地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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パリ旅行その8:公共空間としての美術館
美術っていうのは権力や政治と切っても切り離せない関係にあるのですが、その事をものすごく痛感させてくれるのが美術館の存在です。美術館の歴史って調べて行くと大変面白くて、その根幹ではデモクラシーと密接に関わっているんですね。何故かと言うと、現在の多くの美術館の基礎となっているのは王侯貴族や富豪の私的コレクションなどであり、それら特権階級の独占権益だった美術品を「あらゆる階層の人達に解放しろ!」という叫びと、それに伴う行動・結果が、現在我々が見る事が出来る美術館の始まりになっているからです。つまり18世紀の人々が、革命などによって「美術品を見る権利」を勝ち取ってくれたが故に、僕たちは今こうして素晴らしい美術品を自由に鑑賞する事が出来ると言う訳なんですね。ありがたやー、ありがたやー。

だから欧米において、すばらしいコレクションを所蔵している様々な美術館が無料だったりするのは、何もその国に余裕があるからとか、その美術館が儲かっているからとか言った理由ではありません。それはその美術館の根本的な所に、「美術館=公共=万人に開かれた」という確固とした信念が横たわっているからです。だからこのような美術館はその経営がどんなに苦しくなろうとも、市民から必要以上のお金を取るような事は無いだろうし、そもそも美術館に併設されているミュージアムショップでさえ、利益を上げる事すら目的にはしていないと思います。

さて、どうしてこのようなエントリを書こうと思ったか?というと、実はパリ旅行の最中に、とあるプロジェクトの為に某美術館関係の方とお話する機会があったのですが、その方曰く、グローバリゼーションが進行する最中、このような美術館の基本コンセプトを保持しつつ、美術館の運営をしていく事が大変困難になっているとの事でした。

その事で真剣に悩む彼女の顔を見ていて、美術館の入場者数とか、美術館ランキング、はたまた来館者の導線最適化など、美術館を「観光」の為に「最適化」する事だけに眼がいっていた自分が、何だかものすごく恥ずかしくなってきたんですね。

時代が変わり、都市間競争が激しくなっていく中において、各美術館は観光客を一人でも多く捕まえようと躍起になっています。そしてそれはある意味仕方が無い事なのかもしれません。しかしその一方で、美術館の本来の意義、目的などといった「グローバリゼーションに翻弄されてはいけないもっと大事な事」が存在する事も又事実だと思います。

「何故僕達は今、美術品を自由に楽しむ事が出来るのか?」、「公共とは一体どういう事か?」そういう事をたまには思い出してみる必要もあるのではないでしょうか?美術館という完成された「制度」をただ単に「輸入してしまっただけ」の我々日本人は特にね。

そんな事を考えさせられた一日でした。




追記:
今回の旅で発見した素晴らしい画家の一人、ドラクロア(Ferdinand Victor Eugene Delacroix)
の作品、"民衆を導く自由の女神"。ルーブル美術館にありました。
| 旅行記:美術 | 19:25 | comments(4) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント
いつもブログ興味深く読んでます!初めてcommentします。
美術館好きにとって、欧米の入館料金と作品に対する距離は本当にありがたいなぁとスペインに来て痛感してます。作品と向き合って、広がる世界って楽しいですよね!日本で企画展に行くと、目玉作品の前には大勢の人だかりで、鑑賞することが難しいことばかり(泣)
あと、こちらでは未来の芸術家の卵(子供達)への環境の提供が「美術館の役割」のひとつとして認識されていることがスバラシイと感じます。
カミーユ・クローデルにも少し興味持ちました♪
| Ana | 2010/01/11 6:48 AM |
Anaさん、初めましてこんにちは。コメントありがとうございます。
作品との距離は衝撃的ですらありますよね。こちらに来て、ガラスケースに入っているのではなく、直に筆使いまでも分かる程近寄って見る喜びみたいなのを教えてもらいました。そしてもう一つ素晴らしいと思っているのが、ご指摘されている要に、子供達への教育に使われている所だと思います。この件については長い間、いつか書こう、書こうと思っていたのですが、今までナカナカ書く機会がありませんでした。ウィーンに言ったときにしかり、パリにしかり、ほとんどの都市でこのような教育が行われているのは、本当に素晴らしい事だと思います。
カミーユ・クローデル、素晴らしかったですよー。機会があったら是非、訪れてみてください。
これからもヨロシクお願いします。
| cruasan | 2010/01/11 8:22 AM |
はじめまして。遠いところからちょくちょく覗き見させてもらってます。

私はあまり美術館に興味がある人間ではないのですが、先日購読しているメールマガジンJapan Mail Mediaにオランダに住む春具さんという人が、「ミイラは踊る」というタイトルで美術館や芸術品のよもやま話を書いていました。

その裏話がとっても興味深かったので、ゴシップ好きの私でもそういう話を知っていると美術館めぐりが楽しくなるかもなんて思いました。何事もきっかけなんですなと思う次第です。リンクのっけておきます。

http://ryumurakami.jmm.co.jp/dynamic/report/report1_1874.html
| kkgateway | 2010/01/26 7:06 AM |
kkgatewayさん、はじめまして。
とっても素敵なブログを紹介していただいて、本当にありがとうございました。いやー、世の中すごい人って言うのはいるもんですね。これがネットの面白い所だと思うのですが、ネットの向こう側には、未知の世界が広がっていて、素晴らしい知に触れる事が出来る。
こんな時、良い時代に生まれたなと思っちゃいます。

「何事もきっかけ」、全くその通りだと思います。
僕も出来るだけ、心だけは何時までも少年のままで(笑)、これからも色んな事に興味を持ち続けて行きたいと思っています。

これからもヨロシクお願いします。
| cruasan | 2010/01/27 7:07 AM |
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