地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
グラシア地区歩行者空間計画BMW賞受賞
大変嬉しいニュースが飛び込んできました。以前僕が担当していたバルセロナのグラシア地区歩行者空間計画がBMW賞を受賞しました!BMW賞というのは、優れた都市計画などに贈られる賞として、都市計画のメッカであるバルセロナは勿論の事、スペイン中の建築家や都市計画家達が「今年はどのプロジェクトが選ばれるんだろう?」と、固唾をのんで見守っている賞の事なんですね。この賞が何故これ程注目されるのかというと、その年の受賞プロジェクトが、ある種の「モデル」として、他の都市のお手本にされるという背景が少なからずあるからです。



グラシアの歩行者空間計画については今まで散々書いてきたのですが、手短に言うと、自動車の排気ガスや騒音に塗れまくっていた地区を歩行者中心で緑溢れる地区に変えちゃおうっていう、当時としては大変画期的な計画の事です(地中海ブログ:グラシア地区祭り:バルセロナの歩行者空間プロジェクトの責任者だったけど、何か質問ある?)。まあ、それが故に、当時は近隣住民からの反対が凄くって、毎週末の様にデモが行われたり、「バルセロナ市役所は何も分かってない」みたいなプラカードを乱立させられたりと、計画が終わる直前まで気が気で無いプロジェクトでした。

その後、アスファルトの舗装や信号機の調整、そして植栽など全ての計画が完了した後の歩行者の実態調査とその分析も引き続き僕が担当してたんだけど、その調査結果によると、このエリアを訪れる歩行者と自転車の数が劇的に増加して、更に個別インタビューを行った所、近隣住民を始め、商店の人達などの満足度が以前に比べて伸びている事などが分かってきました。当然と言えば当然で、と言うのも、歩行者が増えれば商店の前を通る人の数が増加し、それだけ売り上げに結び付く「可能性」が高まるからです。

この計画を皮切りに、バルセロナ市内では22@地区の歩行者計画(地中海ブログ:22@地域が生み出すシナジー:バルセロナ情報局(Institut Municipal d'Informatica (IMI))、バルセロナ・メディア財団(Fundacio Barcelona Media)とポンペウ・ファブラ大学(Universitat Pompeu Fabra)の新校舎)、そしてヨーロッパにおいて最もサステイナブルな都市の一つとして知られている(というか、日本ではさっぱり知られていない)バスク地方のビトリア市でも、次々とこの歩行者空間計画を採用し始め、僕もこれらの計画に駆り出される事となったんだけど、ビトリア市の計画なんかは今思い返してみても「結構良く出来てたなー」なんて思ったりしちゃいます(地中海ブログ:フランクフルト旅行その3:広告としての緑の都市計画)。



都市内を歩行者空間にするだけでなく、都市を取り巻く様に「緑の指輪」を創り出す事によって、都市の境界を明確にすると同時に、際限無いアーバニゼーションを抑制しつつ、更にはそのエリアを緑溢れる公園として解放するという計画を立案、そして実施したんですね。

これらの計画に見られるように、今、ヨーロッパの諸都市では明らかに自動車を都市から追い出し、そして歩行者中心の都市に移行していこうという意図が見られます。勿論これはそんなに簡単な話ではなくて、自動車というのは(ある意味)都市経済を回しているモーターでもある事から、それをあまりにも排除してしまうと、今度は都市の経済活動が停滞してしまうという、ある種の矛盾をも抱えているからです。

故に歩行者空間を計画する際に重要だと思われるのは、都市という大きな枠組みの中において、「どの地区をどういう位置付けにしたいのか?」という、都市全体から見た時の都市戦略だと思います。それが全てであり、今までのバルセロナの都市計画における成功の鍵はそこにあったと言っても過言では無いと思います。

何はともあれ、嬉しいニュースでした。

追記: バルセロナのレストラン情報で書こうかと思ったけど、書く程でもないのでココに書いちゃおう。昨日友達に連れて行ってもらったレストランで、生まれて初めてエスカルゴを食べました:



初めは、「ぎゃー」とか思ったんだけど、食べてみたらこれが意外に美味しかった。普通のエスカルゴみたいに大粒ではなくて、カタルーニャ特有の小さいサイズのカタツムリ。バルセロナに来られたら、一度試されてみるのも悪くはないかも。
| スペイン都市計画 | 07:48 | comments(10) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
スペインの医療システムについて2:スペインの医者の驚くべき給料体系について
前回のエントリ、スペインの医療システムについて1:歯医者の場合の続きです。前回のエントリで何故わざわざ僕の歯の話題を出したのかと言うとですね、何も僕の近況報告をしたかったからではなく、ここ数週間スペインで大問題となっている医療機関への予算削減問題を話題にしたかったからです。

現在スペインでは医療機関への予算削減が社会全体を巻き込んだ大問題にまで発展してて、バルセロナではそれこそ毎日の様に医療関係者によるデモが見られる程にまでなってきたんだけど、何でかって、州政府が要求している予算の削減額が尋常ではない為、医者や看護婦さんの給料をカットするのは当たり前、それでも未だ足りないから、病院のベット数を減らしたり、勤務時間を減らしたりとまあ、ありとあらゆる努力をしているにも拘らず、更なる削減を州政府が要求しているからなんですね。

大体、医療と言うのは我々の社会にとっては基礎中の基礎に当たるインフラであって、そんな社会を維持する上で最も大切なインフラには「どんな事があっても手を出さない」というのが筋だとは思うんだけど、スペインの各自治州がそこにまで手を出し始めたという事は、「医療にまでもメスを入れざるを得ないくらい州政府が追い込まれている」という証だと思います。

