地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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エンターテイメント社会におけるチープ観光がもたらす弊害:観光のローコスト化による観光客の質の変化:Salouの場合
バルセロナでは今日までイースター関連の連休が続いているのですが、実はこの連休中にカタルーニャでは「観光」に関するちょっとした事件が勃発し、各種メディアを賑せていました。その引き金となったのが、タラゴナ県(バルセロナから電車で1時間程南に行った所にある県)に属する海岸沿いの小さな町、Salouです。この町では数年前(2002年)から市役所や商工会議所が中心となり観光客を惹き付ける為のプロモーションとして、「青い空と白いビーチ」を前面に押し出した「スポーツ・フェスティバル(Saloufest)」を企画し、見事、イギリスの若者達の心を惹き付ける事に成功してきました。

何故成功したのか?

まあ、物事には何時も「表の顔」と「裏の顔」が付きまとうのが常だと思うのですが、実はこの「スポーツ・フェスティバル」、スポーツと名を打ってはいるものの、その中身は全く違って、実際は「アルコール飲み放題で朝から晩までぶっ通しでディスコで踊りまくっちゃおう」という企画なんですね。

どんより雲の空の下で毎日勉強に勤しむイギリス人学生が、「ビーチと青い海でアルコールを飲みながらちょっとハメを外す」というコンセプトが受けたのかどうか知らないけど、先日の新聞(La Vanguardia, 3 de abril 2010)によると、今年は3日間で約4200人程の学生がこの小さな村を占拠したという事でした。まあ、礼儀正しい観光客として来るなら問題無いんだけど、若者が集団で来てアルコールとか入るとなると、事態はそうそう単純では無い事は容易に想像が付きます。





連日メディアでは、彼らが真夜中に泥酔して騒ぎまくってる様子だとか、子供が遊んでいる傍で真昼間から想像も出来ないような格好で乱舞している姿などが映し出され、スペイン中で物議を醸し出しています。

うーん・・・、僕達の社会は明らかにエンターテイメント社会に向かっていて、そんな社会の中で観光というのは21世紀の都市にとっては外せない産業だと思います。それは間違いありません。観光無しではもはや都市が成り立たないと言っても過言では無いくらいです。だからヨーロッパの各都市は80年代中頃から公共空間の改善などを通して「観光客を如何に自分の都市に惹き付けるか?」に邁進して来たんですね。

しかしですね、ここ数年、明らかに都市、もしくは都市住民の観光に対する態度が変わってきているように感じられます。何故なら観光がもたらす利益の裏に隠された不利益、もしくはそのような負の面が、都市の住民の生活に悪影響を及ぼす程になってきたからです。

これこそ当ブログで何度か取り上げてきた「チープ観光の弊害」であり、グローバリゼーションが引き起こした負の面、ジャントリフィケーションから売春を含む人身売買問題、もしくはゴミや騒音と言った諸問題までをも含む、最も厄介な問題群です(地中海ブログ:バルセロナの中心市街地で新たな現象が起こりつつある予感がするその3:街頭売春が引き起こした公共空間の劣化とか)。

では何故このような変化(観光が都市にとって不利益になりつつある変化)が起きつつあるのか?

その問いに対する答えは幾つかあると思うんだけど、一つだけ挙げるとするなら、近年急激に加速してきた「観光のローコスト化」を挙げる事が出来るかと思われます。そしてそのローコスト化に伴って、観光する「人の質」が明らかに以前とは変わってきました。

先日の新聞(El Pais, 4 de abril 2010)によると、2009年、スペインで観光客が一番お金を落としていった州はカタルーニャ州で、総額約11千億円(9.643Mユーロ)だったそうです。ちなみに第二位はカナリアで約1兆円(9.082Mユーロ)。マドリッドは6200億円規模(5.227Mユーロ)に留まっています。しかしですね、これを一人当たりが旅行で消費する値段に直すと、この順位はガラっと変わる事になります。カタルーニャでは一人当たり760ユーロなのに対し、マドリッドでは1.076ユーロ消費するという結果が出ています。ちなみに以前のエントリでこの問題に触れたバレンシアでは、やはり一人当たり804ユーロという散々な結果が出ています(地中海ブログ:観光とチープエコノミー:ライアンエアー(Ryanair)などの格安航空機が都市にもたらす弊害)。

これは何を意味しているかというと、カタルーニャには一杯観光客が来るけど余りお金を使わず、マドリッドには少数だけど質の高い観光客が来ると、まあ、そういうわけです。最も極端な例では、バルセロナから電車で北へ一時間程行った所にLloret de Marという町があるんですが、この町のホテルが提供しているサービスがちょっとすごい。ホテルの滞在費、朝食代+飲み放題で一人17ユーロとか言う、信じられない値段を提示しているんだそうです。

これはまずい!

