2010.02.20 Saturday
バルセロナのイベント発展型都市戦略とGSMA2010(Mobile World Congress 2010)
バルセロナでは今週月曜日から木曜日まで世界最大規模の携帯電話の祭典、GSMA(Mobile
World Congress 2010)が市内スペイン広場にて盛大に行われていました。毎年この時期に開催されるこのイベントには世界各国から携帯電話関連の企業や関連研究者などが一堂に会し、地中海都市バルセロナを最新テクノロジーの首都へと変えてしまいます。当ブログでは数年前からこのイベントの詳細なデータなどを定点観測してきているのですが、その理由は、このようなイベントの裏側には「都市の思惑」と、それに伴う都市戦略がチラチラと見え隠れしているからなんですね(地中海ブログ:バルセロナのイベント発展型都市戦略とGSMA(Mobile World Congress 2009)、地中海ブログ:バルセロナの都市戦略と3GSM)。
このような各種祭典や国際会議というのは都市にとっては願っても無い収益のチャンスであり、その事にいち早く気が付いたバルセロナは、都市発展の為にこれらのお祭りを引き寄せようと戦略的に動いてきました。元々「ビックイベントによる都市発展」って言うアイデアは1992年のバルセロナオリンピックの誘致が最初と言われているんだけど、それ以来バルセロナはUIAやForum2004など4年毎くらいに大型イベントを誘致しては都市の諸問題を改善し、都市計画に反映させ、最終的に市内における市民の生活の質を改善する事に成功してきたと言っても過言では無いと思います。先月、市長の口から飛び出たビックリ発言、「バルセロナは2022年の冬季オリンピックに立候補する」というアイデアは明らかにこの軸線上に載っている戦略です(地中海ブログ:バルセロナ、2022年冬季五輪に立候補の意思表明)。そしてそんな長期的大型イベントを活用した都市計画を実践してきたバルセロナが近年結構活発に働きかけているのが、3−7日間という比較的短期間で行われる各種イベントや国際会議などの誘致と言う訳です(地中海ブログ:バルセロナ都市戦略:イベント発展型)。
さて、昨日の新聞(La Vanguardia, 19 de Febrero
2010, P4)にはGSMA(Mobile World Congress 2010)の諸情報が載っていたのですが、これがナカナカすごかった。今年はなんと、去年よりも2,000人程多い49,000人という結果だったそうです。ピークだった2年前に記録した、4日間で50,000人という記録には手が届かなかったのですが、経済危機をモロに受けた去年の事を考えると「ようやく盛り返してきたな」という感があります。4日間の経済効果はずばり220億円(2億ユーロ)と言いますから、このイベントの重要性が分かるというものです。ちなみにこの数字は去年は勿論、ピークだった一昨年の170億という数字を遥かに上回っています。
そしてもう一つ、これらのイベントのインパクトを測る重要な指標になるのが、バルセロナ市内におけるホテルの占有率です。今年の数字は市内ホテル占有率が平均で90%、最初の2日間に至っては95%という、去年とさほど変わらない数字でした。去年は
「バルセロナ市内のホテルは携帯電話のイベントですら満席には至らなかった (“ los hoteles de Barcelona no logran llenar
para la feria de telefonia movil)」
とか言って大騒ぎしていたのですが、良く考えたら、市内ホテル占有率100%になる方がちょっと異常な状況であって、それこそバブルだった頃の異常さを示しているというものです。
さて、今日の新聞には関連記事としてもう一つ面白い記事が載っていたのですが、それは2008年を通して行われた各種イベントや国際会議がカタルーニャ地方に落としたお金についての記事でした。それによると、一年を通して1750億円(13億5200万ユーロ)のお金がカタルーニャ全土に落ちたそうです。カタルーニャ中で一番お金が落ちたのは勿論、首都であるバルセロナで全体の74%の訪問者がバルセロナを訪れ、全体の49%の会議がバルセロナで行われたのだとか。注目すべきは第二位で、そこにはGarrafが付けていました。約1,000の会議が行われ、80,000の訪問者が訪れたのだとか。
さて、これら短期的イベントと長期的イベントは、それら両方を適材適所に用いれば、都市を発展させる為の重要なツールになる事は間違いありません。そしてそれらをどのように使うのか?については問題意識も含めながら以前こんな風に書きました:
このような国際会議や催事を巧く使えば都市の大きな収益になる事は間違い無いんですね。これらをオリンピックなどの大型イベントと共存させていくというアイデアは大変に秀逸なものであるといわざるを得ないと思います。そしてこれら2つのタイプは共存関係にある。今後考えられるシナリオとしては、都市の「ある地域」を開発したい時にはオリンピック系の大型イベント誘致を図り、都市に賑わいをもたらしつつ収益を効率的に上げようという時には短期型を誘致する。更に
大型イベントで開発・建設した大型施設に継続的にプログラムを与えつつ意味を与えるという役割も果たす訳です。美術館や文化センターのような施設というの
は、建設費用を集める事は実はあまり難しくないんですね。それよりも問題なのはどんなプログラムを走らせるかというコンテンツとランニングコストのほうな
のです。その点、僕が以前勤めていたバルセロナ現代文化センターは大変巧くやっていると思います。
経済効果を見れば明らかな様に、これらのイベントはもう、都市内に各種建築やインフラを計画するのと同等のラインに位置付ける事が出来るかと思います。唯一の違いは、このようなイベントは一過性のものであり、恒久的な建築物などは残らないという点だけなのですが、それだって見方を変えれば、僕らの時代の建築、ひいては社会のある側面を表しているようで、それはそれで興味深い現象なんですね。そして更に僕にとって興味深い点は、短期的イベント、長期的イベント、建築、都市計画という様々な分野が、「都市戦略」という観点に立つと、あたかも一つの軸線上で語る事が出来るという事です。そう、我々の時代にはもうそれらの間に違いなど無いのかも知れません。あたかも全てのガジェット(携帯、ラップトップ、テレビなど)が同じ様な機能を持ち、それらの違いが「液晶の大きさ」でだけで区別されていく時代に突入している様に。