地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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パリ旅行その6:大小2つの螺旋状空間が展開する見事な住宅建築:サヴォワ邸(Villa Savoye, Le Corbusier)その1:全体の空間構成について
ル・コルビジェの傑作であり、20世紀を代表する住宅建築、サヴォワ邸に行ってきました。

今回のパリ旅行の目的の一つがこのサヴォワ邸を訪れる事だったのですが、僕がどうしてもこの住宅に行きたかった理由、それは何時もお世話になっている中村研一さんの著書、「サヴォワ邸/ル・コルビュジェ」を読むにつけ、大変な興味が湧いてきたからなんですね。



中村さんは、画面が2分割され双方に異なった奥行きが描かれているピエロ・デッラ・フランチェスカ(Piero della Francesca)の絵画構成にヒントを得て独特のサヴォワ邸論を展開したトーマス・シューマッハー(Thomas L. Schumacher)の論文、「深い空間/浅い空間」を下敷きとしながら、「実はサヴォア邸には2分割された画面構成だけではなく、その裏側にまで入り込む、螺旋系の運動が生じているのでは?」と言う大変興味深い議論を展開されています。そして豊富な写真や図版などを用いながら、大変鮮明に、サヴォワ邸に流れるこの螺旋の空間構成を解説されているんですね。

この説明が余りにも明快且つ、見た事も無いような空間構成だったので、率直にそれらの空間を体験してみたかったと言うのが直接の動機になりました。
さて、最寄のバス停から数メートルも歩くとそこがサヴォア邸敷地内の入り口となり、小道を歩いていくと、緑の木々の間から白い建築が姿を現して来ます: 



否が応にも期待は膨らみます。そして次第に現れて来る風景がコチラ:



サヴォワ邸の正面ファサードです。さすがにプロポーションが良いですね。



ピロティの間を抜け左手方向に沿ったガラス壁が円を描きながら我々をエントランスへと導いて行くのですが、その円の頂点に入り口がある事から、円運動に対して左手方向に折れる形で建物の中に入って行く事となります。



そう、既にここで螺旋の予感が始まっているんですね。



そしてそのエントランスを入った所の風景がコレ:



目の前にはスロープが、左手前方には螺旋階段が見えます。スロープの上方に採られた明り取りから漏れる光が、あたかも「おいで、おいで」と誘っているかの様です。



スロープを折り返すと、左手に先ほどの明り取りが見えるのですが、その窓からは何やらあちらに大きな庭=この建築のクライマックス的空間のようなものがチラチラ見え隠れしています。



そのスロープを上り切り、踊り場で一息つきつつ入った空間がコレ:
 


大きな窓ガラスから明かりが差し込む、大変に気持ちの良い空間です。面白いのは、コルビジェがこの空間の長手方向を様々な道具を使って強調しようとしている事です。



例えばこの連続窓とか、もしくは天井に掛かっている長いステンレスの照明とか。



そしてココで長手方向を強調しつつも、大きなガラス窓が左手前方にある事から、自然と我々の足は、そちらの方向へと引き寄せられて行く事となります。そしてその結果、長手方向に対して90度左に曲がった方向に展開している風景がコレ:



この建築のクライマックス的空間、リビングから望む中庭です。

お気付きでしょうか?下階のスロープから始まった運動が、この中庭に至るにいたって、見事な螺旋形を描いているんですね。更にこの運動は上階へと続くスロープへと引き継がれる事となります:



そしてこの建築の「余韻」部分と言っても良いと思うのですが、このスロープを上り切った所に用意されている空間がコレ:



壁に長方形の穴が空けてあり、そこからあちらの風景を眺める事が出来る様になっているんですね。



今では向かい側に学校の様なものが建ってしまっているのですが、もしそれが無かったら、「さぞかし良い眺めだったんだろうなー」というのは容易に想像が付きます。そして「機械、機械」と宣伝してきたコルビジェが、空間展開の最後に置いたもの、それが「自然」だったと言う事は何か意味があるのでしょうか?考えすぎか(笑)。でも、そのような深読みを誘発させると言う事は、それがそうさせるだけの質を持っていると言う証拠なのですから。

大小2つの螺旋状空間が展開する見事な近代建築:サヴォア邸その2:各部屋に展開する螺旋空間についてに続く
| 旅行記:建築 | 20:04 | comments(2) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント
cruasanさん

ブログを開いたら、あれ、なんかこの家さっき見た???って写真がたくさん。今日たまたま見ていた『夢の美術館・世界の名建築100選』という番組に紹介されていたサヴォワ邸でした。ちょっとしたシンクロにびっくりで、コメントしてしまいました。
冬のパリは寒いですよねぇ。私が行ったときも1月で寒かったですよー
それではパリ楽しんでくださいねー・・・ってもうそろそろバルセロナかも???
| sara | 2010/01/06 11:25 PM |
saraさん、コメントありがとうございます。
世界の名建築100選ですか、是非見てみたかったです。それにしてもすごい偶然ですね。
パリは無茶苦茶寒かったんですが、その分、バルセロナに着いた時、10月のように暖かかったです。パリは雪まで降ってましたし。パリ・・・帰ってきてもう1週間近く経ちますが、又行ってみたい都市です。
| cruasan | 2010/01/09 7:05 AM |
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