地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
スペイン統一地方選挙2015
昨晩はヨーロッパ中を巻き込んだ真剣勝負、欧州の紅白歌合戦と名高いユーロビジョン2015が行なわれました。
←「ユーロビジョンとは何か?」についてはコチラ:地中海ブログ(ヨーロッパの紅白歌合戦ユーロビジョン2012)。

欧州26カ国(+オーストラリア)を巻き込んだ熱き闘いは午前1時まで続き、今年はスウェーデンの勝利に終わったんだけど、ヨーロッパ在住日本人のTwitter上で話題騒然となっていたのがこちらです:



マツコ・デラックスにそっくりのセルビア代表のボヤナ・スタメノヴさん(笑)。彼女が登場した瞬間から、「マ、マツコだーーー」というつぶやきがTLを埋め尽くし、もうみんなその話題で持ち切りでした(笑)。

そんなお祭り騒ぎとは打って変わり、スペインでは今日(5月24日)スペイン統一地方選挙が行なわれました。今回の選挙では、どの都市でも左派系が非常に勢力を伸ばしていた為に、マドリードやバルセロナを始めとする大都市で政治勢力の大きな革新が行なわれると見られているんですね。

そして、今夜イベリア半島で行なわれるこの選挙は、欧州中で勃興してきている左派勢力の今後の動きを占う前哨戦と見なされている為に、ヨーロッパ中が固唾を飲んで見守っているという状況となっています。

もっと言っちゃうと、欧州の左派勢力がバルセロナに期待しているのは、ラテンアメリカの改革でポルトアレグレが担った役割を果たしてくれるのでは、、、ということなのです。

だからスペインの保守系メディアは、PODEMOS(左派)をベネズエラと重ねながら異常とも言える批判を繰り返すんですね。例えば、CiUがバックについてるLa Vangurdia紙なんかは、「バルセロナで力を付けてきている統一左派戦線(Barcelona En Comu)はビンラディンが愛読していた本の著者、チョムスキーが支援している」とかいう記事を掲載したりするわけですよ。

更に更に、個人的に非常に興味深いのが、今回の選挙の台風の目となっているBarcelona En Comuから立候補しているメルセデスちゃんとムンタネールさん。メルセデスちゃん、実は僕がバルセロナ市役所で働いていた時の同僚で隣の席だった子(笑)、ムンタネールさんは現役の建築史家で、バルセロナの都市計画(バルセロナモデル)を扱った僕の修士の公開審査に駆け付けてくれた仲だったりします。

‥‥と、そんなことを書いていたらそろそろ結果が出てきたようです。

予想通り、バルセロナでは統一左派戦線(Barcelona En Comu)が勝利した模様。第二党にはCiU(カタルーニャ保守)が付けています。

詳しい結果と分析などについては結果が全て出揃った明日以降に回すとします。

追記:
今回の統一地方選挙の結果によってスペインの政治状況はこんな感じになりました:



今回の選挙の一番の特徴はPODEMOSを中心とした左派系の弾頭と国民党(PP)の大敗北。特に24年間守ってきたマドリード市の政権交代はPPにとって大きな痛手。そしてバルセロナ市の政権交代。バルセロナ市については、フランコ政権後35年近く労働左派党(PSC)が長期政権を維持していたので、2011年から続いていたCiU(カタルーニャ保守党)による右派政権の方が寧ろ異常事態だったと思います。そういう観点から言うと、今回の選挙で左派系が政権に戻ってきたのはバルセロナ市にとってみれば機能が正常化する、、、と言えない事もない。しかし戻ってきたのがPSCではなく統一左派戦線(Barcelona En Comu)だったということが事態を混乱させているかな、、、と。

PSC内部では当然「自分たちが」という思いが強かったはずで、まさか自分たち以外の左派系が政権を握るなんて予想もしていなかったのでは、、、。

とは言っても、今回、Barcelona En Comuが獲得した議席は11議席なので、過半数の21議席には遠く及ばず、他の政党との連立が予想されています。

個人的に懸念しているのは、Barcelona En Comuのメンバーの殆どが政治には全くのど素人という点。上述の僕の友達に始まり、建築史家(大学教授)などが集まった(政治的には)素人集団ですからね。

まあそれでも、経済効率だけを優先するが為に、街中の伝統的な老舗を潰す政策を取り入れたり、観光客を惹き寄せる為に、それまでは専用住居だった所を格安ホテルに変えたりといった、CiUの無茶苦茶な政策にはこれで一先ず蹴りがつきそうなのは嬉しい限りです。

| スペイン政治 | 06:31 | comments(0) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
(速報)カタルーニャ州議会選挙2012:カタルーニャ分離独立への国民投票は実施されず!
今日11月25日、バルセロナを中心とするカタルーニャ州では、スペイン、そして欧州全体に多大なる影響を与えかねないカタルーニャ州議会選挙が行われました。



今回の州議会選挙は実施前から、「カタルーニャ州にとって歴史に残るほど重要な選挙になる」と見られていたのですが、と言うのも昨今の経済危機の影響などから、未だかつて無い程にカタルーニャ分離独立への気運が社会全体で高まっており、スペイン中央政府を始め欧州委員会ですらその動向に注目するという状況にまでなっていたからなんですね(カタルーニャの独立志向についてはコチラ:地中海ブログ:もう一つの9月11日:カタルーニャの場合:グローバルの中に息づくローカリティ、地中海ブログ:メッシ(Messi)の赤ちゃん誕生報道に見るカタルーニャナショナリズムについて 、地中海ブログ:スペイン民主主義始まって以来の歴史的な:新カタルーニャ自治憲章案について



つまり今回の選挙は、「カタルーニャが今後もスペインと言う国の一部としてやっていくのか?」もしくは「スペインという沈没していく国を見放して、カタルーニャという新しい国としてやっていくのか?」という事を、「国民に審議してもらおう」という意味を伴った選挙となったという訳なんです。

‥‥と、ここまで読んできて、「なんか何処かで聞いた台詞だなー」と思ったそこの貴方!かなりのカタルーニャ通です(笑)!