そんな状況なので、最近のメディアには医者や看護婦さん達が置かれた情報が事細かに載ってたりするんだけど、それを見るに付け、「えー、これ本当なの?」って言う衝撃の事実を発見しちゃいました。それがスペイン、もしくはカタルーニャ州における「医者の給料」に関する話題です。

以前のエントリで書いた様に、スペインには公立と私立と言う2つのタイプの病院が存在するんだけど、スペインにおいてステータスが高いのは公立病院で働くお医者さんです。だから王様やお姫様、もしくは先日結婚したばかりのスペインの大富豪、アルバ公爵婦人(85歳)なんかが病気になった時などは、多くの場合、公立の病院に行って治療を受ける事になるんですね。ちなみにスペイン国王なんかは手術の為にわざわざバルセロナの公立病院に来たりしています。この事実は「バルセロナの医療機関のレベルの高さ」を物語っていると思います。もう一つちなみにアルバさんの今回の結婚相手は全く普通の公務員の方で、巷では「財産狙いか?」との噂が絶えなかったんだけど、それよりも何よりも、結婚式でアルバさんがフラメンコを踊っていたのにはちょっと笑った:

 

で、ここからが問題なんだけど、公立病院のお医者さんって言うのは当然の如く公務員である訳で、スペインにおける公務員と言うのは、階級によって給料が厳しく制限されているんですね。で、先日の新聞に載ってた情報によると、何と、スペインの公立病院で働く医者の給料は最高で月々2500ユーロ(1ユーロ100円で計算して日本円で25万円)程度と言う事が判明してしまいました!

更に、この2500ユーロ(詳しく言うと2542ユーロ)と言うのは基本給+変動給という合計で、基本給は月々1110ユーロ(11万円)なんだそうです。更にその下のクラスになると、月々の給料が1200ユーロ(12万円)で基本給は550ユーロ(5万5千円)とかになるんだとか。更に最近の給料カットなどの影響で、月々800ユーロ(8万円)程度しか貰ってない医者も多いという事も載っていました。

お医者さんって「ものすごくお金持ち」、もしくは「凄く稼いでいる」っていうイメージがあったんだけど、そのイメージはスペインでは必ずしも正しくは無い様です。それ以上に、「人の命を扱う医者の給料が2500ユーロってどういうこと?」とか思ってしまうのは僕だけではないと思います。ちなみにさっき、Youtubeでバクマン見てたんだけど、その中で漫画家のアシスタントの給料の話題が出てきました。その人はかなりの経験者で、アシスタントの中でも最上級クラスらしいんだけど、彼の給料は月々38万円なんだとか。スペインで月々38万円(3800ユーロ)の給料って言ったら、もうそれこそ、大会社の社長とかそんなクラスじゃないのかな?医者は勿論、大学の名誉教授クラスだって全く足が及ばない額ですからね。ちなみにスペインの大学教授の給料も安くて、最高でも3000ユーロくらい。

スペインの医者と言うのは世界的に見ても大変レベルが高く、スペインの医療機関はしばしば世界的な評価に上る程だという事は良く知られた事実だと思います。例えばバルセロナのValle de Hebron大学病院は世界で初めて顔全体の移植手術に成功してるし、同大学病院の外科医であるJose Balselgaさんがボストンにあるマサチューセッツ病院(Massachusetts General Hospital)の癌研究所のチーフと、ハーバード大学メディカルスクールの教授に招かれたというニュースは世界的な注目を集めたばかりです。

今までは、こんなレベルの高い病院での診察が無料だという事に、ただただ驚いてきただけだったけど、そこで働いている医者の給料の実態を知って、その驚きが2倍にも3倍にもなりました。このスペインの医療システムについてはまだまだ未知の部分が多そうです。
| スペイン都市計画 | 04:47 | comments(0) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
スペインの医療システムについて:歯医者の場合
歯が痛い・・・。何か先週辺りから急に右奥歯の辺りが痛くなってきて、歯磨きとか一生懸命してみたんだけど、どうにもならず(当たり前か(苦笑))・・・しょうがないから知人に紹介してもらった歯医者(私立)に行ってきたんだけど、歯医者さんが僕の口の中を見て一言:

「あー、親知らずに大きな穴が開いてますねー。こりゃ、抜かなきゃ駄目ですね」

とか言われてしまった・・・ガーン(悲)。で、抜く為には先ずはレントゲンを撮って親知らずがどうやって生えてるかを確認しなきゃいけないそうなんだけど、偶然にもそこでスペインの医療システムに関する新たな事実を発見してしまいました。これこそ正に怪我の巧名(笑)。ちなみに親知らずは英語でWisdom tooth、スペイン語ではMuela del juicioと言います(どうでも良いマメ知識終わり)。

スペインの医療システムについては今まで散々書いてきたと思うんだけど(地中海ブログ:ヨーロッパ各国の導入している医療システムについて)、手短に言うと、スペインでは心臓の手術をしようが、腎臓を移植しようが、医療費は基本的に無料です。「えー、タダなの??」とか思ってしまうのですが、本当にタダなんです!このシステムこそ、悪名高いフランコ独裁政権が残した唯一ポジティブな功績だとも言われてるんですね(知人の看護婦さん情報)。このシステムがスペイン在住者にとってだけでなく、ヨーロッパ市民にとってもどれ程魅力的か?と言う事は、近年勃興してきた「健康ツーリズム」なるものに逆説的に見る事が出来ると思います(地中海ブログ:健康ツーリズム:スペインの誇る医療サービスの盲点を突いた、グローバリゼーションの闇)。

