地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
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バルセロナからの小旅行その2:エンリック・ミラージェス(Enric Miralles)とベネデッタ・タリアブーエ(Benedetta Tagliabue)(EMBT)のパラフォイス図書館(Biblioteca Publica de Palafolls):空と大地の狭間にある図書館
前回からの続きです。
住宅地の外れ、緑が覆い茂る公園の中に今回目指すべき建築は佇んでいます。そう、この建築の第一印象は「ひっそりと佇んでいる」でした。



この図書館は、「葉っぱ」のような形をした単位が幾つも寄り添う事によって全体を構成しているんですね。その一つ一つの単位を見ると、葉っぱの上に透明な気泡が幾つもくっついていたり、鉄骨が飛び出していたりと大変独特な形態をしています。しかしそんな異様な様相も半地下化する事によって、「大地にしっかりと立っている」というよりはむしろ、「地中から這い出てきた」というような表現をしている事、そして葉っぱから伸びた幾つもの触手のようなレンガの腰壁が「線」から建築本体の「塊」へと違和感無く段階的に形態を移行させる事によって、この建築を公園のランドスケープの中に一体化させる事に成功していると思います。



この触手が大変良い感じなのですが、優しいカーブを描きつつ入り口に向かって扇形に狭まって行っているので、包み込むかの様な感じで我々をエントランスへと導いて行ってくれます。そしてエントランスを入った所の空間がコレ:



鉄骨が空を舞い、屋根の隙間から青空が見え、空間が自由自在に連続している大変気持ちの良い空間です。外観同様一枚の葉っぱが一つの部屋単位を構成していて、強い仕切り壁などは特に無いのですが、緩いボールト天井が一つの部屋という単位を「見えない壁(天井)」によって緩やかに規定しているかの様です。ルイス・カーンのキンベル美術館がこんな感じですよね。つまり全体としては繋がっているんだけれども、その中にも細胞の単位が存在するという様な。

さて、僕にとって非常に興味深いのが、この建築に展開している「空間の物語」です。この建築に流れている空間の物語は、エントランスを入った、正にその時から始まります。その始まりがコレ:



三本の鉄骨です。エントランスをくぐった所で出くわす、とても力強いこれら3本の鉄骨がコノ建築の空間物語の起点です。これら3本の鉄骨はそれぞれ、自由自在に伸びている空間の方向性を指し示しているんですね。先ずは向かって左手側から。





葉っぱの単位を突き破って空間を貫いている鉄骨が指し示す方向へと歩を進めていくと次室へと導かれるのですが、ここにはこの上なく気持ちの良い空間が広がっています。



屋根の大部分を大胆にガラス張りにする事によって、「見上げれば空」空間を実現しているんですね。図書館って言うのは、概してオフィス建築のように水平積み上げが定石になっていると思うのですが、その結果、見える風景は水平方向が多いと思うんですね。この建築のような空が見える図書館は非常に珍しいのでは無いのでしょうか。そしてその事によって、空が見える事がこんなにも気持ちが良い事なんだ、といういう事を我々に発見させてくれます。更にこの感覚は、この空間に施された第二の仕掛けによって別次元へと我々を連れて行ってくれます。それがコレ:



水平窓から目線上に展開する緑の空間です。この建築は半地下になっていて、目線が道路くらいの高さにあります。更に盛り土をした上に緑を配しているので、内部から見た時に緑一面が視界に入る事になるんですね。結果として、見上げれば空、目の前には緑という、空と大地に挟まれた空間が出現する事となった訳です。素晴らしい空間です。



さて、この部屋の端で鉄骨が又別の鉄骨と交わり、次の部屋を暗示しています。一番奥の部屋には大切なものをかくまうかのように子供の為の読書空間がしつらえられていました。まるで子供は将来の村の宝物と言わんばかりに。

今来た道を見返して見た所がコレ:



空間が連続しているので向こうまで見渡す事が出来ます。さて、エントランスホールへと戻り、今度は右手方向に進んでみます。



先ずは一番太い鉄骨、この建築を支え全体を貫いている大黒柱のような鉄骨から。力強く、明らかにコノ建築の中心性、拠り所を暗示しています。



そしてこの太い鉄骨に交わり、そこを出発点としている何本もの細い鉄骨が、伏線として様々な方向へと伸びる空間とそれらの方向性を暗示しています。

そしてイヨイヨこの建築のクライマックス的空間へと入っていきます。ココがとても面白い所なのですが、この空間内で唯一鉄骨によって方向を示されていない所にクライマックス空間を持ってきています。それがエントランス前の3本の鉄骨が交わる交点の裏側。



これら鉄骨に守られるかのように、その空間は存在します。



そしてここにだけ、木で覆われた大きな大きな扉が付き、明らかに特別感を醸し出しているんですね。それがこのホール:



30人も入れば一杯になってしまうような小さなホールなのですが、他の空間が外に開かれ連続性を重視しているのに対して、この空間だけは内側に閉じる事を志向しているかのような印象を与えます。



そしてこのホールの中心にあるのが、大きなオブジェのような机です。



そう、ミラージェスはコノ建築のクライマックスに家具を持ってきているんですね。コレには驚いた!この家具、勿論特注で、折り畳み可能の大変に優れたデザインをしています。その秀逸なデザインから、この家具の回りに、ある種の空間が出現していると言っても過言では無いと思うくらいです。

「家具がクライマックス的空間だって?そんな馬鹿な事があるか!前代未聞だ!」と思われる方が多いかとは思いますが、僕はこのような空間を以前に体験した事があります。それも、かのカルロ・スカルパの珠玉の作品、クエリーニ・スタンパリア(Fondazione Querini Stampalia)にてです。そこではクライマックスに、壺による大変特殊な空間体験を持ってきていました(地中海ブログ:カルロ・スカルパ(Carlo Scarpa)の建築その2:クエリーニ・スタンパリア(Fondazione Querini Stampalia):空間の建築家カルロ・スカルパ:ものすごいものを見てしまった)。更に、カステル・ヴェッキオ(Castelvecchio)では、各展示室に置かれた家具が、空間の質を左右する重要な要素として考えられていたんですね(地中海ブログ:カルロ・スカルパ(Carlo Scarpa)の建築その3:カステルヴェッキオ(Castelvecchio):空間の建築家カルロ・スカルパ:ものすごいものを見てしまったパート2)。僕がこの事に気が付いた時の驚きと感動と言ったらありませんでした。

そんな事を考えると、同じラテン文化圏に属するミラージェス、そしてスカルパの事など勿論承知のイタリア出身の建築家でミラージェスのパートナー、ベネデッタ・タリアブーエが家具を重要な空間要素と考え、空間物語のクライマックスに持ってきたって、何の不思議も無いと思います。大変面白い空間の物語構成です。

そんな事を思いながら外へと出てみます。この建築の基本単位が「葉っぱ」だという事は上述した通りなのですが、ミラージェスのデザインセンスがこんな所にも、ちらりと光っていました。それがコレ:



外部機械室です。基本単位(葉っぱ)を繰り返しておいて、特別な一部分だけ抜くというのは大変に巧い&センスの良いデザイン処理です。



槙さんが幕張メッセパート2でこのパターンのお手本のような回答を示してくれていますけど。

さて、最後にどうしても書きたかった事がコレ:



実はこの図書館、今ではエンリック・ミラージェス図書館と呼ばれているそうです。多分、自分達の町にこの上無い贈り物をしてくれた建築家に対する最大の敬意なのでしょうね。
ポルトガルに住んでいた時に感じた、「建築家とは政治家同様、地元の人々の声を具現化(視覚化)してくれる地元のヒーローである」という、元来の建築家の職能を全うしていたシザと同様、この村の人々にとってミラージェスというのは、この町のヒーローだったんだなー、という事を実感させてくれます。偉大な建築家、そして見事な建築でした。
| 旅行記:建築 | 19:56 | comments(0) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
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