そう、今から約100年前、現在我々が直面している問題と全く同じ状況に追い込まれ、「スペインと心中か?それとも独立か?」と言った事を真剣に考えた一人の詩人がいました。その人こそ、モデルニスモ期を代表する詩人であり、バルセロナオリンピックを成功に導いた伝説的なバルセロナ市長パスクアル・マラガル氏の祖父であるJoan Maragall氏だったのです(地中海ブログ:ガリシア旅行その1:田舎の風景の中にこそガリシア地方の本当の魅力は保持されている、地中海ブログ:国際オリンピック委員会(IOC)前会長のフアン・アントニオ・サマランチ(Juan Antonio Samaranch)氏死去)。



彼は、米西戦争(1898年)などで衰退の一途を辿っていたスペイン(マドリッド)に、果たして(経済的に勃興していた)カタルーニャが手を貸すべきなのか、どうなのか?を真剣に悩み抜き、最終的に「さらば、スペイン(Adios Espana!)」と言い放った人物だったのです。



そして今回、独立への気運が高まっている中、社会に後押しされるかの様に現カタルーニャ州政府大統領も:

「今回の選挙で過半数を獲得したら、独立か否かの国民投票を実施する!」

とまで言い出してしまう始末。それにいち早く反応したのが実はブリュッセルの欧州委員会で:

「もしもカタルーニャが独立した場合、EUからは出て行ってもらいます」

と、ちゃーんと釘を刺す事も忘れない所は流石(苦笑)。まあハッキリ言って、独立なんてスペイン政府が許す訳ないし、第一、独立に関する国民投票を行う事すらスペインの法律では禁止されてますからね。

勿論そんな事はカタルーニャ州政府大統領も分かってる訳で、彼ら(現与党)はそれが分かった上で「敢えて独立と言っている」と僕の眼には映ります。つまり「独立なんて出来っこ無い」と分かった上で、その様なポーズを取っていると僕には見えるという事です。となると、その裏にある真の目的は一体何なのか?

それは独立を盾とした税制改革です。

スペインの中でも大変生産力が高い事で知られるカタルーニャという地域(スペイン国内総生産の約2割を紡ぎ出している)は、中央政府(マドリッド)に過剰の税を搾取され、「カタルーニャ地方に再分配される富が少なく不公平である」と、ずっと主張し続けてきました。それでも経済が右肩上がりだった頃は、「まあ、いっか」で済んでいたのですが、平均失業率が25%を超え、若者に限ると50%を超えるという尋常じゃ無い状況に追い込まれた今、「何で我々がこんなにも余計な税を払わなきゃいけないんだ!どうして我々が稼いだ税金が他の地方の為に使われているんだ!」と言った不満が未だかつて無いほどに巻き起こり、世論が一気に独立へと傾いて行ったという背景があります。

‥‥と、そういうしている内に、今回の選挙結果がたった今出ました!

な、なんと、過半数(68議席)を取ると見られていた現与党(CiU)が50議席獲得で勝った事は勝ったのですが、前回の選挙から12議席も失うという劇的な結果に終わってしまいました。これは誰も予想していなかった事だと思います。僕もビックリしました!

この与党の惨敗が、果たしてカタラン人達の「カタルーニャ分離独立への否認なのかどうなのか?」という点についてはもう少し詳しい選挙結果を見るまでは何とも言えないかな。と言うのも、本当の意味での「独立」を純粋に押し出している左派政党ERCが劇的に獲得議席を伸ばしているからです(10議席から21議席へ)。

上述した様に、現与党(CiU)が掲げる「独立」は大変微妙な位置付けで、純粋な意味での独立とはニュアンスが違う、もしくは「カタラン人達が考えている独立とは違う意味で使っている」というのが僕の見る所であり、それ故に多くのカタラン人達の同意を得られなかったのだと思います。その一方で、過半数に至らなかったCiUが政権確立の為に何処と連立を組むのか?もしくは8年前と同じ様に、左派が連合を組む事になるのか?

その辺りも含めて、次回のエントリでゆっくりと分析していきたいと思います。
| スペイン政治 | 08:01 | comments(0) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
メッシ(Messi)の赤ちゃん誕生報道に見るカタルーニャナショナリズムについて
バルセロナ時間で昨日(金曜日)の夕方頃の事、バルサが誇るスーパースター、リオネル・メッシ選手に男の子の赤ちゃんが誕生しました。おめでとー、メッシ。という訳で、スペインの各種新聞はその事を一斉に報じてるんだけど、その報道の仕方を巡って各メディアの立ち位置が垣間見える様で面白いなーと思ったので、ちょっと覚え書き程度に書き留めておく事に。



先ずは状況説明から。今回何が起こったのかと言うとですね、焦点はメッシの赤ちゃんが生まれた時刻なんだけど、それがどうやら17時14分頃らしいんですね。

‥‥ここまで読んできてピンときた人はかなりバルセロナお宅(笑)。

そう、実はカタルーニャにおいて17と14という数字の組み合わせは非常に重要な意味を持っていて、と言うのも1714年の9月11日はカタルーニャの命運を分けたスペイン継承戦争が行われた日だからです(カタルーニャ継承戦争についてもっと知りたい人はコチラ:地中海ブログ:もう一つの9月11日:カタルーニャの場合:グローバルの中に息づくローカリティ)。

まあ手短に言って、その日(9月11日)はカタルーニャにとって最も神聖な日であり、そして一年の内で最もナショナリズムが高揚する日となっています。更に今年は度重なる経済危機の影響などから、カタルーニャでは未だかつて無い程に独立の機運が高まっている為に「使えるものは何でも利用しよう」、「結び付けられるものは全て結びつけちゃおう」って言う雰囲気満々。そんな中、カタルーニャ人達にとって「クラブ以上の存在」と言われるバルサの、しかもスター選手初の赤ちゃんがスペイン継承戦争と全く同じ組み合わせの時間帯に生まれたとあっては利用しない手はありません(地中海ブログ:FC Barcelona(バルサ)のマーケティングがスゴイ:バルサ・ミュージアムに見る正に「ゴールは偶然の産物ではない」)。そのこじつけ具合が各種メディアの報道を通して垣間見えるという訳なんです。



カタルーニャ地域主義政党(CiU)がバックについている(カタルーニャにとって)右寄りの新聞、La Vanguardia紙は当然の如く「メッシの赤ちゃんは17時14分に生まれた!」と大々的に報道し、何故かカタルーニャの国旗が飾り付けに使われています(笑)。しかも使われている国旗は、星が付いた独立バージョン(苦笑)。

その一方で、スペイン社会労働党(PSOE)がバックに付いている全国紙El Pais紙は、メッシの赤ちゃん誕生を「17時15分辺り」とし、カタルーニャの独立に関する話題には出来るだけ触れたく無い様子。