スペインにおける医療システムをもうちょっと詳しく説明するとですね、スペインには公立と私立の病院があるんだけど、公立の病院には住民登録がしてあれば、誰でも無料で診察を受ける事が出来ます。更に凄い事には、スペインには「スペイン国に滞在し、医療を必要としている人に対してはそれを拒んではいけない」みたいな法律が存在する為、住民票を持たない観光客でさえも救急の場合に限り、無料で診察してもらえる事が出来ちゃうんですね。

(要注意) だからと言って、日本人の皆さんはきちんと医療保険に入ってくる事をお勧めします。何かしらの不測の事態から、「あなたは診察は受けられません」なんて事が起こらないとも限らないので。

反対に、私立の病院の場合には、各医療保険会社と契約する事によって契約専門医なんかに掛かる事が出来るんだけど、「社会保障で全ての人に公立病院での診察が保証されてるのに、何で私立の病院が必要になるの?」って言うとですね、公立病院は無料だとは言っても、何時も込んでて、「今すぐ治療が必要なのに来週まで待たされる」って事が非常に多いからです。そういう場合、私立の病院と契約していると直ぐに診てもらえるという事になる訳ですよ。

もう一つ、スペインの病院に関する面白い特徴としては、「私立の病院よりも公立の病院の方が医者のレベルが高く、はるかに良い機材が揃っている」という事が挙げられるかと思います。だから軽い病気なんかは私立病院で見てもらえるんだけど、ある一定の症状を超えると、私立から公立へと自動的に移されるなんて事がしばしばです。

で、今回の僕の歯が正にその状況だったのですが、というのも、僕が最初に行った私立の病院には大規模なレントゲン機材が無かった為に、「一度、公立の病院へ行って撮ってきてください」とか言われた訳ですよ。で、早速電話してみたら、思いがけない事を言われてしまいました。

cruasan:「あ、もしもし、cruasanですけど、歯が痛くて私立の病院に行ったら、親知らずに穴が開いてて、抜かなきゃいけないって言われたんですけど・・・。で、その前にレントゲン写真を撮って来いと言われました。と言う訳で、予約したいんですが・・・」

病院の受付:「そうですか、でも、その場合はコチラ(公立病院)の歯医者による診断で、もしレントゲンが必要なら無料で撮る事が出来るのですが、そうでない場合は、料金が掛かる事になりますが、宜しいですか?ちょっと前までは、私立の病院での診断書や要求書があれば公立病院でもレントゲンが無料で撮れたのですが、最近政府が実施している予算削減なんかからシステムが変わったんですよ。と言う訳で、最初にこちらの歯医者さんによる診断を受けてもらう事になります」

cruasan:「あ、そうなんですか、分かりました。で、もしレントゲン写真を撮って、抜かなきゃいけない場合はどうなるんですか?」

病院の受付:「その場合は勿論抜く事になると思います。無料です。もし生え方が複雑で外科手術が必要な場合も、大きな病院を紹介します。その場合も無料となっています。」

し、知らなかった!!スペインにおいて抜歯って無料だったんですね! その前に、そもそも各地区にある町医者(CAP)に歯医者の部門があるなんて知らなかった。個人的には大発見です!ただ、「全ての治療が無料か?」と言うと、どうもそういう事では無いらしく、どうやら、町医者が診断して「どうしても抜かなきゃいけない場合」など限られるそうです。虫歯を治すと言うのは、これに入るのか?どうなのか?はかなり微妙。僕の場合の様に、「親知らずを抜く」は無料っぽいです。

スペインの医療システムについて2:スペインの医者の驚くべき給料体系についてに続く。
| スペイン都市計画 | 00:04 | comments(6) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
スペインの管制官の仮病騒動その3:飛行機キャンセルに伴うヨーロッパの規制について
昨日午後に起こった、航空管制官達の「仮病」に伴うスペイン全土での空港閉鎖なのですが、一夜明けた今日、空港は軍の管理下に入り、サパテロ首相が今正に、国家の非常事態宣言(Estado de Alarma:3段階ある非常事態宣言の内の最初のヤツ)を出そうとする事態にまで至っています(地中海ブログ: スペインの航空管制官の仮病騒動その2)。

今回の管制官の仮病による職場放棄は、スペインで昨日から始まった大型連休に合わせて計画的に行われたものである為、政府は勿論の事、一般人もかなり怒っていて、昨日の勧業大臣じゃないけど、市民社会は「管制官、全員首にしろ!」って言う勢いなんですね。今日の新聞(
La Vanguardia, 4 de Diciembre 2010)には、1981年のアメリカで起こった航空管制官のストライキに対して、レーガン大統領が1万人以上の管制官を首にしたって言う事例が載ってたけど、まあ、現実問題、スペインで全員首は無いですね。しかし、これだけ騒ぎが大きくなってくると、管制官側は、政府が要求している給料の大幅カットを含んだ、かなり厳しい要求を飲まなければいけない状況に追い込まれた事は確かだと思います。なんせ、今回はバックにスペイン国民が付いてますからね。しかもかなり怒ってる!