上述した様に観光は21世紀の都市にとっては欠かせない産業です。そして観光をやるからには良い面だけではなく、負の面にも向き合わざるを得ない。そしてどのように質の高い観光客を維持していくのか?それこそ、21世紀の都市に与えられた課題だと思われます。
| バルセロナ都市 | 20:37 | comments(4) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント
毎度、cruasanさんのブログの内容には興味津津で、
更新された記事を読むことが、日々の楽しみの一つになっています♪

今回の記事を通して、
都市(都市計画)とは何か。
地域振興とは何か。
観光とは何か。
そして、人間とは何か。。。

魅力的な都市づくりや、都市の健全な成長というものは
容易ではないということを
うなりながら考えさせられました。


| Aki | 2010/04/06 6:35 PM |
Akiさん、こんにちは。
返事が遅れてしまって大変申し訳ありませんでした。
都市計画って本当に難しいという事を、ここ数年、実感しています。多分都市って創るものじゃなくて、育てるものだと思うんですよね。だから時間をかけなければ決して都市は成熟していかないのかと。
僕も未だ学ぶ事は山ほどありそうです。
| cruasan | 2010/04/15 4:44 AM |
cruasanさん

確かにローコスト化で移動が気軽になった反面、気軽過ぎるためかいろんな弊害が出てきていますね。観光に限らず、低価格を売りにして質が二の次になっているものがたくさんあります。低価格でも“そこそこの質”はクリアーしているので、消費者も低価格に妥協して、それに満足するようになってしまっているのかもしれませんね。

私がたまに関わる舞台芸術の分野でも、いくら素晴らしい作品でも予算内で出来なければ公演場所が確保できないので、そういう作品は多くの人の目に触れることなく終わってしまうことがよくあります。そして制作側も今のように予算が削られているときは特にどうしても作品の質より低予算の安易に出来る内容の薄い作品に流れてしまう傾向があります。

個人的にはそろそろ“価格で妥協”から、“質の高いものはお金がかかる”というあたまりまえ(でもないのかな?)の意識の変革時期かなと感じています。ローコスト化は旅行にしても物を買うにしても何かを学ぶにしても敷居が低くなって、手が届きやすくなったというプラス面もあると思いますが、何でも気軽に簡単に手に入るようになった分、“まぁこんなもんでいいか”と意識の成長を止めてしまう気がしてるんですよ。反対に観光にしても舞台にしても消費者がお金を払ってでも行きたい、観たいという何かが必要ということですね。そうじゃなければ、消費者はあたらな低価格のものを探すだけになってしまいますからね。
うーん、なんだかまとまりのないコメントになってしまいました。。。


| sara | 2010/04/17 11:10 PM |
Saraさん、こんにちは。コメントありがとうございます。

”個人的にはそろそろ“価格で妥協”から、“質の高いものはお金がかかる”というあたまりまえ(でもないのかな?)の意識の変革時期”

まったく同感です。
元々何故お金を払うのかというと、あるサービスに対する対価として払うんだから、質の高い物に対してはそれなりの価格を払うという意識を取り戻すべきなんですよね。

ローコスト化の一番怖い側面は実はココで、どんどん価格が安くなっていってしまうと、サービスの提供側が一定の質を維持できなくなってきて、ドンドン質が落ちていってしまうという点です。そしてSaraさんがご指摘されている通り、我々もその質に慣れてしまって、成長が止まってしまうという、負のスパイラルに陥ってしまうんですね。

そして人間の本質的な問題として、一度そのような激安価格に慣れてしまうと、それ以上はナカナカ払わないという問題があります。

うーん、やはり教育から変えていくしかないのかなー。
| cruasan | 2010/04/18 2:34 AM |
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