地中海ブログ

地中海都市バルセロナから日本人というフィルターを通したヨーロッパの社会文化をお送りします。
EUプロジェクト交通分野説明会2010
前回のエントリの続きです。EUプロジェクト交通分野(FP7 Information Days for Transport (Including Aeronautics)の説明会(Infoday2日目の昨日は、陸系(車と鉄道)と海系の公募についての欧州委員会のプレゼンテーションと質疑応答が行われました。前回のエントリで書いた様に、今年から日程がちょっと変わって、例年だと初日の午前中を陸・海系の説明に、午後を航空系の説明に割り当てていたのですが、参加者の急増に対応する為に今年から2日間に分ける事にしたようですね。



何でかって、500人収容の大会議室が昨日も今日も満員御礼になるくらいの状況でしたから、2日間に分けたのは非常に賢い選択だったと思います。テレビカメラも何台か来てましたしね。



さて、この説明会には毎年欧州各国から関連企業や研究所、大学関係者、各国政府や市役所関連の人達など、実に様々な職種の人達が駆けつけるのですが、そんな人達の間に去年辺りからある傾向が見られるようになりました。それは、スペインからの参加者の多さです。去年は本当に多くて、参加者リストの4分の1くらいはスペイン人じゃないのか?って言うくらいだったのですが、今年も去年ほどではないにしても、コーヒーブレイクやランチの最中に聞こえてくる言語と言えば圧倒的にスペイン語。さすがにカタラン語はそれ程でもなかったけど、スペイン語の多さには本当にビックリしました。

理由は明らかで、ギリシャ危機を受けスペイン政府の打ち出した財政削減策によって一番打撃を受けたのがR+D+i分野だったからです。つまり自国の予算には期待出来ないが故に、みんなでEUの予算を取りに来たと言う訳。まあ、経済が危機に直面した時に一番最初に削られる予算と言えば文化政策やR+D+iと言う事は何処の国でもそれ程変わらないとは思うんですけどね。それでも説明会後の質問タイムにおけるスペイン人による質問の多さや、午後から開かれたパートナー探しにおける彼らの真剣な態度を見るに付け、それが逆にスペインの置かれた経済危機の深さを暗に物語っている様にも見えましたね。

さて、気になった事が一つ。

今年の公募が始まる前日、各種メディアを賑わせていた記事に、「今年の欧州委員会がR+D+iに割り当てる予算は過去最大である」みたいな事が載っていました。この話はコーヒーブレイクの間中、そこここで議論されていたのですが、交通分野に関して言えば、予算配分はそれ程変わっていない様に見えます。鉄道、海系で言えば、若干増えた気がしないでもないけど、それでもそれぞれ26M euro(約30億円)程度ですからね。これを多いと見るか、少ないと見るかは人それぞれ。

で、興味深いのが欧州委員会がプレゼン中に発表してたデータなんだけど、それによると、去年のプロポーザル応募総数は1600
で、その内360余りのプロポーザルが予算を勝ち取ったのだとか。つまり勝率21%。これは実際にプロポーザルを書き、コーディネートしている僕からしたら、「本当かな?」と思っちゃう数字ですね。僕の感覚からしたら、「5%程度じゃないの?」みたいに感じるからです。

例えば今年の4
月に締め切られたICT関連の交通系の公募には約100の応募があったそうなのですが、その内予算が付くのは多くて3つと言う事ですから、この公募に関しては勝率は3%しかない事になります。ただ、欧州委員会は様々な形の公募を行っていて、予算を振り当てるシステムも様々ですから、全体として見ると確かに20%程度なのかなー?と言う気はしないでもありません。

もう一つ気になった事は、(分かりきっていた事ではあったのですが)、やはり欧州委員会のサステイナビリティやエコに対する姿勢と言うのは年々強くなっていってますね。昨日だけで、クリーン、グリーン、エコ、サステイナビリティ、CO2
、エネルギー消費、効率性なんて言葉を200回は聞いた気がします(笑)。この方向性が良いのか悪いのかは別として、もはやこれらのテーマを扱わない限り、欧州委員会から予算を勝ち取るのは難しいのかな?と言う現実を物語っているのかもしれません。

まあ、何はともあれ、今年も無事に説明会が終わり、約一年ぶりに会った人達とも又来年の再会を誓い合い、ある人達とは一緒にプロポーザルを立ち上げる約束を交わしつつも、長かった一日が終わっていきました。