さて、今回の事件では昨日から今日にかけて、
2日間だけで少なくとも約30万人の足に影響が出たと推測されているのですが、そんな被害を被った旅行者の皆さんにとって、とっても気になるのが、「チケットって払い戻されるの?」とか、「飛行機のキャンセルに伴って、余分なホテル代が掛ったんだけど、この代金って戻ってくるの?」って言う現実的な問題だと思います。

この点に関しては、ヨーロッパでは、
2004年の211日にヨーロッパ議会を通過した規制(El Reglamento (CE) 261/2004 del Parlamento Europeo y del Consejo de 11 de febrero de 2004)が適応されていて、それによると、

「天候やストライキ、政治的軍事的と言った不可避の理由により、自分が乗るはずだった飛行機がキャンセルになった場合、航空券を発行した航空会社はクライアントに対して、別の飛行機を用意するか、もしくは電車やバスと言った別の交通手段を用意するか、もしくは航空券代を払い戻すかしなけらばならない」


みたいな事が書かれています。更に、このキャンセルが自分が普段住んでいる都市以外で起こった場合、その航空会社はクライアントに対して:


「次の飛行機が飛び立つまでの間のホテルと食事、そして
2回の電話と2回メール、そして2回のFAXを無料で提供する事が義務付けられている」

と言う様な事も書かれているんですね。


多分、ここは注意しなきゃいけない所だと思うんだけど、この場合、「各航空会社が食事とホテルを提供しなければならない」と書かれているのであって、「クライアントが勝手に自分の好きなホテルを予約して、その辺のレストランで食事をして、それらのレシートでペイバック」
とはなっていない所だと思うんですね。あくまでも、食事とホテルは「航空会社が提供する」という風になっているんですよ。まあ、航空会社もバカじゃないから、想像するに、食事にはサンドイッチとパックのジュース、ホテルは空港内の安いホテルと言う所じゃないかと予想されるんですけどね。

そして今回の事件に伴って、議論の焦点となりそうなのが、「果たして航空会社は、各クライアントが旅行先で予約していたホテルのキャンセル料や、レンタカー料、もしくは演劇のチケット代などを支払わなければならないのか?」と言う点だと思われます。
上述した規制では、

「天候やストライキなど、不回避な理由で飛行機がキャンセルになった場合、クライアントが旅行先で被る損失(ホテルのキャンセル代など)は払う義務無し」


としています。


しかしですね、今回スペインで起こったのは、天候など絶対に避ける事が出来ない理由ではなくて、「管制官の仮病」と言う、云わ場、彼らの怠惰によるものなので、これは規制で定められている「不回避」には当てはまらないのでは?と思われる訳ですよ。そうすると、今回影響を受けた少なくとも
30万人もの人達のホテルのキャンセル料やレンタカー料だとか言う、莫大な損失を航空会社は払わなければいけないのか?と言う問題が出てくるんですね。まあ、勿論その場合は、各航空会社は、管制官を雇っているAENAに損害賠償請求をすると言う手段を取るんだとは思うんですけどね。

まあ,ホント、一日も早く、この問題が解決される事を願います。


下記にスペインの空港や代表的な航空会社の電話番号を載せておきます。


AENA: 902404704
RENFE: 902240202
IBERIA: 902400500
SPANAIR: 902131415
AIR EUROPA: 902401501
OCU: 913000045
FACUA: 954909090
UCE: 915484045
| スペイン都市計画 | 00:30 | comments(4) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
サラゴサ(Zaragoza)の都市戦略
昨日の新聞にサラゴサの都市戦略に関するっぽい記事(Aragon, la apuesta logistica, La Vanguardia, 7 de Septiembre, 2008)が載っていました。「関するっぽい」と書いたのは、この記事が「サラゴサ都市戦略」を前面に謳っている訳ではなくて、サラゴサが今後都市としてロジスティック(logistic)の分野に力を入れていく事を説明した記事だったからです。それが僕から見ればサラゴサの都市戦略に見える、と、まあ、こんな程度の事です。

つい見過ごしてしまいそうな記事だったのですが、サラゴサの都市としてのポテンシャルの高さから少し取り上げる事にしました。

前にも書きましたが、サラゴサという都市は立地条件が非常に良く、巧く戦略を練れば今後急成長が期待出来る都市なんですね。国際的には未だ全く知名度が無い小都市ですが、やはりそのポテンシャルの高さに気が付いている人は既に行動を始めています。そしてそれに触発されるようにサラゴサ市(Ayuntamiento de Zaragoza)とアラゴン政府(Gobierno de Aragon)もその事には十分自覚的だと僕は思います。

先ずは何がそんなに地の利があるのか?というと、サラゴサはバルセロナ(Barcelona)とマドリッド(Madrid)の丁度真ん中に位置し、バレンシア(Valencia)とビルバオ(Bilbao)の間に居るんですね。つまりスペインで最も人とモノの往来が激しい東西軸(マドリッドーバルセロナ)と、太平洋・大西洋に最大級の港を持つ南北軸(バレンシアービルバオ)の中央に位置している訳です。

かつてスペインの近代歴史学を切り開いたビセンス・ビベス(Vicens Vives)は、ヨーロッパとアフリカの間に位置しているカタルーニャを指して「辺境の渡り廊下」と呼び、それがカタルーニャの混成文化という特長を創り、異常なまでの発展を促したと指摘しましたが、サラゴサも21世紀における「渡り廊下」に成り得る可能性を持った地だと思います。

さて、次に問題になるのは、では一体このような地の利を生かして何をするのか?という事です。そこでサラゴサが考え出したのがロジスティックなんですね。ロジスティックとは何か?というと、簡単に言えば、物的流通を効率化するシステムの事です。つまり製造した物をどうやって集めてどうやって分配するか?更にそれをどのように調達・配送したら最も効率が良くなるか?それを扱うのがロジスティックです。

サラゴサは今正にヨーロッパにおけるロジスティックの中心になろうとしています。
まあ、成ろうとしたからといってなれるモノでもないのですが、それはサラゴサの巧い所、というか見習うべき所なのですが、彼らは他都市で成功した都市モデル(バルセロナモデルみたいな)を自分の所のコンテクストに無理やり当てはめるというような事はしていません。彼らがロジスティックを目指した理由、それは自国を十分に分析した結果出て来た結論だったんですね。

