2009.06.04 Thursday
スペインの大学ランキング:総合ランキングではなく、学部間で競い合うというシステム
最近連続して同じ様な質問を受けたので、一度まとめて書いておくのも悪くないかなーと思ったので、今日はスペインの大学事情について少し書いてみようかなと思います。
(ポンペウファブラ大学図書館)
以前少しだけ書いたのですが、スペインでは大学間に日本のような明確なプラミッド型の構造が存在しません。つまり誰が見てもNo1大学(東大、京大)が存在するというような強い構造が無いんですね。もしかしたらただ単に僕が知らないだけなのかもしれないけど、確かな事は、殆どのスペイン人がそんな事は気にしていないと言う事です。例えば、その辺に居る学生やサラリーマンを捕まえて、「スペインでNo1、もしくは有名だと思う大学は何処だと思いますか?」と聞いても、帰ってくる答えはまちまちだと思います。何故ならそんなもの存在しないし、興味も無いからです。
スペインで重要な事は「何処の大学を卒業したか」ではなくて、「大学を卒業した事」と「どの学部を終了したか(タイトルを持っているか)」の2点です。
我々建築家にとってはこの後者が曲者で、というのも日本では建築学科は工学部に属しているので(美大系は別)、建築学科を卒業した日本人建築家が保持しているタイトルは「工学(Engineering)」なんですね。一方、スペインを含むヨーロッパの教育システムには列記とした建築学部が存在します。だから大学を卒業した建築家は全員、建築家のタイトル(Architect)を持っている訳です。
(政府の授業料引き上げに反対する学生デモ:ポンペウファブラ大学中庭にて)
すると日本人建築家が建築家としてスペインで働こうとした場合、日常的に起こり得る笑えない状況はこんな感じ:
日本人建築家:「こんにちはー。大学を卒業し、3年程度の実務経験がある建築家です。ちなみに一級建築士も持ってます。働きたいんですけど・・・」
秘書:「ハイ、ハイ、毎晩、女体盛りを食べてる日本人ね(菊地凛子さん主演、Mapa de los sonidos de Tokioでカタラン人映画監督のイザベル・コシェット(Isabel Coixet)が全く奇妙な映画を作ってくれたので、夏以降はこんな変なイメージが纏わり付くものと思われます)・・・あれ、あなた建築家だって言ったわよね?でもあなたのタイトル、工学(Engineering)じゃない。ウソ付いちゃ駄目よ。ハハハ」。
日本人建築家:「あのー、日本の生んだスーパースターArata Isozakiも、スペイン人にとっては今や建築の神様的存在、Toyo Itoも保持しているタイトルは「工学」なんですが???ちなみにスペイン人が「禅の精神が見事に表されているー!」とかいう訳の分からない説明をする、コンクリートの神様Tadao Andoは工学のタイトルすら持っていませんが???」
秘書:「そんな事知らないわよ(怒)!一級って何???そんなの大学の建築家のタイトルが無きゃ、何にもならないじゃない!!!それに彼らは彼ら、あなたはあなた。あ、バルサの試合が始まった。さよならー」
みたいな事になるのがオチです。じゃあ、スペインで建築家は働けないか?というと、何の問題も無く働けます(笑)。ここからは話が長くなるので、又別の機会にという事で。
(カタルーニャ工科大学スーパーコンピューティングセンター)
さて、スペインの現行の教育システム(2009年現在)では、高校の最終年度に希望大学と学部を10個くらい書いて、夏前に行われる全国共通のセンター試験(selectividad)みたいなのと最終年度の成績と合わせて、成績の良い人から順に希望の所へ入るというシステムを取っています。
で、我々日本人にとって興味深いのが、「どの大学を選ぶか?」という評価軸なのですが、コレがかなり面白い。どの大学へ進学するかを決める彼らにとっての最重要事項、それはずばり、「家から近い所」です。
(ポンペウファブラ大学図書館上階部)
例えばバルセロナ在住でスペイン文学が専攻したい高校生が、サンティアゴ・コンポステーラ大学やサラマンカ大学が有名(古いから)だからって、わざわざガリシアやアンダルシアの大学に行く事は滅多にありません。家から近いバルセロナ大学、もしくはバルセロナ自治大学やポンペウ・ファブラ大学へ行くものだと思われます。
もっと言っちゃうと、多分みんなポンペウ・ファブラ大学を選びますね。何故ならメトロから一番近いから(笑)。バルセロナ自治大学(バルセロナ市外)なんて最後の選択肢ですね。って、こういう事を真顔で言うから、面白いんだよな、カタラン人!