当ブログではスペインのメディア問題は事ある毎に取り上げてきたんだけど、スペインにおいてこの問題を取り上げる時の重要なポイントは、スペイン人というのはどの新聞であれ「偏向報道がされるもの」という前提の上で新聞記事を読んでいるという点かな。だから今回の報道に関しても「あー、またLa Vanguardiaやってるなー、ハハハ」というくらいにしか思って無いと思います。つまりスペイン人は(意外にも(笑))どの新聞が右寄りの報道をしてどの新聞が左寄りの報道をするかという事が分かっているという事なのです。その点に関しては、スペイン人のメディアリテラシーというのは非常に高いと思います。

17時14分か17時15分か、どちらが正確なのかは当人達しか知らないと思うんだけど、まあメッシが喜んでいる様子が繰り返し報道されている事、メッシの奥さん(彼女)が元気だと言う事、そして何より元気な赤ちゃんが生まれたという事が重要ですよね。間違ってもこれ以上メッシやその家族を政治的な道具に用いる事だけは無い様にしてもらいたいものです。
| スペイン政治 | 14:10 | comments(2) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
ゾウ狩り旅行がバレて謝罪するスペイン国王(王室)の裏に見え隠れするもの
スペインの石油大手レプソル(REPSOL)の子会社YPF国有化問題(アルゼンチンのフェルナンデス大統領発表)で揺れに揺れてるスペイン国内なんだけど、そんな中、それと同等、もしくはそれ以上の大ニュースが舞い込んできました。それがコチラ:

 

“Lo siento mucho. Me he equivocado y no volvera a ocurrir”
「本当に申し訳ない。私が間違っていた。二度とこの様な事は起こさない。」

そう、何と現スペイン国王、フアン・カルロス1世がスペイン国民に正式に謝罪するという、スペイン始まって以来の出来事が起こってしまったんですね。そんなもんだから、昨日の新聞の一面は何処もその話題で持ち切り:



ほぼ全紙、一面には神妙な面持ちで会見に臨む国王の姿と、そんな彼の口から発せられた11語の言葉を掲載しています。

何故こんな事態になってしまったのかと言うとですね、実はスペインの王様、昔から狩猟が大好きで、先週末からアフリカのボツアナに「ゾウ狩り」に出掛けていたんだけど、狩猟中に転んで股関節を折ってしまい、急遽マドリッドのUSP San Jose病院で緊急手術を受ける羽目に。折れた部分に人工関節を入れるなど、結構大変な手術だったらしいんだけど、手術は大成功を収め、お見舞いに行ったフェリペ皇太子は、「(国王は)お腹が空いたと言っていたものの、とても元気だった」と記者団に語るなど、順調に回復している様子が伝えられていました。

で、問題はここからなんだけど、実は今回のゾウ狩り旅行、完全なる「お忍び旅行」だった為、国民は勿論の事、政府関係者ですら殆ど知らされておらず、偶然の事故で「偶々発覚してしまった」という経緯に加え、スペイン国民は当然の事ながら、「みんなが緊縮財政で大変な時に、王様は豪遊して一体何やってんだ!」と声高に叫び、未だかつて無いほどにスペイン王室に冷たい視線が向けられるという事態となっているんですね。

現スペイン国王であるフアン・カルロス1世という人は、フランコ独裁政権後、スペイン民主化移行に際して大変大きな貢献をした事などから、スペイン国民の間で非常に人気のある存在となっていて、メディアに彼の批判が表立って載る事は今まで滅多にありませんでした。それ程までに国民に愛され、敬われている存在なのです。そんな彼が前代未聞の批判に晒されている理由は主に以下の3点:



一点目は(上述した様に)未だかつて無い程の経済危機に襲われているスペイン、特に若者の失業率が50%を超え、公務員などは10%近くの給与カット、私企業も厳しい状況を強いられている中、国王は国民の税金を使って一体何をやっているんだ!という当然の指摘が挙げられます(先日行われたゼネストについてはコチラ:地中海ブログ:スペインで行われたゼネスト(2012)について)。今日の新聞によると、ゾウ狩りをするのに掛かった費用や滞在費などはボツワナ国の王族関係者が負担した(どうやら招待旅行だったらしい)という事なのですが、「お金が何処から出ているか」という事よりも、やはりこの様に国が苦しんでいる状況下において、「一人で豪遊していた」という点に国民の怒りの矛先は向いている模様です。ちなみにホンの一ヶ月前、国王はこんな事をおっしゃっていました:

「スペインの若者達の失業率の事を考えると、眠れない夜もある。」
“Hay noches que el paro juvenile me quita el sueno.”(14/03/2012)

そして2点目は(王室ウォッチャーの僕も知らなかったんだけど(笑))フアン・カルロス1世はWWFの名誉総裁を務めていたという事が挙げられます。WWFと言えばパンダのマークで有名な世界自然保護基金。そんな、動物を保護する為の団体の名誉総裁ともあろうお方が「ゾウ狩り」ときたもんだから、王様が入院している病院の前には長―いデモ隊が毎日の様に押し掛け、最終的には4万人もの人達が国王の名誉総裁辞職要求に署名をしたそうです。スペインの新聞には連日こんな写真が掲載されまくっていました:



と、まあ、ここまでは日本を含む各国で昨日あたりからバンバン報道されていると思うので、テレビなんかで見た事ある人も多いとは思うんだけど、僕が見る所、今回の問題は結構根の深い問題を含んでいて、今回の事件を通して更なる深みに嵌っていくんじゃないのかなー?と思ったりしちゃいます。

それが3つ目の点なんだけど、実はですね、昨年末辺りからスペイン王室ではトラブルが続いており、それらを何とか解消しようとする王様と、それとは裏腹に様々な問題を運んでくる王室メンバーとの綱引き状態だったんですね。で、今回の一件は正にその綱引きに終止符を打ち、王室の信頼を一気に失墜させる事態となったと見る事が出来ます。

そんなスペイン王室の権威失墜の発端を作ったのがこの人:



スペイン国王夫妻の次女、クリスティーナ王女の夫であり、元ハンドボールのプロ選手、イニャーキ・ウルダンガリン(Inaki Urdangarin)氏です。実は彼、数年前からESADE(バルセロナにある超有名ビジネススクール)の恩師と一緒に非営利団体Noos財団を共同運営してたんだけど、昨年末、グルテル事件と呼ばれるバレンシア自治州やマドリッド自治州政府に絡んだ癒着や贈収賄を捜査していた検察特捜部によって汚職が発覚。公金500万ユーロ以上を流用した疑いが掛けられるまでに発展してしまいました。

王室メンバーが検察に起訴されるという前代未聞の事態を前に、スペイン王室の対処はかなり手早くって、数日後には国王フアン・カルロス1世の名で

「ウルダンガリン氏が私的に行っている活動は王室とは全く無関係。今後、王室の公務に彼は参加させない」

という異例の見解を発表するまでになったんですね。又、事を重く見たスペイン王室は、コレ又前代未聞の王室の年間予算を国民に公表するという決断を下すまでに至ります。ちなみに王様の年収は日本円で3千万くらい、皇太子の年収は王様の半分で、1500万円程度となっています。もう一つちなみにスペインの首相の年収は800万円程度で、これはカタルーニャ州政府大統領の給料の半分程度だと言う事は以前のエントリで書いた通りです(地中海ブログ:スペインの各自治州政府大統領の給料について)。

このような「王室の透明性」を強調すべく必至に努力を続けてきたんだけど、先週にはスペイン国王の孫(フロイラン王子)が誤って自分の足を銃で撃って負傷し、父親が監督責任を問われるという不祥事が起きたばかり。そんな中で、今回の事件へ繋がっていったという訳なんです。

つまりは、今回王様が引き起こしてしまった事件は、去年から溜まりに溜まっていた王室の「汚されたイメージ」にとどめの一撃を指した事件だと位置付ける事が出来るんですね。

フアン・カルロス1世の異例の謝罪会見の裏には、実はこの様な背景が横たわっています。もっと言っちゃうと、今回のゾウ狩りのスケジュールや費用などは、先日公開された王室の経費には一切含まれていませんでした。つまり今回の一件は、「王室が隠れて豪遊している氷山の一角」と国民が疑い始めるという、正に負のスパイラルに落下していく、そのキッカケとなりかねないという王室の焦りが見え隠れしているのです。「スペインの国王が頭を下げた」という事は、「謝罪しなければならないくらいまで、スペイン王室は追い込まれている」と見る事さえ出来るのですから。

今回の一件は、言葉としては11語、時間にして実に4秒という大変短い時間だったのですが、これはスペイン史上初めての事であり、歴史に残る瞬間となった事は間違いありません。 この言葉が真実であり、これからスペイン王室が変わっていく事を願うばかりです。
| スペイン政治 | 17:11 | comments(2) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
スペインで行われたゼネスト(2012)について
先週木曜日(3月29日)、スペイン全土でゼネストが行われました。



「ゼネスト」と聞いてもピンとこない人もいるかと思うので、一応Wikipediaから引用しておくと:

「ゼネラル・ストライキ(general strike)とは労働者が団結して行う労働争議の一形態で、一企業や組織によるストライキではなく全国的な規模で行われるストライキのことである。略してゼネスト。総同盟罷業ともいう。また、ある特定の地域や都市において様々な産業が一斉にストライキを行う場合もゼネストと呼ばれることがある。」

となっています。

今回スペインで行われたゼネスト(民主化後としては8回目)においては、労働組合側の発表で100万人以上、スペイン政府の発表では80万人を動員したという報道がされていたんだけど、僕が実際に街に出て体験した所によると、「労働者が団結しておこなった」というレベルにまでは至ってなかったかなーと言うのが正直な所かと思います。



と言うか、日本を含め世界各地で大々的に報道されたという注目度とは裏腹に、さほど注目する所が無かった点、もしくは「この特徴の無さ」みたいな所こそが、今回のゼネストの特徴と言えるのでは?とさえ思ってしまった程なんですね。



先ずは基本的な情報を押さえておくと、今回ゼネストが行われた発端は現政権が国会で承認した労働法改正法にあるという点を指摘しておきたいと思います。民衆党のラホイ首相は近年の経済危機を背景に、かなり大胆な法改正に踏み切りました。それが国民の間で頗る評判が悪く、当然の事ながら労働組合側は怒り心頭、数回に渡る政府との話し合いにも関わらず今回のゼネスト開催という運びになったという訳なんですね。それを受けて政府側は一日前に Cristobal Montoro財務相が記者会見を開き:

「ゼネストが行われようが何をしようが、労働法の改正を撤回する事はない」

と言い切っていました。そういう事が分かってかどうなのか分からないけど、各種メディアが行った事前調査によると、実に69%もの人達が「今回のゼネストには参加しない」という意思表示をしていたという事は前回のエントリで書いた通りです。

という訳で、今回のゼネストはそんなに街を挙げて大規模に行われたという感じはなく、僕が住んでいるサグラダファミリア付近では、朝から普通にカフェもお店もやってたし、何より公共交通機関が殆ど普通に動いていたのは大きかったかなと思います。

その一方で、流石に中心街は様子がちょっと違ってて、カテドラル付近のお店なんかは殆どが閉まっていましたね。こういう非常時に地区間でこれだけの温度差があるというのはちょっと興味深い。



中にはこんな風に半分だけシャッターを開けて「根性でやってる所」もあったりとか。これはどういう事かというと、デモ隊が来たら急いでシャッターを閉めて、店が破壊されるのを防ぐと、まあ、こんな所だろうと思います。そんな微笑ましい努力が見られる一方で、酷かったのがコチラです:



街中に散らかったゴミ!この日は朝から清掃業者がゼネストに入ってたもんだから、ゴミ収集車が来なくて、街路(特に中心市街地)がゴミだらけになっていたんですね。これは酷かった。「街路&ゴミ」というキーワードを聞いて思い出されるのはイタリア南部の都市、ナポリだと思うんだけど、「ナポリって毎日こんな感じなんだー」とか思うと、ちょっとゾッとするかな。っていうか、幾らピザが美味しくても絶対行きたくないかも(苦笑)。



ランブラス通りに面したマクドナルドなんかも、厳重体制の元、シャッターを閉めまくって営業していましたしね。

こんな感じで今回のゼネストについてはこれくらいしか書く事がないんだけど、その一方で、ゼネストとは全く関係がない所で「違う事件が起こっていた」という事については十分に分析する必要が有る気がします。それが一部の若者達による暴走です。