それこそ上で述べた東西南北の軸線上に都市が乗っているという事実だった訳です。スペイン2大都市を結ぶ高速鉄道の中央に位置している事から人とモノは自ずと集まります。更に港を経由しなければいけない物流はバレンシアとビルバオがカバーしている。モノの流れには空輸出来るモノと出来ないモノが存在します。だから都市の発展の為には必然的に空港と港が重要なファクターになってくるという事は当ブログで何回か言及した通りです

昨日の新聞記事によるとサラゴサはもう既にヨーロッパ随一となるロジスティック・サラゴサプラザ(logistica de Zaragoza Plaza)なるものをアラゴン政府(51,52%)、サラゴサ市(12,12%)、Ibercaja(18,18%),CAI(18,18%)の出資で建設中だとか。その大きさは12,826,000m2で30億ユーロ(日本円で約2兆円)の投資を見込んでいるそうです。

更にサラゴサの戦略は箱物を作る事だけに集中しているわけでは決してありません。世界の知識と情報を集める為に地元サラゴサ大学(Universidad de Zaragoza)が米マサチューセッツ工科大学(MIT)と協同で日本の修士課程にあたるMaster of engineering in Logistics and Supply chain managementを創設したんですね。これによって世界最高峰の頭脳とコンタクト、そしてそれらが惹き付ける巨額の投資の可能性を確保しました。実はもう既にその効果の片鱗が出ていて、それが今年開かれているサラゴサ万博や都市計画の裏方に見る事が出来ます。

サラゴサ万博と関連して、現在サラゴサでは「サステイナブルでインテリジェントな都市:都市交通の新しいコンセプト(La ciudad inteligente y sostenible: un nuevo concepto de transporte urbano)」をキーワードにMilla Digitalという計画が進行中です。その音頭を取っているのがMITメディアラボ教授のウィリアム・ミッチェル(William J.Mitchell)。更に万博にはMITSENSEablecity Labで近年力を付けてきたカルロ・ラッティ(Carlo Ratti)も入っていますし。

私見ですけど、ウィリアム・ミッチェル率いるMITとの仲介役になったと思われるのはマニュエル・カステル(Manuel Castells)でしょうね。何故カタラン人のマニュエルがアラゴンに肩入れするのか?それはお隣が発展するとこちらにもポジティブな影響が出てくるからです。ジョルディ・ボージャ(Jordi Borja)が言っているように、シティ・リージョン(City Region)を前提とした都市間競争時代においては、どの都市が勝ってどの都市が負けるという勝ち負けゲームは意味を成さなくなるんですね。そうではなく、繋がっている隣の都市が発展する事が自身の都市が発展する事に繋がる、それがシティ・リージョン時代の都市間競争の法則です。

そう考えると、ウィリアム・ミッチェルを始め、サスキア・サッセン(Saskia Sassen)やピーター・ホール(Peter Hall)など市役所の助言役にスペインの一地方都市をグローバリズムの中で考察する面々が顔を揃えているのにも納得出来るかー。

更に更に万博開催に漕ぎ着けた政治的な手腕や、その万博を都市発展に用いた巧さ。そして市内を流れる川に関連付けつつ、21世紀のはずせないテーマであるサステイナビリティを主軸に添えた視点の良さなど、書き出すと切りが無いのですが、長くなってしまったので又今度。
| スペイン都市計画 | 22:36 | comments(0) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
マドリッドの都市戦略その1:美術(美術館)を軸とした都市活性化
昨日の新聞(La Vanguardia, 27 de Julio, 2008, p42-53)にマドリッドの文化戦略に関する記事(El paseo del Arte)がデカデカと載っていました。

マドリッドはスペインの首都でありながら他都市に比べてアイデンティティが明確でない為、今までバルセロナなどの影に隠れてきたと言っても過言では無いと思います。例えば「スペイン」と聞いて日本人が普通に連想するのはフラメンコ、闘牛、ガウディ、ピカソ、パエリアなどですね。そしてこれらと関連する都市として想像されるのが先ずはバルセロナ、バレンシアそしてアンダルシア辺りでしょうか。

しかしバルセロナなんてフラメンコ(アンダルシア)や闘牛(アンダルシア)は勿論、パエリア(バレンシア)だってさっぱり関係無いのに地中海都市というだけで、パエリアと関連付けられ、なんでか知らないけどフラメンコと闘牛のメッカという事になってしまっているんですね。

有名なのは92年のバルセロナオリンピックに合わせて製作されたヤワラのオープニング。最後の場面にサグラダ・ファミリアをバックにフラメンコ衣装を身に纏ったヤワラが出てきます。



さて、マドリッドにとっての問題は上に挙げた単語のどれ一つとしてスペインの首都とは関連付けられ無いという事です。

その一方でマドリッドはスペイン帝国の首都であり続けた為に、蓄積された莫大な遺産を抱えています。それが例えばプラド美術館に眠る数々のお宝だったり、もしくは国立ソフィア王妃芸術センターが所有するピカソ(Pablo Picasso)の代表作ゲルニカ(Guernika)だったりするわけです。このような状況を指してマニュエル・ボルハ(Manuel Borja-Villel)はこんな風に言っています。

"Madrid es una ciudad de identidad media, pero culturalmente muy potente"(p47)

