2010.01.17 Sunday
違法移民の住民登録問題:蛮族というシステム
現在スペインでは、人口およそ4万人にも満たない小さな町Vic(バルセロナ近郊)が、スペイン中を巻き込む大論争を引き起こすであろう震源地の様相を呈し始めています。
というのも先週、この町の市役所が「違法移民の住民登録を拒否する」と(ある意味驚くべき)発表をしたからなんですね。「違法移民(ビザ無し)なんだから、住民登録拒否されたって当然じゃないか!」って思われるかもしれませんが、スペインではその点が必ずしも明確ではありません。法律には違法移民は住民登録「出来る」とも「出来ない」とも書いて無いんですね。故に今まで最終判断は各都市の市役所に委ねられ、経済が順調に回っていた昨年頃までは、Vic市を含む大抵の都市が違法移民の住民登録を容認する姿勢を示していました。
スペインにおける移民に関する法律が今の形に固まったのは2004年の事だったのですが、その裏には住民登録を通して、「把握しきれていない移民の実態を明らかにする」という政府の思惑がありました。次から次へと秘密裏にやってくる移民の正確な数を計る事は、国のシステムを保つ為には必要不可欠な作業なんですね。そして特に移民大国スペインにおいては、それが国のシステムをも揺るがしうる要因になる為、政府も必死だったと言う訳です。
何故か?
以前書いたように、スペインでは緊急の場合に限り、住民に限らず、全ての人に対して医療費がタダになります(地中海ブログ:健康ツーリズム:スペインの誇る医療サービスの盲点を突いた、グローバリゼーションの闇)。これは(友達のお母さん曰く)「社会的に重要なインフラである病院は全ての人に対して平等に開かれていなければならない」という、フランコが残した唯一の(良い)功績だといわれています(これが一般的なスペイン人の意見かどうかは不明)。そして住民登録をすると更に、担当医がついたり、長期にわたる診察やどんな大手術も無料になったりと、医療に関する数限りない恩恵が誰でも受けられる様になる為、そこを利用した社会問題が噴出している事も以前書いた通りです。
このようなシステムは言うまでも無く、スペインで働いている人達の税金によって賄われています。そしてビザ無し違法移民の人達というのは、勿論、税金なんか払っていない人達です。つまり、その人達が住民登録するという事は、税収が小さな町にとっては、大きな負担となる事を意味します。景気が抜群に良かった去年までは、この事はそれ程問題にはなっていなかったのですが、一向に経済的回復が見えない今となっては、それが大問題と化し、とうとう今回のVic市のように、「拒否」という姿勢を見せる市役所も出て来たという訳です。
しかしですね、僕の見る所、この問題は表面に見えている「移民の受け入れ/拒否」という問題ほど単純では無いような気がしています。その裏にはもっと大きな、僕達の社会が抱え込んでいる複雑な問題、それこそヨーロッパが生まれた時から抱え込んでいる社会的問題がチラチラと見え隠れしている様な気がするんですね。それがコミュニティ内で意図的に仮想敵を作り出し、ガス抜きをするという「蛮族」の問題なんですけれども・・・(ヨーロッパにおける蛮族の問題についてはコチラ:地中海ブログ:イグナシ・デ・ソラ・モラレス( Ignasi de Sola-Morales)とテラン・ヴァーグ(terrain
vague))。
つまりどう言う事かというと、「一向に良くならない経済、我々の生活を圧迫しているのは、何処からともなく来て、我々の土地に住み着き、我々の受けるべき恩恵をタダで食いつぶしているあいつらが悪いんだ」みたいな、「自己」と「他者」を分ける集団心理原理が働いている気がしてならないんですね。このような「蛮族」となりえるのは、その時代時代によって異なるのですが、今回の場合は移民がその槍玉に上げられたと言う訳です。
島国で育った我々日本人には全く免疫が無いのですが、スペインにおいては僕達は正しく移民なんですね。多分、お金持ちの国、日本から来た日本人で違法移民という人は少ないとは思いますが、我々が移民である事に変わりはありません。つまりこの問題は他人事では無いと言う事です。スペインに在住しているすべての日本人が心しておくべき問題だと思います。