さて、来週からは長−い戦いの幕開けです!がんばろうっと。
| EUプロジェクト | 18:20 | comments(0) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
ブリュッセル出張:Infoday 2010:バルセロナ空港管制官の仮病騒動とか
今朝から(またまた)ブリュッセルに来ています。理由は欧州委員会で開かれている20102011年のEUプロジェクト交通分野(FP7 Information Days for Transport (Including Aeronautics)の説明会(Infoday)に参加する為なんですね(Infoday関連記事:地中海ブログ:2010年、今年最初のブリュッセル出張その2:バイリンガルを通り越してトリリンガルになる日本人達:なんちゃってトリリンガルが変えるかもしれない ヨーロッパの風景



このイベントは毎年結構楽しみにしているのですが、今日はブリュッセルに来るまでがかなり大変でした。と言うのも、実は今、バルセロナとパリを中心に空の便が非常に乱れていて、かなりの飛行機が遅延もしくはキャンセルになっているからです。何故かと言うと、今週日曜日(719日)の事だったのですが、バルセロナ空港の管制官達が集団で病欠すると言う異常事態が起こっちゃったからなんですね。何と、全管制官の内、約4分の1もの人達が同じ日に病欠すると言う、非常に疑わしい事態が起きた事から、勧業省の大臣が緊急会見を開くまでに至りました。

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人一斉に病欠って、まあ、どう考えたって「仮病」なんですけどね(笑)。スペインでは良くある事で、確か5日目までは病欠で休んでもその間の給料は勤めている会社が負担する事になるので、医者も簡単に「病気である」って言う証明書を発行してくれます。しかし5日を超えると、その超過分の給料は社会保障庁が支払う事になっているので、医者も証明書を発行する事を渋ると言う背景があるんですね。だから不思議な事に、スペイン人の病気って言うのは、4日でパッと治る事がすごく多い!(笑)。

ちなみにこの仮病騒ぎの事をTwitterで呟いたら、「ヨーロッパ各国の仮病率」って言うデータを送ってくれた方がいらして、そのデータがコレマタ、かなり興味深かった。病欠した人の内、何パーセントの人が仮病を装っているのか?っていうデータだったんだけど、それによると、スペインでは病欠中に占める仮病の割合は何と22%!「結構高いなー」とか思ってたら、何と、イギリスとアイルランドでは21%!オランダは20%。!!何に驚いたかって、何処もそれ程変わらないじゃんって所かな(笑)。

で、今回の仮病騒動にはちょっとした裏話があって、実はスペインの管制官って言うのは、大変な高給取りらしく、彼らの給料は平均で2000万を優に超えるそうなんです。どうして管制官の給料がそんなに高くなるのかと言うと、どうやら管制官の給料の40%近くを占めるのは残業代、もしくは別の仕事をした時など出る付加給料らしいんですね。そこに目を付けたのが、どうにかこうにかして政府の支出を減らしたいサパテロ内閣。「全国の公務員が5%の給料カットを強いられる中、管制官だけがそんなに給料を貰っているのはけしからん!」って事で、すぐさま管制官の給料削減に着手した訳なのですが、実は内心、自分よりも何倍もの給料貰ってる彼らに嫉妬してるんじゃないのかな?と個人的には思っています。ちなみにサパテロ首相の給料は91.982ユーロ(1100万円)で、閣僚の給料は81.155ユーロ(970万円)。空港管制官の実に半分以下!コレはコレですごい事なんですけどね(地中海ブログ:スペインの各自治州政府大統領の給料について

今回の仮病騒動はその給料削減に対する集団ストだと政府は見做しています。

まあ、そんなこんなでこの1週間くらい空の便が非常に乱れているんだけど、今日は結局、1時間程度の遅れで無事にブリュッセルに着く事が出来てメデタシ、メデタシ(パチパチパチ)。



で、今日の本題なのですが、EUプロジェクト交通分野の説明会は毎年9月に行われていたのですが、今年からちょっと時期が変わった様ですね。しかも例年だと、初日の午前中に陸(車や鉄道系など)と海系(船舶など)の説明会、午後からは航空系の説明会で、2日目は各国のリサーチセンターや企業、大学系のプレゼン大会だったんだけど、今年から参加者が急増した為に、初日は航空系のみの説明会で、2日目に陸・海系の説明会を持ってきている様子です。プレゼン大会は2日間とも午後に開かれる予定となっています。



それにしても今年は参加者が本当に多い!航空系なんて、毎年小会議室で説明会やってたのに、今年は500人収容出来る大会議室の席が全て埋まってる。多分これは、各国共にR+Diの予算を大幅に削っている事などから、自国には余り期待出来ない為、みんな揃ってEUの予算を取りに来ていると言う事だと思います。今日がコレだから、明日はどうなるんだろう・・・。今からお祭り騒ぎの予感がしています。