「マドリッドは都市のアイデンティティとしてはそれほどでもないが、文化的には潜在力抜群だ。」


そんな「宝の持ち腐れ」をしているマドリッドが打ち出した都市戦略が文化を軸に据えた美術館戦略です。上に書いたように元々マドリッドは数多くのお宝を所有していて、それらがプラド美術館(Museo del Prado)を中心とした「アートの黄金の三角地帯(Golden Triangle of Art)」と呼ばれるエリアに集中しています。三角形の他の2角は現代美術の宝庫である国立ソフィア王妃芸術センター(Museo Nacional Centro de Arte Reina Sofia)と個人所有のコレクション数なら世界第二位を誇るティッセン・ボルネミッサ美術館(Museo Thyssen Bornemisza)です。(ちなみにデータによると、2007年度の来館者はプラドが2,650,000人、レイナ・ソフィアが1,500,000人、ティッセンが970,000人。)

今回のマドリッド都市戦略は元々あったこのような資産を軸に展開しています。更にこの黄金の三角形の丁度真ん中にスペイン最大の銀行であるラ・カイシャ(La Caixa)が運営する美術館、カイシャ・フォーラム(Caixa Forum)を新たに開設しました。結果、驚くべき事にこのエリアには15近くもの文化施設が集中する事となりました。

Museo Reina Sofia
Caiza Forum
Museo Thyssen Bornemisza
Funacion BBVA
Biblioteca Nacional
Museo Arqueologico Nacional
Casa de America
Museo Naval
Museo Nacional de Artes Decorativas
Angiguo Museo del Ejercito
Cason del Buen Retiro
Claustro de los Jeronimos
Museo del Prado
Obervatorio Astronomico Nacional
Museo Nacional de Antropologia

そしてこれらを結ぶ軸線(1.9km)を現在の交通量の多い車中心の道路から歩行者中心の街路に新しく生まれ変わらせる為に起用されたのがアルヴァロ・シザ(Alvaro Siza)。更に更に、このエリアの始まりにはスペイン高速鉄道(AVE)発着駅であるアトーチャ駅(Estacion de Atocha)が位置しているという徹底振り。コレによりバルセロナから日帰りコースでアート堪能の旅というのも十分に可能な訳です。

さて、興味深いのはリノベーションや増設などに伴う建築工事に、各館共にスター建築家を起用している事です。歴史あるプラド美術館の増築にはスペインを代表する巨匠、ラファエロ・モネオ(Rafael Moneo)を起用し、現代美術の殿堂であるレイナ・ソフィアには今年プリツカー(premio Pritzker)を受賞し、今や乗りに乗っているジャン・ヌーベル(Jean Nouvel)を建築家として招いています。「革新」というイメージを打ち出しているカイシャ・フォーラムの新築デザインにはヘルツォーク&デ・ムーロン(Herzog & De Meuron)を採用するといった辺りの人選はそれほど間違っていないような気がします。

腑に落ちないのはティッセン・ボルネミッサ美術館の増築なんですね。ティッセン・ボルネミッサ美術館と言えばかつて、世界第二位の個人コレクション数を誇った名実共に世界に君臨する名美術館。そんな世界屈指の美術館増築ならかなりのニュースになっても良いはず。任されるだろう建築家はモネオやヌーベルに比肩するくらいの建築家であってもおかしくないと思うんですね。しかしですね、この美術館の増築は全くニュースにならず、今日の特集記事にもホンの一行触れられているだけ。

その理由が実際にティッセン・ボルネミッサ美術館を訪れて分かりました。というのも、この増築デザインはちょっとひどい。







故に「増築による新しい部分」が「広告」にならないんですね。はっきり言って素人級のデザインでかなりがっかりしました。

誰が担当したのかはココには書きません。カタルーニャの新進気鋭で名を売っている建築家集団とだけ言っておきます。このような大型美術館の新築・改築・増築は必ずしも巨匠が担当しなければならないという事は全くありません。むしろ、経験のあまり無い若い建築家にチャンスを与えるのには僕は大賛成です。しかしそれは実力が備わっていてこそだと思うんですね。じゃないと、「若い者に任せるとコレだから困る」と、後続が断たれる。少なくとも基本的なデザインレベルや仕事に対する誠意、プロの建築家としての誇りは見せて欲しい。
こんな低レベルの仕事をしているのなら、親父のコネしか無い低能建築家と言われても仕方が無いぞ!
| スペイン都市計画 | 23:38 | comments(2) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
UK インタラクティブ・アート・インスタレーション:Contact by United Visual Artists
UK インタラクティブ・アート・インスタレーション:「Contact」がイギリスの新進気鋭のアーティストグループ、ユナイテッド・ビジュアル・アーティスツ(United Visual Artists)によって六本木ヒルズにて1月19日から2月3日まで行われるそうです。詳細はこちら

これは何かと思って説明を読むと、「床一面に張り巡らされたLED(Light Emitting Diode)が人の動きにあわせてインタラクティブに反応する」とある。あー、つまりインタラクティブ・カーペットの事ね。

インタラクティブ・カーペットというのは、歩行者研究などで知られているロンドン・カレッジ大学(University College London)内の建築学科、バートレットスクール(Bartlett School)で開発された人の動きに合わせてカーペット表面の光がインタラクティブに反応するカーペットの事です。詳しくはこちら:

Briones, C., Schieck, A.F., Mottram,C.(2006):A socializing interactive installation for the urban environments.