彼らにとって、大学の名前よりも重要な事。それは家族や友達と過ごす時間なんですね。だから3年前から受験勉強もしないし、浪人も一般的ではありません。中にはどうしても行きたい学部があって、途中で変更するという人は居るようなのですが、あまりメジャーではないようです。
もう一つの決定的な違いは、大学の評価が学部単位になっている事ですね。日本のように何でもかんでも東大(京大)が一番という事はありません。
(バルセロナ大学)
例えば、カタルーニャ工科大学(Universidad Politecnica de Catalunya)には交通分野の世界的権威であるJaume Barceloが居ますし、ポンペウ・ファブラ大学(Universidad Pompeu Fabra)にはヨーロッパの歴史学の重鎮、Josep Fontanaが居ます。だから前者の交通工学部や後者の歴史学部は世界的に知られていますが、その他の学部は誰も知らないと言う事が普通に起こってきます。IESEやESADEと言った、バルセロナを拠点とする世界的に有名なビジネススクールも同じ事で、というのも、IESEやESADEは純粋な大学ではなくて、Navarra大学の一学部(IESEの場合)という扱いになっていますから。
健全だと思います。そんな事情があるから、毎年発表されるスペイン大学の総合ランキングがどれ程有効か?にはかなり疑問がありますし、発行元によってかなりばらつきが見られます。例えば先々週あたりに新聞に載っていたランキングでは確かUniversidad de Navarraが1位だったように記憶していますし、別のランキングではUniversidad de Barcelonaが首位を保持していたりします。下記に載せるのはスペインの新聞社El mundo発行の2008/2009年度版のランキングです。どれだけ信憑性があるのか?はかなり怪しいですが、ちょっとした話のネタにはなるかなー、くらいに考えておいてください。
1. Universidad Compultense de Madrid
2. Universidad Politecnica de Madrid
3. Universidad Autonoma de Barcelona
4. Universidad Autonoma de Madrid
5. Universidad Politecnica de Catalunya
6. Universidad Carlos III de Madrid
7. Universidad de Barcelona
8. Universidad de Navarra
9. Universidad Pompeu Fabra
10. Universidad de Valencia
11. Universidad Politecnica de Valencia
12. Universidad de Granada
13. Universidad de Sevilla
14. Universidad de Alicante
15. Universidad Ramon Llull
16. Universidad del Pais Vasco
17. Universidad de La Coruna
18. Universidad de Salamanca
19. Universidad de Santiago de Compostela
20. Universidad de Alcala de Henares
追記:
最近非常に気になっている事の一つに、バルセロナにボコボコとタケノコの様に出来つつある、私的機関(その多くが何処かの大学とのコラボという形になっている)による「マスターコース」と名を打った教育コースの存在があります。マスターとは直訳すると「修士」となり、日本人の我々にはアメリカや日本でいう「修士かな?」と勘違いしてしまうのですが、スペインでいう「マスタ―コース」はアメリカや日本の高等教育機関で提供されている修士コースとは全く関係がありません。(スペイン文部省に認可された正式な学位(修士に相当)を授与しているコースには「マスター・オフィシャル」と言う様に、「オフィシャル」という言葉が付いています。これはこの記事で取り上げている「マスターコース」とは全く違うのでご注意を)。又、それら「マスターコース」のプログラムは非常にいい加減なモノが多く、その辺の事情を何も知らない外国人をターゲット=食い物にしたものと言っても過言ではないと思います(勿論、全てがそうとは限らない)。特にそれらに共通する特徴として:
1:英語で授業を行う事を宣伝文句にしている。何故なら外国人をターゲットにしているので。又、意味も無く海外からビックネームのスターを呼んできて、その名前で釣る事が非常に多い。
2:授業料が極めて高い。スペインの大学の授業料はどんなに高くても年間1000ユーロ以下が普通。
3:マスターコースを修了した暁に出る学位が、スペインで認められている正式な学位ではないので、ハッキリ言って何の役にも立たない。つまり1、2年かけてがんばってコースを修了しても、それはスペインは勿論、日本の外務省や教育省でも認可されていない教育機関によるものなので、修士という学位に振り返る事が出来ない。