街中でゴミ箱を燃やしたり,公共物を破壊したり、もうやりたい放題。



その日の夜中、ゼネストが収まった後に中心街を歩いてみたら、こんな光景に出くわしたりしました:



バス停崩壊‥‥みたいな(悲)。そんな中でも今回一番被害を被ってしまったのがコチラです:



バルセロナ市内のカタルーニャ広場近くに位置するウルキナオナ駅前のスターバックスです。グローバル企業の急先鋒という事で目を付けられたと思うんだけど、それにしてもコレは酷い。ガラスを叩き割られた上に火を付けられ、店舗は使い物にならない有様。

 

このビデオとか見ると、「本当にここはバルセロナか?」と思うほど悲しくなってきます。

何がまずいって、この日は労働者達が自分達の怒りや不満をデモという形をとって表明する為の日であって、若者達が日常の不満を暴力で明示する日じゃないという事なんですね。そしてこの様な、ゼネストとは全く関係がない場面が取り上げられ、これが全世界に報道された結果、この映像が今回のゼネストの印象になってしまった‥‥というのは何とも情けない話だと思います。しかもそんな悲しい出来事が、伝統的に労働者の街として知られているバルセロナで起こってしまった‥‥。



上述した様に、今回スペイン全土で組織されたゼネストに関してはハッキリ言ってそれほど言う事は無いし、分析する内容も特にありません。その一方で、それに便乗してバルセロナで起こってしまった暴動に関しては重く受け止めるべきであり、「何故こんな事が起こってしまったのか?」、「何故この様な暴動が、バルセロナ(だけで)引き起こされてしまったのか?」と言う事は、我々バルセロナ市民一人一人が深く考える必要がある事だと思います。

そこにこそ、現在のスペインという国が抱えている「隠された闇」があるに違いないのだから。
| スペイン政治 | 04:27 | comments(9) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
(速報)アンダルシア州議会選挙2012:民衆党(PP)の勝利、しかしスペイン労働党(PSOE)が連立を組んで政権に留まる可能性あり
たった今、アンダルシア州議会選挙の開票結果が出ました。結果は民衆党(PP)の勝利なのですが、絶対過半数獲得には至らなかった為、スペイン社会労働党(PSOE)と統一左派(IULV-CA)との連立によってPSOEが政権に留まる可能性が出てくるという結果に終わりました。



詳しい分析などは明日の新聞を待ってから書く事として、先ず気になったのは今回の投票率の低さです。現時点では詳しい投票率などは出ていませんが、4年前に比べ10%程低い数字が予想されています。昨今の経済危機と全く変わらない政治経済状況に嫌気が差したのか、人々の政治離れが伺われます。

そしてもう一つ今回の選挙を見ていて思ったのは、事前調査と選挙結果の大きな剥離です。と言うのも、事前調査では民衆党(PP)の圧倒的な勝利=絶対過半数が予想されていたんだけど、蓋を開けてみれば民衆党(50議席)、社会労働党(47議席)と、結構良い勝負だったんですね。そして統一左派の躍進も今回の選挙の特徴として挙げられるかもしれません。というか、今回の選挙で一番良いポジションを取ったのは統一左派だとさえ言えるかも知れないのですから。
| スペイン政治 | 05:33 | comments(0) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
アンダルシア州議会選挙2012
今週木曜日(3月29日)にスペイン全土で行われるゼネストに関するちょっと気になる記事が今日の新聞(El Pais, 25 de Marzo 2012, P16)に載っていました。それによると、スペイン国民の内、実に69%もの人が今回のゼネストには参加する意志がないというデータが出ていたんですね。



つい先日、政府と労働組合との間で、ゼネスト決行日における公共交通機関や病院など最低限のサービスを保証する(地下鉄やバスなどは朝夕のラッシュ時は40%、それ以外は30%程度)っていう合意が為されたばかりだったんだけど、それにしても今回のゼネストの不人気ぶりにはちょっと驚きを隠せません。何故かって、元々今回のゼネストの背景にあるのは先日スペイン国会で承認された労働法改正に対するものであり、新しい法律はスペイン国民の間では頗る評判が悪い事などから、「この機会に自分達の意志を是非表明しよう!」という労働者が多いのでは?と思っていたからです。

にも関わらず、何故今回はこの様な関心の低さという結果になってしまったのか?

勿論この裏には様々な理由が存在し、それを一言で言い現すのは難しいとは思うんだけど、ここ数日、色んな人達と話していて分かった事は、スペイン人労働者達の間に「ある種の不安感」が広がっているという事でした。

それは言葉にすれば「嫌な空気」とでも言おうか‥‥つまり「ゼネストに参加すると会社を解雇されるのでは?」という、正に労働者の基本的権利を侵害するかの様な、あってはならないんだけど、それが現実のものとなるかの如く「イメージが先行している」という現実だと思います。

ストライキに参加したからという理由で会社が従業員を解雇したとなれば、それこそスペイン社会全体を巻き込んだスキャンダルになる事は間違いないんだけど、それよりも何よりも、今回の労働法改正においては労働者を解雇する事が以前に比べ遥かに容易になった事などから、「簡単に解雇される」という「イメージ」だけが先攻し、正にその様なイメージこそが今回のゼネストに対するブレーキになっているのかな?という感じを受けています。

そしてもう一つ、スペインの労働者達が置かれた大変厳しい給料体系という実際的な問題があります。現在のスペイン労働者の賃金体系というのは非常に厳しいものがあって、法律で定められた最低賃金(毎月)は641ユーロ(日本円で約6万5千円)、多くのスペイン人達の月収は1000ユーロ(10万円くらい)に届きません。そうすると、ただでさえ少ない給料なのに、そこから(ゼネストに参加する事によって)1日分の給料を引いたら、それこそ「生活出来ない!」っていう人が結構な数を占める事になる訳ですよ!

