に都市は星の数ほどあるわけなのですが、当然、パートナーに値する魅力的な都市というのは限られているわけで、それら都市の奪い合いが始まるからです。更に各国間や各都市間で政治的な取引が絡んでくるので、事態はもっと厄介になってくると言う訳です。

近年、欧州委員会はサステイナビリティを達成する為には「都市こそが鍵である」と謡っていますが、EUプロジェクトに関して言えば、この格言は全くそのまま当てはめる事が出来ます。

「都市こそが鍵である」。今回の体験から学んだ一番重要な事柄だったかも知れません。
| EUプロジェクト | 04:21 | comments(2) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント
cruasanさん

2012年・2013年の欧州環境首都賞の最終候補にバルセロナが残っていますね。cruasanさんのようなスペシャリストのお陰!?
スペインからはビトリアも入っていますね。

http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=IP/10/410&format=HTML&aged=0&language=ES&guiLanguage=en

ところでヨーロッパの空の便が大変なことになっていますが、影響はありませんか?
| sara | 2010/04/17 11:11 PM |
saraさん、こんにちは。

実は全く知られてませんが、ビトリア市というのは、スペインは勿論、欧州でも結構名の通ったサステイナブルな取り組みをしている都市なのです。2005年頃から3年程、僕も交通計画と環境計画に関わりましたが、それはそれはやる気のある人材が揃った素晴らしい環境でした。

バルセロナがそんな都市と名を連ねているなんて、とっても光栄です。

僕のお陰?

多分全くそんな事はないだろうけど(笑)、勝手にそう思って明日からもがんばりまーす。
| cruasan | 2010/04/18 2:39 AM |
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