その辺の事情についてはコチラで書きました(地中海ブログ: バルセロナに出来た新しい建築学校その2:バルセロナ建築スクールの諸問題)。もしマスターコースに興味がある方は、事前にその辺の事(学位は正式な物なのか?学費は?単位はどうなるのか?)などを、書面(メール)で、そのコースを提供している機関にご確認される事を御薦めします。
追記その2:
今日の記事(2015年8月30日、la Vangurdia紙)によると、今年度のスペインの大学(学部)の授業料の平均額は1516euro/年(日本円で20万くらい)で、国内で一番高いのはカタルーニャ州で2370euro/年(32万円)だという事です。
(ポンペウファブラ大学図書館)
以前少しだけ書いたのですが、スペインでは大学間に日本のような明確なプラミッド型の構造が存在しません。つまり誰が見てもNo1大学(東大、京大)が存在するというような強い構造が無いんですね。もしかしたらただ単に僕が知らないだけなのかもしれないけど、確かな事は、殆どのスペイン人がそんな事は気にしていないと言う事です。例えば、その辺に居る学生やサラリーマンを捕まえて、「スペインでNo1、もしくは有名だと思う大学は何処だと思いますか?」と聞いても、帰ってくる答えはまちまちだと思います。何故ならそんなもの存在しないし、興味も無いからです。
スペインで重要な事は「何処の大学を卒業したか」ではなくて、「大学を卒業した事」と「どの学部を終了したか(タイトルを持っているか)」の2点です。
我々建築家にとってはこの後者が曲者で、というのも日本では建築学科は工学部に属しているので(美大系は別)、建築学科を卒業した日本人建築家が保持しているタイトルは「工学(Engineering)」なんですね。一方、スペインを含むヨーロッパの教育システムには列記とした建築学部が存在します。だから大学を卒業した建築家は全員、建築家のタイトル(Architect)を持っている訳です。
(政府の授業料引き上げに反対する学生デモ:ポンペウファブラ大学中庭にて)
すると日本人建築家が建築家としてスペインで働こうとした場合、日常的に起こり得る笑えない状況はこんな感じ:
日本人建築家:「こんにちはー。大学を卒業し、3年程度の実務経験がある建築家です。ちなみに一級建築士も持ってます。働きたいんですけど・・・」
秘書:「ハイ、ハイ、毎晩、女体盛りを食べてる日本人ね(菊地凛子さん主演、Mapa de los sonidos de Tokioでカタラン人映画監督のイザベル・コシェット(Isabel Coixet)が全く奇妙な映画を作ってくれたので、夏以降はこんな変なイメージが纏わり付くものと思われます)・・・あれ、あなた建築家だって言ったわよね?でもあなたのタイトル、工学(Engineering)じゃない。ウソ付いちゃ駄目よ。ハハハ」。
日本人建築家:「あのー、日本の生んだスーパースターArata Isozakiも、スペイン人にとっては今や建築の神様的存在、Toyo Itoも保持しているタイトルは「工学」なんですが???ちなみにスペイン人が「禅の精神が見事に表されているー!」とかいう訳の分からない説明をする、コンクリートの神様Tadao Andoは工学のタイトルすら持っていませんが???」
秘書:「そんな事知らないわよ(怒)!一級って何???そんなの大学の建築家のタイトルが無きゃ、何にもならないじゃない!!!それに彼らは彼ら、あなたはあなた。あ、バルサの試合が始まった。さよならー」
みたいな事になるのがオチです。じゃあ、スペインで建築家は働けないか?というと、何の問題も無く働けます(笑)。ここからは話が長くなるので、又別の機会にという事で。
(カタルーニャ工科大学スーパーコンピューティングセンター)
さて、スペインの現行の教育システム(2009年現在)では、高校の最終年度に希望大学と学部を10個くらい書いて、夏前に行われる全国共通のセンター試験(selectividad)みたいなのと最終年度の成績と合わせて、成績の良い人から順に希望の所へ入るというシステムを取っています。
で、我々日本人にとって興味深いのが、「どの大学を選ぶか?」という評価軸なのですが、コレがかなり面白い。どの大学へ進学するかを決める彼らにとっての最重要事項、それはずばり、「家から近い所」です。
(ポンペウファブラ大学図書館上階部)
例えばバルセロナ在住でスペイン文学が専攻したい高校生が、サンティアゴ・コンポステーラ大学やサラマンカ大学が有名(古いから)だからって、わざわざガリシアやアンダルシアの大学に行く事は滅多にありません。家から近いバルセロナ大学、もしくはバルセロナ自治大学やポンペウ・ファブラ大学へ行くものだと思われます。
もっと言っちゃうと、多分みんなポンペウ・ファブラ大学を選びますね。何故ならメトロから一番近いから(笑)。バルセロナ自治大学(バルセロナ市外)なんて最後の選択肢ですね。って、こういう事を真顔で言うから、面白いんだよな、カタラン人!