この話題については話し出すと長くなっちゃうので、労働法改正、それに伴うゼネスト、そしてメディアには決して現れてこないスペイン労働者達の肉声という事に関しては又後日、違うエントリで詳しく扱う事にしようと思います。で、前置きがかなり長くなっちゃったんだけど、今日はアンダルシア地方で行われている州議会選挙の話題を扱いたいと思います。



そう、正に今日(2012年3月25日)はアンダルシア地方とアストゥリアス地方において州議会選挙が行われてるんだけど、その中でもアンダルシア州議会選挙は「今後の国政を占う」という意味で、スペイン中が固唾を飲んで見守る選挙となっているんですね。

と言うのも(以前書いた様に)アンダルシア州というのはスペイン社会労働党(PSOE)のお膝元であり、スペインが民主主義に移行して以来、一度も他党に政権を奪われなかったという労働左派の牙城なんだけど、近年の民衆党(PP)の勢いに圧され、「アンダルシアで歴史上初めて労働左派が負けるかもしれない」という状況にまで追い込まれているからです。

「スペイン社会労働党がアンダルシアで負ける」って言うのは、スペイン国民やスペイン政治を良く知っている人達からするとかなり衝撃的な出来事で、と言うのもPSOEは今までどんな苦境に陥ろうとも、政治汚職でどんな逆境に立たされようとも、アンダルシア地方でだけは人気を博し、絶対に政権を譲り渡さなかったという事実があるからです。そしてその様な歴史的な積み重ねこそが、スペイン労働左派党のエネルギー源になってきたとすら言えるのかもしれません。

そんなPSOEのお膝元で圧倒的な権力を保持してきたのがこの人:



前サパテロ政権で副首相を務めたベテラン政治家、泣く子も黙るManuel Chavez氏です。1990年から2011年まで20年もの間、アンダルシア政界の頂点に立ち続けてきた彼がどれくらい強かったかというと、1990年に初めてアンダルシア州政府大統領に着いた時の獲得投票率が実に49.61%。2004年には50.36%を獲得し、前回(2008年)の州議会選挙でも48.41%を獲得するまでに至っていたんですね。つまりは20年間もの間、殆ど過半数を維持してきたと言う訳なんです。

そんな状況に黒雲が立込めてきたのが昨年11月に行われた総選挙。失業率についてはヨーロッパの中でも最悪と言われるスペイン、その最悪のスペインの中でも最も失業率が高いのがアンダルシア地方(31%)。一向に改善しない経済状況に飽き飽きしたアンダルシア州民が、これまでの鬱憤を晴らすかの様に次々と他党に票を投じた結果、前回の選挙では実に75万もの票が民衆党に流れるという結果に終わってしまいました。

その後遺症が癒えない内に開かれたのが今日行われている選挙であって、最近行われた世論調査によると、今回の選挙で労働左派が負ける事は明らかだとするだけでなく、民衆党が過半数を超えるのでは?という予想すら出るまでになっているんですね。ちなみに現在、民衆党は国会において単独政権をしいていて、全国3000近くの市町村議会を制し、更に17ある州の内、実に11もの州を手中に収めるまでになっています(詳しくはコチラ:地中海ブログ:スペイン総選挙2011:中道右派、民衆党(PP)の歴史的勝利とその背景)。

そして今回、スペイン社会労働党のお膝元、アンダルシアまでもが民衆党の色に染められようとしている‥‥。今日の夜10時には選挙結果が出るそうなので、要注目していたいと思います。
| スペイン政治 | 19:25 | comments(0) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
スペイン語の難しさに見るスペインの多様性:ガリシア語とカステリャーノ語
とある国際会議出席&新しいプロジェクトミーティングの為、明日から1週間ほどデンマークとスウェーデンへ行きます。以前、ヘルシンキ市役所やノキアなんかと共同プロジェクトをしていた時は、よくフィンランドへは行ってたんだけど、実はフィンランド以外の北欧の国に行くのは今回が初めて。デンマークと言えば勿論アルネ・ヤコブセン(Arne Jacobsen)!という事で今からかなりワクワクしてるんだけど、そんな反面、プレゼンの用意やら打ち合わせなんかが積もり積もって今週は大忙しの毎日でした。そんな訳で余り時間が無いんだけど、ちょっと気になった事があったので、メモ程度に記しておきたいと思います。



先週日曜日(1月15日)、スペインの大物政治家マニュエル・フラガ(Manuel Fraga)氏が亡くなりました。89歳でした。フラガ氏はフランコ政権時代から閣僚を歴任し、民衆党の前身に当たる国民同盟(Alianza Popular)の創設者であり、78年に制定されたスペイン憲法の起草者の一人でもあったというスペインを代表する政治家。

勿論フランコ政権閣僚という地位に居た事などから国民の間でも賛否両論あったんだけど、彼がフランコ政権、民主化移行期そして民主化達成後と3つの時代のスペインを生き、更にそれら3つの時代の中枢でスペインの舵取りをしてきたという事に変わりはないと思います。そしてそういう意味において、彼はやっぱり大物中の大物政治家だったんだなーとも思いますね。

マニュエル・フラガという政治家が成した事、成さなかった事などについては後日ゆっくり書く事として、今日はそんなフラガ氏に関する面白く、そして「大変奥が深い冗談」を発見してしまったので、ちょっと紹介したいと思います。この冗談が書かれたのは彼が未だガリシア州政府大統領の地位にあった2000年代前半の事だったんだけど、この短いやり取りの中にはスペインという国が育んできた多様性の奥深さみたいなものが垣間見える様な気がしてなりません。それがコチラ:



フラガ:「私が死んだら皆、寂しいだろ。泣いてくれるよな!」
Fraga: Cuando yo me vaya. Me llorarán!

民衆:「勿論、とっても寂しいです!」

Público: Si Senor. Melloraremos!

上の会話はスペイン語入門編くらいのテキストに出てきそうな、スペイン語を習った人なら誰でも理解出来るほど簡単な会話だと思いがちなのですが、ところがドッコイ!実はこの会話の意味を正しく理解するのはそれほど簡単な事ではありません。何故ならその為にはスペイン政治に関するある程度の知識と、スペインという国が置かれている社会文化的な状況、更にはガリシア州民の性格なんかを理解する必要があるからなんですね(フラガ氏がガリシア州出身で、15年という長期政権を維持し、最後期には州民はウンザリしていて、更にガリシア州民というのは非常に皮肉を言う事で有名な民族だという事とか)。

そういう事が分かっていると、この漫画の舞台がガリシア地方であり彼がガリシア州民に向かって話しているという事が理解出来るかと思います。

で、ここからがミソなんだけど、という事は「この会話はカステリャーノ語ではなくて、ガリシア語で読まなければいけないのでは?」という事が分かってくる訳ですよ!

するとどうなるのか?

