地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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パリ旅行その7:環境型権力装置としてのサヴォワ邸:各部屋に展開する螺旋空間について
前回のエントリ、パリ旅行その6:大小2つの螺旋状空間が展開する見事な住宅建築:サヴォワ邸(Villa Savoye, Le Corbusier)その1:全体の空間構成についての続きです。

前回のエントリではサヴォワ邸に流れる螺旋系の運動空間を概観してきたのですが、実はそのような螺旋運動がこの建築の各部屋レベルでも見られるという驚くべき指摘をされたのが
中村研一さんだったんですね。例えばこの空間:



手前には大変印象的な青色タイルが敷き詰められた浴槽がデザインされているのですが、その奥には水平連続窓の一部が見えていて、その窓が右手方向奥へと伸びています。




この水平窓が案内役となり、僕達の足を自然とそちらへと向かわせる、運動のキッカケを創り出しているんですね。もしくはコチラ:




子供部屋でも同様に、入り口からは水平連続窓が見えます。この部屋には中央付近に大きな備え付けの家具が配置されていて、それによって、水平窓の終わりが「敢えて」見えない様になっています。




そして水平窓に誘われる様に右手方向に進むと現れるのが、更に我々を奥へと誘うもう一つの水平窓。最後にもう一例:



キッチンさえも同じ様な空間構成で創られています。




そう、各部屋レベルにおいては、入った先にある窓が視線運動の案内役となり、視線がそこでは止まらないように作用しているんですね。そしてその運動を促しているのが、「奥の存在」だと僕は思っています。コルビジェは敢えて水平窓の終わりを遮る事で、
「奥」を創り出し、「その先に何があるのかな?」と言う期待感を抱かせる装置」を創り出していると言う事が出来るかと思います。

これは当ブログで散々議論してきた、人の動きをコントロールする一種の環境型権力装置(ローレンツ・レッシグや東浩紀さん)だと見做す事が出来ます。つまり、僕達は本当に自分の意思で空間内を動いているのか?もしくは僕達の動きは建築にコントロールされているのか?と言う問題系であり、最近の美術館のオーディオガイドなどに見られる人の動きのコントロールとも密接に関わってくる問題なんですね(詳しくはコチラ:地中海ブログ:ウィーン旅行その9:シェーンブルン宮殿(Schloss Schonbrunn)のオーディオガイドに見る最も進んだ観光システム/無意識下による人の流れのコントロール

環境型権力装置とは何か?というと、我々の身体に無意識下に働きかけ、あたかも「自分の意思で動いたかのように見せかける」事の出来る装置の事です。マクドナルドの椅子が良い例で、客の回転率を上げる為に、わざと椅子を硬くしておく事によって、客が席を早く発つように仕向けているんですね。ポイントは、この椅子はお店側が仕組んだ事にも拘らず、お客さんには、「自分の意思で席を立った」と思わせる事が出来るという点。そしてこの装置の本質は、「我々がどう考えているか?」という、人間の内面には踏み込まず、人間の身体に直接働きかける事によって、我々を「動物的に扱う事が出来る」と言う点にあります。

逆にサヴォワ邸の空間は、そのような、身体に直接働きかけ来訪者の行動を強制的にコントロールするというタイプの装置ではありません。そこでは「建築家の意図を汲み取る」鑑賞者の知識や倫理、そして目の良さに全てが託されています。つまり、そこに建築的仕掛けを見出せる人と見出せない人、螺旋運動が見える人と見えない人がいると言う事です。そしてそれが見える人にとっては、サヴォワ邸の空間に身を置く事は、まるでコルビュジェの魔術にはまっているかのような錯覚に陥るのではないでしょうか?

むむむ・・・サヴォワ邸、本当に面白いなー!まだ幾らでも違う読み方が出来るような気がする。まるで、沢山の宝石が一杯入ったおもちゃ箱のような建築ですね。アイデアに溢れてる!

ここで僕が展開した「コントロール装置としてのサヴォワ邸」は、この建築に対する一つの見方であって、一解釈に過ぎません。そういう風に読む事も出来るかなー、と言う位に思ってもらえれば幸いです。

この建築がこの地に現れてから早80年。今でも変わらず世界中から建築ファンを惹き付け続けているその魅力、それはこの建築に与えられ続ける終わる事の無い「読み」、そしてそのような解釈を許してしまうだけの許容力にあるのでは無いのでしょうか?そんな事をココに来てしみじみ感じてしまいました。
| 旅行記:建築 | 21:55 | comments(0) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
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