地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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健康ツーリズム:スペインの誇る医療サービスの盲点を突いた、グローバリゼーションの闇
先週の新聞に健康ツーリズムに関する記事(El Pais, 1 de Octubre, P26) が載っていました。観光というのは僕達の時代を映す鏡であり、グローバリゼーションの一面が垣間見える現象である事から、当ブログでは関連事項を事ある毎に取り上げてきたんですね。健康ツーリズムについても、バルセロナが試みている上手い戦略として以前取り上げたのですが(地中海ブログ:カタルーニャの打ち出した新しい都市戦略:バイオ医療( BioPol, BioRegio))、今回載っていた記事は、このような健康ツーリズムの「負の面」を描き出そうとする、大変興味深いものだったので、ちょっと紹介したいと思います。

スペインという国はヨーロッパの中でも医療サービスが大変に進んでいる国の内の一つで、病院は基本的にタダなんですね。風邪をひいて病院に行ったって、インフルエンザでタミフルを注射してもらったって、盲腸で手術をしたって、心臓病で臓器を交換したって、全部タダ。無料なんです。しかも、この恩恵に誰が与れるかというと、スペイン人は勿論の事、僕達のようにスペインに住んでいる外国人、そして(驚くべき事に)、スペインを訪れている人全部にその権利があるとしています。唯一の欠点が、待ち時間。風邪でちょっと診てもらいたいだけなのに、待合室で5時間待ちとか、手術をするのに10ヶ月待ちとかあるらしい。そういうのを避けたい人は、民間の保険に入って私立病院に行く事になります。

さて、実はこのスペインの(信じ難い)病院状況を巡って、今大問題が起こってきています。それが今回の記事の中心的な内容だったのですが、そのような「良いサービス」が他国にあると知っているスペイン国外の人達が、自国では受けられないサービス、もしくは自国では莫大なお金が掛かるサービスなどを目的として、スペインに観光がてら、治療しに来るという現象が起こりつつあるんですね。だから今回の記事の題名は「上っ面の厚い観光(Turismo gorron)。

ここで一つ断っておかなければならない事は、EU内の医療サービスに関する協定についてです。ヨーロッパ各国に住んでいる人達は自国で税金などを払い、医療サービス保険みたいなのに加入する事によって、病院に行ったりしている訳なのですが、EUの幾つかの国では、ある手続きをする事によって、他国でも病院に掛かる事が出来る仕組みを取っています。それが、かの有名なE112用紙。この用紙に必要事項を記入して提出する事によって、他国の医療機関で要求された医療費を出身国が全て負担するという事が可能になります。

スペイン人は自国で病院無料制度になれているので、もし他国に行った時に病院に掛かる羽目などになると、お金を払わなければいけないので、ほとんどのスペイン人はきちんとこの用紙を提出します。

しかしですね、他の国からスペインに旅行に来る人達というのは、この用紙を書こうが書かまいが、(上述した様に)スペインでは医療費が無料なので、ほとんどの人が書きません。そうするとどういう事が起こるかというと、これらの人達がスペインで病院に掛かった場合、本当ならその人の出身国が負担するはずの医療費を、スペインで働く我々が負担するという大変理不尽な状況になる訳ですよ。そしてその額が年々増えてきて、今ではスペインで消費される全医療費の内の4分の1程度が、これら怠慢な短期滞在者の為に割り当てられているという、大変馬鹿らしい事になっているそうです。

さて、このような甘い汁があるなら吸っとけというのが人の常。

困った事にこのような状況を利用しようとする人が年々増えてきて、近年では旅行会社などが「健康ツーリズム」と銘打って、手続きを斡旋するまでになっているそうです。上述した様にスペインではどんな手術をしたって無料なので、他国で莫大な費用のかかる手術を受ける為に、わざわざ住民登録をする人達が近年増えてきているらしいんですね。なんだかって言うと、手術までに待ち時間(数ヶ月)が掛かるので、数日の滞在だけでは医者に「自国に帰って治療を受けなさい」と言われてしまうからです。

こういう人達は、手術の順番が来るまでは自国で過ごし、順番が来たらスペインに来るという、すさまじい事をしているらしい。住民登録をする為には、住んでいる場所が必要なのですが、毎月の家賃なんて、手術代に比べれば安いもんですからね。そこに旅行会社が取るマージンを乗せたって、はっきり言って大した事はありません。

スペインが他国に誇る良き医療サービスと近年の物的・人的流動性の容易さ、そしてスペインでの住民登録の容易さと言った、ある種の盲点を突いた、犯罪じゃないけど、倫理的に問題視すべきグローバリゼーションの生み出した、スペイン特有の問題ですね。政府は早急に手を打つべきだと思います。

注意:上述した様に、スペインでは医療費は基本的に全ての人に無料ですが、スペインに旅行に来る人は、絶対に医療保険には入ってきましょう。備えあれば憂いなし。
| 都市戦略 | 21:31 | comments(0) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
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