システムはごく単純でカーペットに無数のLEDを敷き詰めて人の動きをトラッキングするようにプログラムする。バートレットスクールはもともと歩行者の公共空間での振舞いだとか、物理的な建築物と人々のその使用法だとかに興味を示している集団です。故にこのカーペットも歩行者の流れを止め他者と交流するための装置、もしくは新しいアクティビティを生み出す装置として開発されました。

実は数年前に僕も同じような事を構想した事があります。スペインのビトリアという都市の公共空間プロジェクトを担当していた時に、駅前スペースにLEDを敷き詰め、それらが子供の遊び場になったり、ある時は身体障害者の歩行補助ガイドになったりするマルチ機能を備えた装置を考えていました。





さて、「インタラクティブ」と聞いて先ず思い出すのが1996年に水戸芸術館で開かれた音楽家坂本龍一とメディア・アーティスト岩井俊雄のコラボレーション作品。どんなだったかというと、坂本龍一がピアノを弾くとそこからリアルタイムで映像が立ち上がるというもの。反対に生成された映像が音楽を奏でる事もある。正に音楽が映像を奏で、映像が音楽を奏でる。

基本的な仕組みは映像スクリーンとピアノをMIDIによって連動するというごくごく単純な仕掛け。しかしこの単純な仕掛けから今まで全く別物だった2つの創造装置の相互互換によって全く新しい芸術が生まれてくる事に当時いたく感動したのを覚えています。
| スペイン都市計画 | 19:33 | comments(0) | trackbacks(35) | このエントリーをはてなブックマークに追加
ビルバオ・グッゲンハイム効果とジェントリフィケーション
先週の新聞にビルバオ・グッゲンハイムによる都市再生の可能性に関する記事が掲載されていました。というのもグッゲンハイム美術館が出来てから今年で10年と言う事で最近カンファレンスなどが頻繁に行われているんですね。

ビルバオと言う都市はスペイン北部のバスク地方に位置する工業都市です。ビルバオが当時どのくらいひどい状態だったか、環境と経済を同時に解決せざるを得ない状況の中でどのような解決策を強いたかについては岡部さんが詳しく書かれています。

手短に言っちゃうと、ビルバオはカタルーニャと同様に都市戦略上に自らを載せる事によって前者が地中海の弧の中心になったように、ビルバオはポルトガルからフランスへと続く大西洋の弧の中心になりつつその二つの弧を繋ぐ役割も果たしちゃおうという、一口で二度おいしい戦略を考え付いたんですね。ちなみにその当時の頭脳はアフォンソ・ベガラさん。そんなこんなでゲーリーに美術館を頼む事になってその後の成功劇は日本でも良く紹介されている通りです。

新聞には2006年度の経済効果が詳しく載っていたのでちょっと紹介しておきます。先ず、レストランやバーにおける食べ物関係には95,446,752ユーロ。買い物関係には29,837,656ユーロ。ホテルやペンション関連、47,186,079ユーロ。交通関係、13,703,044ユーロ。演劇や映画などには22,031,343ユーロ。占めて208,204,874ユーロの経済効果があったと言う事です。

グッゲンハイムに対する初期投資が72,000,000ユーロである事を考えるとビルバオ都市はものすごい安い買い物をした事になりますね。

それらの効果を認めつつ、記事には絶対に載らない事をココに書きたいと思います。直に言っちゃうとジェントリフィケーションに関する事です。グッゲンハイムが建ってる所って中心市街地で最も疲弊していた所。と言う事はヨーロッパの典型的な貧困街・スラム街だった所と考えて良いと思います。その人達ってどうなったんでしょうか?バルセロナの場合のように強制的に書類にサインさせられて都市外へと送られたんでしょうか?違法移民などはともかく、合法的に住み着いていた人は上記のようなグッゲンハイム効果によって確実にそこには住めないと思うのですが・・・。

日本ではよくヨーロッパが進んでいて日本が遅れているという先入観からヨーロッパ都市があたかも絶対正義のように語られる事がしばしばです。グッゲンハイムはその典型的な例だと思います。物事には必ず2つの面があると思うのでその負の面も見ないとダメだと思うんですよね。美術館を建てただけで疲弊都市が蘇るなんてそんな巧い話がある話があるわけが無い。日本ではそれが誇張されすぎだと思います。

更に言っちゃうならバスク地方の環境政策において最も進んでいるのはビルバオではなくビトリアだと思います。前者がクローズアップされて後者がされないのは美術館という分かり易いイコンがあるためにメディア受けし易いからでしょうね、絶対。

コレこそ我々の時代における建築のあるべき姿であり、唯一の建築が建築足り得る定義だと思います。つまり広告としての建築。
| スペイン都市計画 | 16:33 | comments(0) | trackbacks(35) | このエントリーをはてなブックマークに追加
スペインの都市状況
ここ数日、スペインの税金がどういう仕組みになっているのかを少し調べています。スペインという国は社会福祉関係はフランスに次いで欧米でもトップを走っています。病院なんかは全部タダ。何回通院したって、どんなに大きな手術したって心臓移植したって全部タダ。これらの費用は勿論税金で賄ってるんですね。しかしここの所の仕組みが複雑でイマイチ良く分からない。何が問題を複雑にしているかと言うと中央と地方の関係なんですね。歴史的に中央集権が強かったフランスのブルボン王家に統治されたフランスが地方の勃興を許さなかったのと対照的にスペインは地方特権をある時期までかなり認めてきました。ある時期と言うのはスペイン継承戦争という初めての世界大戦で、スペインの王位を狙ってオーストリアのハプスブルグとフランスのブルボンが戦った戦争です。コレについては9月11日のカタルーニャの休日と言う事で書きました。中央と地方の複雑な関係については近年に至ってもフランコ政権がカタルーニャに対して言語使用禁止などを強いた事は記憶に新しい事です。最近ではカタルーニャ州政府が地方自治憲章を創って、それを通す為にマドリッドと交渉を続けています。その焦点の一つが税金問題です。つまり中央に払うのか地方に払うのか、何パーセントか、それらをどう還元するのか等。カタルーニャという地域はスペインでは生産力ナンバーワン。ワーストワンのアンダルシアとかに比べるとその差はかなりのものがあります。で、カタラン人たちは何時もこう文句を言う。「私達が必死に働いている間にアンダルシア人たちは昼寝をして、私たちの払った高い税金で自分たちの生活を賄ってる」。これだけ地域格差が激しいと文句を言いたくなる気持ちも分からなくは無い。逆にマドリッドは吸い上げた分だけカタルーニャに還元するのかと言うとそうでも無い。どう考えたってもしカタルーニャがその中だけで税金を回して言って生活の質を上げた方が効率的。これがカタルーニャ独立を叫ぶ人・政党の基本的な考え方だと思います。こういう状況がカタルーニャだけではなく各地域で起こっているのだから複雑きわまり無い状況になってくるわけです。このような多様性が多様な文化を生み一つの国の中で驚くべきほど違った風景が展開する。それがスペインの魅力。

