地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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地中海の弧の連結問題:ペルピニャン−フィゲラス−バルセロナ間の高速鉄道連結計画の裏に見えるもの
先週の事なのですが、フランス国有鉄道(Societe Nationale des Chemins de Fer(SNCF))の会長であるGuillaume Pepy氏のインタビューが新聞に載っていました(El Pais, 7 de Febrero 2010, P14)。中心的な話題は勿論、「地中海の弧」を実現する為の高速鉄道の連結について。南フランスとカタルーニャの連結については長い間議論されてきたのですが、ココに来てかなり現実味を帯びてきた感があります。

これは多分、先月中旬(忘れもしない1月13日)に発表された地中海連合の事務局長の任命に影響を受けての事だと思われます。任命されたのは若干41歳のヨルダン大使などを務めていたAhmed Masade氏。地中海連合は43もの国々が集まって創られる大連合故に、何処の国の誰を最高責任者にするのか?については内部でかなりのゴタゴタがあったようなのですが、ようやく落ち着いたみたいですね。そしてその組織図が明らかになるにつれて、各地域も徐々にリアクションを示してきたと、まあ、そう言う事だと思います。

今回のインタビューでは(驚くべき事に)今までは曖昧にされてきた具体的な工事の期限なども提示されていたのですが、それによると、フランス側のペルピニャンとカタルーニャ側のフィゲラスが2010年の12月までに結ばれ、2012年にはバルセロナとペルピニャン間の工事が終わる予定だとか。今現在、バルセロナ−ペルピニャン間は電車で約3時間かかるのですが、この連結が実現すると両都市を45分で行き来する事が可能になるそうです。

この事はメディアなどではあまり大きな議論にはなっていないのですが、僕に言わせれば、これはかなり重要なニュースだと思います。というのもバルセロナ−ペルピニャン間が45分圏内と言う事は、バルセロナ−フィゲラス間が30分圏内に入ると言う事を意味するからなんですね。

フィゲラスには言わずと知れた、カタルーニャが世界に誇るダリ美術館があります(地中海ブログ:ダリ宝石美術館(Teatro-Museo Dal&iacute;: Dali Jewels)。現在バルセロナ−フィゲラス間は2時間という長距離にも関わらず、驚くべき事に、ダリ美術館はミロ美術館やカタルーニャ美術館(MNAC)を押しのけて、カタルーニャの美術館動員数第三位の地位を維持しているんですね(地中海ブログ:世界の観光動向とカタルーニャの観光動向2008)。こういう統計を見ていると、行き帰りで4時間という時間を使ってまでもフィゲラスに多くの観光客を惹き付けてしまう、ダリの人気の高さを思い知らされます。

そんなアクセス的に大変不利な立場にあるフィゲラスが高速鉄道で30分圏内に連結されたら一体どう言う事が起こるのか?は火を見るより明らかです。更にフィゲラスとバルセロナの間にあるジローナ(Girona)なんか15分圏内になっちゃって、市内のサグラダファミリアとバルサ博物館の間の移動なんかよりも圧倒的に近くなっちゃうと言うわけです。つまりこのインフラが整備された暁には、カタルーニャの観光戦略や観光客の移動軌跡が一新される可能性大と言う訳です。

さて、僕にとってちょっと驚きだったのは、高速鉄道連結に対するフランス側の「やる気」と異常なまでの迅速な対応でした。思えば、地中海連合の創設だって、サルコジ氏がイニチアティブを取って実現したものだし(地中海ブログ:地中海連合(Union pour la Mediterranee)の常設事務局はバルセロナに)、南フランス−カタルーニャ間の連結は常にフランス側からのプレッシャーによって動いているような気がします。

何故か?

裏に何かあるのかなー?とか思って、ちょっと調べてみたら、それらしきもの発見(地中海ブログ:Euroregion(ユーロリージョン)とカタルーニャの都市戦略:バイオ医療を核としたクラスター形成)。以前書いたこの記事と一緒に今回の記事を読むとちょっとその裏事情が見えてこない気がしないでもない。関連箇所を引用すると:

・・・Euroregionとは何か?っていうと、国という単位を超えてある共通の目的(環境保護、交通、研究や文化など)の為に、隣接する地域同士が国境を跨いで協力しちゃおうという、簡単に言えばまあ、そういう事です。

このような
Euroregionは欧州圏内では結構あるのですが、我らがカタルーニャの場合は2004年にスペイン側の Catalunya,Baleares,Aragonとフランス側のLanguedoc-Roussillon,Midi-Pyreneesが合意に至 り、スペインーフランス間にPyrenees-Mediterranean Euroregionが設立されました。というのも、約160.000ヘクタールに広がるこのエリアは、ヨーロッパ内でも有数の人口高密度を誇り(フラン スとスペインの総人口の約13%)数字にしておよそ1300万人が居住するエリアなんですね。しかも、この地域は地中海の弧の一部を形成している事から、 EU内でも断トツな成長を見せている諸都市、BarcelonaToulouse, Montpellier, Zaragozaを含んでいます。

・・・(中略)

さっきチラッとウェブを見たら、「バイオ医療関連で行こう」みたいな記事を発見しちゃいました(
EuroBIOtechとか言う名前も出て来 た。)。バイオ医療に関してはカタルーニャは相当力を入れていて、それと関連付けるんだったら、「あー、なるほどね」とは思いますね。(カタルーニャのバ イオ医療戦略についてはコチラ:地中海ブログ:カタルーニャの打ち出した新しい都市戦略:バイオ医療( BioPol, BioRegio)

なるほどね。この辺り一体を健康観光リージョンにしてしまおうと、そういう訳ね。そしてフランスもその恩恵に与りたいと。まあそれが駄目でも、この辺りにはかなりの人口が集中していてポテンシャルが高いので、今の内から手を打っておこう、首を突っ込んでおこうと、そういう都市戦略ね。その為には一刻も早くインフラを整備する必要がある訳で、それがサルコジ大統領に地中海の弧連結を急がせる一つの理由になっているのかもしれません。あくまでも想像ですが。でもそう考えるとちょっと納得。
| 都市戦略 | 20:35 | comments(2) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント
はじめまして。San Francisco在住の不動産投資家のものです。ちょうど今、バルセロナに滞在しておりこのブログでいろいろ勉強させてもらっています。

国境をまたいだMega Regionについてはこのところ注目されている考えですよね。
この議題の言いだしっぺのRichard Florida氏によるとBarce-Lyonで人口2500万人で世界10位程度のメガ都市圏になるそうですw

http://bit.ly/mGz4ao
| Gen | 2011/05/16 4:57 AM |
Genさん、はじめまして、こんにちは。コメントありがとうございます。

Barcelona-Lyon間って、ポテンシャル満点で、だからこそ、「地中海の弧」とか言って、バルセロナなど何年も前からかなり戦略的に動いてはいるのですが、欧州委員会の方がどうにも首を縦に振らないんですよね。今年の夏辺りに、欧州委員会の方で、この地中海の弧プロジェクトを優先プロジェクトにするかどうか?の決定がなされるはず(多分)なのですが、要注目です。

バルセロナに御滞在との事。今週は天気も良いし、屋外でワインなどが美味しい季節になってきました。是非楽しんでください!
| cruasan | 2011/05/18 6:52 AM |
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