彼らにとって、大学の名前よりも重要な事。それは家族や友達と過ごす時間なんですね。だから3年前から受験勉強もしないし、浪人も一般的ではありません。中にはどうしても行きたい学部があって、途中で変更するという人は居るようなのですが、あまりメジャーではないようです。
もう一つの決定的な違いは、大学の評価が学部単位になっている事ですね。日本のように何でもかんでも東大(京大)が一番という事はありません。
(バルセロナ大学)
例えば、カタルーニャ工科大学(Universidad Politecnica de Catalunya)には交通分野の世界的権威であるJaume Barceloが居ますし、ポンペウ・ファブラ大学(Universidad Pompeu Fabra)にはヨーロッパの歴史学の重鎮、Josep Fontanaが居ます。だから前者の交通工学部や後者の歴史学部は世界的に知られていますが、その他の学部は誰も知らないと言う事が普通に起こってきます。IESEやESADEと言った、バルセロナを拠点とする世界的に有名なビジネススクールも同じ事で、というのも、IESEやESADEは純粋な大学ではなくて、Navarra大学の一学部(IESEの場合)という扱いになっていますから。
健全だと思います。そんな事情があるから、毎年発表されるスペイン大学の総合ランキングがどれ程有効か?にはかなり疑問がありますし、発行元によってかなりばらつきが見られます。例えば先々週あたりに新聞に載っていたランキングでは確かUniversidad de Navarraが1位だったように記憶していますし、別のランキングではUniversidad de Barcelonaが首位を保持していたりします。下記に載せるのはスペインの新聞社El mundo発行の2008/2009年度版のランキングです。どれだけ信憑性があるのか?はかなり怪しいですが、ちょっとした話のネタにはなるかなー、くらいに考えておいてください。
1. Universidad Compultense de Madrid
2. Universidad Politecnica de Madrid
3. Universidad Autonoma de Barcelona
4. Universidad Autonoma de Madrid
5. Universidad Politecnica de Catalunya
6. Universidad Carlos III de Madrid
7. Universidad de Barcelona
8. Universidad de Navarra
9. Universidad Pompeu Fabra
10. Universidad de Valencia
11. Universidad Politecnica de Valencia
12. Universidad de Granada
13. Universidad de Sevilla
14. Universidad de Alicante
15. Universidad Ramon Llull
16. Universidad del Pais Vasco
17. Universidad de La Coruna
18. Universidad de Salamanca
19. Universidad de Santiago de Compostela
20. Universidad de Alcala de Henares
追記:
最近非常に気になっている事の一つに、バルセロナにボコボコとタケノコの様に出来つつある、私的機関(その多くが何処かの大学とのコラボという形になっている)による「マスターコース」と名を打った教育コースの存在があります。マスターとは直訳すると「修士」となり、日本人の我々にはアメリカや日本でいう「修士かな?」と勘違いしてしまうのですが、スペインでいう「マスタ―コース」はアメリカや日本の高等教育機関で提供されている修士コースとは全く関係がありません。(スペイン文部省に認可された正式な学位(修士に相当)を授与しているコースには「マスター・オフィシャル」と言う様に、「オフィシャル」という言葉が付いています。これはこの記事で取り上げている「マスターコース」とは全く違うのでご注意を)。
1:英語で授業を行う事を宣伝文句にしている。何故なら外国人をターゲットにしているので。又、意味も無く海外からビックネームのスターを呼んできて、その名前で釣る事が非常に多い。
2:授業料が極めて高い。スペインの大学の授業料はどんなに高くても年間1000ユーロ以下が普通。
3:マスターコースを修了した暁に出る学位が、スペインで認められている正式な学位ではないので、ハッキリ言って何の役にも立たない。つまり1、2年かけてがんばってコースを修了しても、それはスペインは勿論、日本の外務省や教育省でも認可されていない教育機関によるものなので、修士という学位に振り返る事が出来ない。
その辺の事情についてはコチラで書きました(地中海ブログ:
追記その2:
今日の記事(2015年8月30日、la Vangurdia紙)によると、今年度のスペインの大学(学部)の授業料の平均額は1516euro/年(日本円で20万くらい)で、国内で一番高いのはカタルーニャ州で2370euro/年(32万円)だという事です。