実はme lloraránという単語(発音)はカステリャーノ語では「泣く」という意味なのですが、ガリシア語では「喜ぶ」という意味を持つ単語(mellorarán)なんですね。つまり全く同じ単語の発音がカステリャーノ語とガリシア語で「泣く」と「喜ぶ」という正反対の意味合いになる訳ですよ!そういう事が分かってくると、上の会話の様相は一変してきます:



フラガ:「私が死んだら皆、寂しいだろ。泣いてくれるよな!」
Fraga: Cuando yo me vaya. Me llorarán!

民衆:「勿論、とっても嬉しいです!」

Público: Si Senor. Melloraremos!

コレは面白い!

勿論ここには言葉遊びとしての要素がふんだんに鏤められているんだけど、それよりも何よりも、こんな事が可能になる背景には、スペインという国が今まで育んできた多様性、地域毎に展開している文化的な豊かさがあるからだと思うんですね。

スペイン語の難しさと同時に、この国の奥深さの一端に触れた様な気がしました(ガリシア語が置かれた状況についてはコチラ:地中海ブログ:ガリシア語の危機
| スペイン政治 | 22:11 | comments(0) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
スペインの美人すぎるニュースキャスターその2:アナ・パストール(Ana Pastor):現代スペイン最強の女子アナ
当ブログのプロフィール欄にある様に、僕は毎朝コーヒーとクロワッサンを食べながらゆっくりと新聞を読む時間が好きなのですが、それら右寄り左寄り2つの新聞からの情報に加えて、出来るだけ朝晩のニュースも見る様にしています。



何故かって、そうじゃないと情報が偏ってしまうからなんですね。新聞に書いてある事がこの世の真実であるかの如くに思われている日本では信じられない事かもしれないのですが、元来メディアの情報というのは、そのメディアがとっている立ち位置に依ってしまうのが当たり前なので、一つのメディアからの情報だけだと、どうしてもそちら寄りに洗脳されていってしまいます。例えば、La Vanguardia紙はカタルーニャ民族主義政党CiUの新聞なので、どうしてもそちら方面からの論説が多くなってしまうという様に(地中海ブログ:もう一つの9月11日:カタルーニャの場合:グローバルの中に息づくローカリティ

各種メディアに何かしらの個性があるという事は特に悪い事じゃありません。そうじゃなくって、問題はそれらのメディアに書いてある事が全く公平だと思い込んでしまう視聴者の方にあるんですね。逆に言えば、そういう事を生まれた時から知っていて「新聞は疑って掛かるものだ」という事を当たり前の様に分かっているスペイン人というのは、実は結構リテラシーが高いのかもしれないなー。

そんなリテラシーが結構高い国、スペインにおいては視聴者の目が大変厳しい事などから、テレビでニュースを読む側にも当然の如く、それ相応のレベルが求められる事となります。そしてスペインのニュース番組の特徴として、メインキャスターは女性が担っている事が圧倒的に多いと言う事が挙げられると思うんですね。



例えば以前何度か紹介した、ドラゴンボールの18号にそっくりなMaria Casadoさんとか(地中海ブログ:スペインの美人過ぎるニュースキャスター、Maria Casadoさんって‥‥)。いつもファッションがちょっと可笑しいマリアさんなんだけど(笑)、彼女の実力は折り紙付きで、毎週火曜日の夜に59 segundo(59秒)っていう、政治家達を何人か呼んで時事を討論し合うっていうかなりヘビーな番組を担当してるのを見てたりすると、「ただ単に可愛いだけの女子アナじゃないな」とか思っちゃうかな。

そんな大変有能な人材が集まりまくってるスペインのニュース業界なんだけど、その中でも現代スペインが誇る史上最高、最強の女子アナと言っても過言ではないのが、この人です:



今やスペイン国営放送の顔、アナ・パストール(Ana Pastor)ちゃんです。容姿端麗な彼女が担当しているのが、毎朝9時からTVE(スペイン国営放送)で始まるLos Desayunosという番組。ちなみにLos Desayunosとはスペイン語で「朝ご飯」を意味するんだけど、こんな美人な女性+「朝ご飯」っていう組み合わせなので、あたかも「仕事に出かける前の和み系+ちょっとかわいい系の番組か?」とか勘違いしそうになるんだけど、ところがどっこい、この番組が凄いんです!多分、今スペインで放送してる番組の中でも、かなりエグイというか、一番刺激的な部類に入るのでは?と思います。

番組の構成は、旬の政治家(国内国外問わず)を招いてアナ・パストールがインタビューするという形式で始まります。で、この番組の見所はと言うとですね、アナ・パストールの「これでもか!」という鋭い突っ込みなんですね。視聴者が知りたい所を突っ込む、突っ込む!そんな超ダイレクトな質問攻めで、数々の政治家達をブッタ切ってきた彼女の歴代インタビューの中でも、最も刺激的だったのがこの人とのインタビューです。



イラン・イスラーム共和国第6代大統領マフムード・アフマディーネジャード(Mahmoud Ahmadinejad)氏とのインタビュー。これが放送されたのが2010年春の事だったんだけど、このインタビューでアナ・パストールが引き出したイラン大統領の返答が物凄いっていう事で、これをキッカケに彼女の名が欧州中に広がる事となった程なんです。これはもう見てもらった方が早いと思うので、下記に訳を載せておきました:

 

以下の訳文は上のビデオの全訳です。
AP:アナ・パストール
MA:マフムード・アフマディーネジャード

AP:民主主義に関する非常に重要な案件について質問させてください。ヨーロッパにはヨーロッパ議会が存在し、イランについては特に以下の点に関して大変厳しい見解を持っています。同性愛者に対する処刑と(特に女性に対する)石打ちの刑についてです。勿論ご存知だとは思いますが、ヨーロッパ市民の多くはあなたの国に今でも(特に)女性に対する大変惨く残酷な刑罰が存在している事に強い感心を払っています。ヨーロッパ議会というのは民主主義に乗っ取って選ばれた代表により構成されています。つまり議会の声はヨーロッパに住む全ての人達の声なのです。このような、議会やAministia InternationalといったNGOなどの分析についてはどの様なお考えをお持ちなのでしょうか?
AP: Déjeme que le mencione algo importante. Estamos habando de democracia. En Europa existe el parlamento europeo y ha sido especialmente duro con dos asuntos relacionados con el pueblo iraní, con las ejecuciones a homosexuales y también con la lapidación. Ya sabe que en Europa llama mucho la atención que todavía exista una pena tan dura y tan terrible para mujeres pero también para hombres. Es el Parlamento Europeo que está elegido democráticamente. Qué contesta el presidente A a esos análisis que se hacen desde allí, que los hacen las ONGs, que los hace Amnistía Internacional pero lo hace también el Parlamento.

