地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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バルセロナの中心市街地で新たな現象が起こりつつある予感がするその3:街頭売春が引き起こした公共空間の劣化
前回のエントリ、バルセロナの中心市街地で新たな現象が起こりつつある予感がするその2:逆ジャントリフィケーションの続きです。

世界最古の職業と言われ( 世界の下半身経済が儲かる理由:門倉貴史)、スペイン国内だけで年間180億ユーロを稼ぎ出すと言われる売春産業は、ローマ時代に起源を持つ港町バルセロナにも当然のごとく存在してきました。しかもその規模はヨーロッパの中でもかなり大きい部類に入るものだったようです。

ノーベル文学賞受賞者で敬虔なカトリック教徒だったフランソワ・モーリアック(Francois Mauriac)はネストール ルハン(Nestor Lujan)にパリでこう言っています:

「いわゆる君はバルセロナ出身だそうだね? あの売春の街として有名な」
(直訳すると「あー、あの巨大な売春宿の」となるのですが、これはメタファーで、当時のバルセロナは大量の売春婦が街中にたむろしている事で有名で、街自体が売春町と知れ渡っていたそうです)

… Premio Nobel tan catolico como Francois Mauriac dijo en Paris al escritor Nestor Lujan: “ Asi que usted es de Barcelona? Oh, que gran burdel!” Magazine de la vanguardia, 11 de octubre 2009, P37

その当時の営業形態は主に一階部分にバーなどがあり2階以上に沢山の個室があるという室内売春だったそうで、現在のバリオ・チノ(Barrio Chino)と呼ばれる歴史的中心地区の港に近いエリアには相当数の売春宿が存在していたらしいです。

2年程前に無くなった戦後スペインのジャーナリズム界でその名を轟かせたJosep Maria Huertasは、フランコ体制下において厳しく禁止されていた売春行為に、あろう事か軍人の未亡人が経営に関わっていた事をスッパ抜いて獄中に入れられる羽目になりました(地中海ブログ:カタルーニャの闘うジャーナリスト Josep maria Huertas Claveria)。

もしくはスペインでは大変有名な写真家であるJoan Colomの被写体となってきたのは、バルセロナの中心街に屯する売春婦達でした。


Joan Colom Fotografias de Barcelona 1958-1964



ついでにもう一つ言っちゃうと、近代絵画に革命を起こしたと言われているピカソのアヴィヨンの娘達(Les Demoiselles d'Avignon)なのですが、あのモデルはバルセロナの中心街でピカソが毎晩遊んでいた売春婦なんですね。

これらの事例が示しているのは、当時(フランコ体制下)売春は禁止されていた(1956年に売春禁止令が出ています)にも関わらず、黙認されていたという事実です。多分当時の市当局はこのような売春宿が何処にどれくらいあるか?を把握し、そこで活動が行われる限りは「見てみぬ振り」をしたのではないかと思われます。そんな感じで、裏社会と表社会のバランスが上手い事取れていたんだと思われるんですね。

そのバランスが崩れ始めたのが1992年のオリンピックです。なぜなら市当局がオリンピックの観戦者達に街の「良いイメージ」を売り込むために大々的なクリーン化を計ったからです。その際、中心地区の幾つかの売春宿が摘発を受け、取り潰しがあったそうなのですが、バルセロナの風俗の歴史においては、明らかにその年がターニングポイントと考えられています。これ以降、それまでは保持されていた表社会と裏社会のバランスが急激に崩れていくようになるからです(詳しくはコチラ:地中海ブログ:ヨーロッパの人身売買(Human Trafficking):スペインの場合、もしくは最近話題の映画、「96時間」など)。