ビトリアが位置するバスク地方の話なのですが、この間書いたとおり主要都市は3つ。ビトリアにおける主要工業などを探したのですが見つからなかった。その結果分かった事はバスク地方特有の都市間関係。3都市中のビルバオと言う都市はバスクでは勿論スペイン全体で見ても有数の工業都市。ビトリアはバスク地方の首都であり主にお金持ちが住んでいる都市です。工場主とか経営者とか。つまりビルバオに工場があってその主がビトリアで裕福に暮らしているというイメージ。よってビトリアに何の主要工業が無くったって何の不思議でも無いと言う事が分かったんですね。観光も同様。逆にこのような都市構造だと観光はお断りというのも納得。彼らは静かに良い都市サービスの中で暮らしたいだけなのです。
日本の状況とあまりに違うので理解に苦しむ所ですが階級社会が残っているヨーロッパではコレもありかな?と妙に納得しました。
| スペイン都市計画 | 13:28 | comments(0) | trackbacks(34) | このエントリーをはてなブックマークに追加
ビトリア都市戦略計画
世界で5人程度の閲覧者の皆さんこんにちは。昨日初めてコメントをもらいました。ありがとうーーー。うれしいものですね、反応とかあると。しかも内容が実際に実務に関わってた人の言葉なので重みがある気がする。これからもがんばって書いて行きますのでヨロシクお願いします。

今日は午前中、スペインバスク地方のビトリア市から市役員が打ち合わせにやってきた。というのもビトリア市戦略計画をうちで創ってるからなんですね。ビトリア市というのはバスク地方のビルバオ、サンセバスティアンと並ぶ三大都市で人口約21万人の裕福層が多く住むとてもリッチな都市です。サンセバスティアンがモネオの建物に代表されるように映画際で有名だったりビルバオがゲーリーの美術館で有名なのに比べると日本での知名度はものすごく低いし普通の人は行かない都市ですね。環境、都市計画に少し詳しい人なら必ず引用するビルバオのグッゲンハイム効果による再活性化とかサンセバスティアンのウォーターフロント計画とこれ又、バスク地方の他都市だけが注目されるのですが、ところがどっこい、環境・緑いわゆるサステイナブルシティで最も注目すべきは実はビトリアなのです。
今何処の都市もアーバニゼーションに悩んでいると思いますがビトリアの打ち出した戦略はとても明快。先ず都市の輪郭を決めてその輪郭にそって緑の輪を配して行く。その名も緑の指輪。これ大変面白くて中世に城壁が都市の輪郭を決めたように緑の世紀である21世紀は緑の城壁が都市の輪郭と成長をコントロールする。建築の学生による計画に出てきそうな案だけど実際に実行している都市を見たのは初めて。実は僕たちもバルセロナで同じような事をしてて緑の渡り廊下というのですが、都市の形態などを下に緑の帯を分析しました。ビトリア第二の戦略は車に対するアンチモビリティとして自転車使用を推奨しています。市が積極的に市民に使用を推進するために自転車無料貸し出しをしています。こんな事をしているのはスペインではココだけ。この2点が高く評価されて今年度の最もサステイナブルに貢献した都市として国から表彰される事になりました。

こんなに進んでいるのに彼らはもっと先を見ていてもっと遠くへ行きたいと。故に僕たちに戦略計画を頼んできたんですね。僕たちがやるのはスーパーマンサーナ計画と言ってバルセロナのグラシア地区と22@BCNで既にためし、今後、全セルダブロックに展開しようとしている計画、歩行者空間推進計画です。(コレについては今度詳しく書きたいと思います。)ビトリアの場合は状況がむちゃくちゃ良くて聞いた所では車・歩行者の割合が約30対70。え、って感じです。車30パーセントってすごい数字ですよ。という事はほとんど歩きか自転車。ここから更に車を減らしたいというのだからすごい。っていうかそんな事出来るのかな?僕が一番びっくりしたのは数ヶ月前初めての彼らとのミーティングを行った時に「観光の最適化」を提案したいと言ったら、観光には興味が無いとハッキリと言い切った所。観光に興味が無い都市なんてこれまた初めて聞いた。大体今のヨーロッパ都市って何処も観光で成り立っているとか観光収入は無視出来ないという状況なのに・・・ココの変の考え方もバスクの他2大都市とは大きく違う所ですね。ビルバオなどが観光収入モデルできているのに対して彼らの目標はあくまでも環境を整える事によって市民生活のレベルを上げる事。こういう場合、環境の質が上がる事によってジェントリフィケーションとかって起こるんでしょうか?どうなんでしょうね?もしくはそれによって引き起こされた地代高騰ならやむおえないと思うのでしょうか?その辺注目していたいと思います。

| スペイン都市計画 | 23:09 | comments(1) | trackbacks(34) | このエントリーをはてなブックマークに追加
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