MA:どうしてヨーロッパ議会やNGOは他国の事情に口を挟んでくるのでしょうか?我々の国がいつ、全く関係の無い他国が我々の案件について干渉する事を許可したというのでしょうか?ヨーロッパの国々は我々のお国事情に口を挟む事が出来るのでしょうか?もしそうであるならば、我々イランもヨーロッパについて思っている事をぶちまけようと思います。ヨーロッパというのは、世界的な専制政治の下に最も抑圧された国々ですよね。ヨーロッパ諸国の国民は自らの代表である政治家や政党を選ぶ権利を持ってはいないのですから。ハッキリ言うと、あなた方は世界的な暴君によって選ばれた幾つかの政党に強制的に投票する事を義務付けられているだけなのです。ヨーロッパ国民は政党政治の囚人であり、多くの政党政治はシオニストによってコントロールされているのです。一体ヨーロッパにおける何処の国のどの政党が自らの意志で自由に振る舞う事を許可されていると言うのでしょうか?ご存知でしたら教えて頂けないでしょうか?まあ、そんな事が出来ない事は明らかですけどね。どうしてヨーロッパ議会はシオニストの犯罪者達に対しては無いも言わないのでしょうか?
MA: ¿De donde ha traído sus facultades para intervenir en nuestros asuntos? ¿El pueblo iraní les ha permitido? ¿Acaso el pueblo europeo puede intervenir en los asuntos iraníes? Nosotros también daremos nuestra opinión. Nosotros decimos que el pueblo europeo es el pueblo más reprimido bajo la tiranía del mundo porque el pueblo europeo tiene el derecho de elección. Ellos solamente están obligados a votar a unos cuantos partidos políticos. Son prisioneros de los partidos políticos y muchos partidos políticos están controlados por los sionistas. Por favor demuéstreme unos cuantos partidos políticos que puedan actuar libremente. Es muy claro. ¿Por qué el Parlamento Europeo no toma postura contra los crímenes de los sionistas?

AP:それは違います。ヨーロッパ議会は今回のイスラエルの行動には手厳しい態度を取っていますし、スペインでは一方的にイスラエルを擁護する意見だけでは無く、多様で活発な議論がなされているのです。本当ですよ。
AP: No, no. Ha sido muy duro también con algunas actuaciones de Israel, Presidente, y créame que es un tema muy sensible en España.

特に1分58秒くらいの所、感情的になった大統領がシオニストの話題を出した所で、アナ・パストールがカメラ外をチラッと見る場面があります。これは、「これ以上踏み込んだらヤバイから抑えろ!」みたいな指示が上から出た信号だと読み取る事が出来ます。

こんな際どい質問には、それ相応の危険が伴っているという事は彼女自身も良く分かっている筈。それでも「真実を知りたい」の一点で、そのまま突き進んでいく彼女の姿には大変共感出来るものがあり、その姿勢こそがスペインにおける彼女の人気とこの番組の人気を支えている秘密だと思うんですね。

スペインでは先月政権が社会労働党から民衆党に変わって、それまで民衆党に批判的だったアナ・パストールをキャスターから引き摺り下ろそうという話も出ていると聞きます。一ファンとして、これからもこの刺激的な番組が続く事を只々祈るばかりです。
| スペイン政治 | 21:53 | comments(6) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
スペインの新聞が橋下徹新大阪市長の事を「大阪のベルルスコーニ」と紹介
今週は、昨日からバルセロナで始まったスマートシティに関する国際会議に出席してて、その会議の合間を縫って欧州プロジェクトに関する打ち合わせや、欧州最強の工科大学を創り出そうとする欧州工科大学に関する打ち合わせ(地中海ブログ:欧州工科大学院 (European Institute of Innovation and Technology)の鼓動その2:ネットワーク型システムに基づくシティ・リージョンのようなコンセプトを持つ大学院)、はたまた国連関連の打ち合わせ(地中海ブログ:バルセロナで国連関連のワークショップ始まる:バルセロナの忘れられた地区大発見!)なんかに追われてて、今日はその事を書こうと思ってたんだけど、今朝、新聞(La vanguardia, 29 de Noviembre 2011)を読んでたらちょっと気になる記事があったのでそちらから。その気になる記事のタイトルはずばり:

「大阪の“ベルルスコーニ”」
"El Berlusconi de Osaka"

「え、大阪にベルルスコーニ?な、何だー!」とか思って記事を読んでみたら、大阪ダブル選挙で圧勝した橋下徹新大阪市長の事だった。



その強烈なタイトルの下にはこんな説明文が:

「テレビ番組で一躍有名になったポピュリストが、日本の伝統的な政治グループを一掃し、東京に次ぐ日本第二の都市、大阪の長に選ばれた」
“Un politico poplulista famoso gracias a la television barre a los grupos tradicionales y es elegido alcalde de la segunda ciudad nipona”

記事を読む限り、「ベルルスコーニ」という単語はタイトルにしか出てこなくて、「テレビで人気が出た」、「政治家」、「ポピュリスト」という部分から「ベルルスコーニ」を連想したのでは?と思われます。最初はスペイン紙もBBCに影響されて、マフィア、ギャンブル関連=ベルルスコーニか?とか思ったけど、そういう事では無いっぽい‥‥とか思ってよくよく読み返してみたら、やっぱそれっぽいなー!BBCが引用した橋下さんが以前言ったとされる「売春区(Barrios rojos)とカジノ(Casinos)」っていう言葉も記事の中に出てきてるし!

BBCでは「暴力団員の息子が当選」と報道されたそうだけど、スペインの新聞は「ベルルスコーニ」と紹介か‥‥。個人的にはさっぱり意味が分からないんですけどね(苦笑)。

まあ、どちらにしろ、日本の政治家の話題がスペインの新聞に顔写真付きで載るなんて滅多にない事で、それだけ「期待されてる」と見ても良いんじゃないかと思います。

‥‥とか書いてたら、僕のプレゼンの順番が回ってきちゃったー。スマートシティについては又今度。
| スペイン政治 | 05:10 | comments(0) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 1/7PAGES
  • >>