このようにして社会問題にまで発展してきた街頭売春なのですが、僕は個人的にこのような街頭売春が中心市街地荒廃の始まりなのではないのか?と勝手に考えています。

彼女達が街頭に立つ事で、そこに闇取り引きのノードが出来る。そのノードを拠点として、次はドラッグの取引が始まる。それを目的とした闇の住人達が集まり、それを聞きつけた「ドラッグ観光」を目的にした観光客が海外から押し寄せ、自国では出来ないあらゆる行為を公共空間でやり始める。それを見た富裕層や中間層の住民達は、この地域を後にし、段々と活気がなくなり、街路が汚れていく・・・とこんな風に。

ここで問われるべき問題の本質は、ではこのような状況において市当局は風俗に関してどう対処するのか?という事でしょうね。つまり売春を必要悪と捕らえ容認した上でコントロール下におくのか、もしくは規制を強くし、非合法にするのか。周知の通り、容認する事で大成功しているのがオランダとドイツです。



特にオランダの状況はちょっと凄い。売春が一職業として確立されているから、税金は勿論、社会的な手厚い保護を受けられるようになっています。(ちなみにギリシャは売春の売り上げをGDPに加算する試みを始めました。何故ならそうでもしないと、散々EUから勧告を受けている最低最悪の自国経済の改善が出来そうにも無いからです。)



更にアムステルダムには売春情報センター(PIC)なるものまで市内にあって、売春婦の実態や偏見を取り除くという活動が行われているようです。

個人的に興味があったのがこの風景。





おなじみの飾り窓の間に現代アートの飾り窓があったり、ファッションの飾り窓があったり、性やアート、宗教(ココは教会の裏手)などが並列に並んでいる風景、正にスーパーフラット(死語か(笑))。そしてコレ:





飾り窓の不具合を業者が直している珍しい瞬間。

上述の売春センターに行って少し話を聞いた所、アムステルダムでは売春婦は建物のオーナーと個人的な契約をしているそうです。宿賃代一時間いくらみたいな。そして曜日や時間帯、更には季節などによって、各飾り窓の宿賃が違うと言う事で、そこに申し込む女の子達のローテーションなども全て各建物(各部屋)のオーナーが管理していると言う事でした。だからもし非合法な移民や18歳以下といった、法律で禁じられている子などが居たら、それは全て部屋を貸しているオーナーの責任にもなるので、そういう事はまず起こらないという事です。

このような管理強化により風俗の全ての問題が解決出来るとは思わないけれども、合法・非合法の間で揺れ、曖昧な答えしか出していないが故に、そこを突かれてマフィアにやりたい放題やられているスペインよりは、明らかに一歩も二歩も先に行っているという感じは受けましたね。

正直な所、僕自身、未だ、この問題にはどうしたら良いのか、答えが出ていません。今は色んな都市の状況を自分の目で見て回っているという段階です。このような「人間の負の部分」は誰でも見たくは無いとは思うのですが、先ずは直視する事から始めなければ、スタートラインにも立てませんから。
| バルセロナ都市 | 21:08 | comments(2) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
コメント
いつも意欲的な記事をありがとうございます。私も売春が、せっかくよい方向に転換してきた旧市街をまた悪循環に導きそうな気がします。東京でもどこでも歓楽街や、いろんな風俗産業はあるわけですが、やっぱり、公共の空間(道路など)は取り締まるべきかなという気がします。ラバルなど、ナイジェリア、中国、パキスタン、中南米系等など、ほんとにあんなに狭いところであらゆるマフィアが暗躍していて・・・濃すぎますよね。ナイジェリアがかなり台頭しているっていう噂ですが。
| kyoko | 2009/10/22 6:12 PM |
kyokoさん、コメントありがとうございます。
ある意味、大変マルチカルチュラルですよね。
南アフリカ系はどうやら最近かなり入ってきているようです。前は東欧系だったのに、その辺のパワー関係もどんどん変わっているようですね。街というのは皆で住む所なので、やはり多数の人達に不快感を与えるような事は駄目だと思います。そういう意味で言うと、街路は取り締まるべきではないかというのが僕の意見です。
| cruasan | 2009/10/23 5:15 PM |
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