追記:
コメントで教えてもらったのですが、労働局の社会保障のページを確認すると、病欠の負担が社会保障に切り替わるのは4日目からと言う事でした。つまり3日目までは勤めている会社が病欠中の給料を出すのですが、4日目以降は社会保障制度が出すという事。エントリに書いた5日目以降という情報はLa Vangurdia紙に載っていたもので、てっきり信じ込んでしまいました。

もうちょっと突っ込んで調べてみた所、3日以内でも100%給料が出るか?というと、その辺は各企業によるようですね。スペインの大手デパートなんかでは、年間で3日間だけは100%支給、それ以上休んだ場合は支給無しという契約を結んでいるらしいです。しかしながら、4日目以降は、社会保障と合わせて足りない分を会社が負担する事によって100%支給に持っていくと言う仕組みらしいです。だんだん、今までは未開だったスペインの社会システムが明らかになりつつあります。
| EUプロジェクト | 23:28 | comments(6) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
ヒホン(Gijon)その2:European Maritime Day(欧州海洋記念日):フェリペ王子(アストゥリアス公(Principe de Asturias)とラボラル文化都市(La Laboral ciudad de la cultura)
今日は朝からヒホン(Gijon)市郊外にあるラボラル文化都市(La Laboral City of Culture)という文化施設にて、European Maritime Day(毎年520日の欧州海洋記念日)にちなむ国際カンファレンスに参加してきました。この会議はヨーロッパ中の港湾機関や造船関連企業、海岸や海洋産業に関する各国・各都市の利害関係者などが一堂に集まり、今後の海洋計画や研究をどうしていくか?ヨーロッパ全体としてどのような方向に進んでいくべきなのか?そんな中において、欧州委員会はどのような役割を果たしていくべきなのか?などの諸問題を4日間に渡って様々な角度から話し合おうと言う、この分野では最大規模のイベントです。

毎年、その年のEU議長国の諸都市で開催される事が決まっているのですが、今年の議長国はスペイン。と言う訳で、スペインの中でも港湾都市として昔からEUと密接な関係にあるヒホン市が開催都市として選ばれ今回の開催に至ったと言う訳です(ココにはどのようにしてヒホン市が開催権利を勝ち取ったのか?そしてそのイベントをどのように都市発展、もしくは都市再活性化に活用したか?という大変面白いテーマが隠れてるんだけど、今日は別の話をしたいので、その話は又今度。)

さて、今日(5月20日)はこのビックイベントの公式オープニングセレモニーが行われたのですが、そのオープニングを高らかに宣言したのが、泣く子も黙るボルボン家の正統後継者、フェリペ王子とレティシア王妃でした。その為今日は、スペインの環境大臣やアストゥーリアス州政府大統領、EU議会の副議長など、昨日にも増して各国の要人が集まりまくっていたため、何処を見ても有名人(もしくは偉そうな人)だらけ状態。って言っても僕はほとんど知らない人だらけだったんですけどね(笑)。

そんな中、護衛の車両に挟まれるように一台の車が広い中庭のど真ん中に到着し、その中から終に現れました:



フェリペ王子とレティシア王妃の登場です!

僕は基本的にかなりミーハーなので、こういうイベントは大好きなのですが、そんな努力の甲斐あって(?)、今回も激写に成功してしまいました!見てください:



じゃーん!!僕の目の前を通って行ったんですよ!王子様が!!!王子様とか王様とか、もう、ドラクエの世界ですね、本当に。で、写真を良く見ると、フェリペ王子の目が僕のカメラをマジマジと見つめているのが見て取れます。

王子様を肉眼で見るのは今回が初めてだったんだけど、噂に違わず背がものすごく高い!!ボルボン王家って、血筋なのかどうなのか知らないけど、大きい人が多いんですよね。で、スペイン人の女の子に言わせると、フィリッペ王子はものすごくカッコイイらしい。今回一緒に来てる同僚のスペイン人の女の子なんて、偶然にも王子様と挨拶する事が出来たらしく、「キャー、王子様と挨拶しちゃった!!」なんて、一日中舞い上がっていました。

元キャスターのレティシア王妃も噂通りの美女でした。まあ、お似合いの美男美女と言う所でしょうか。





そんなこんなでキー・スピーチが始まり、最初はヨーロッパ委員会委員長のJose Manuel Durao Barrosoさんのビデオメッセージ、そしてフィリッペ王子のスピーチへと順調に進んで行ったのですが、そんな中で一つ気になる事が。それが今回、このカンファレンスが行われたラボラル文化都市という建物の事です。



色々と資料などを調べて見ると、どうやらこの建築は1946年から1956年にかけてLuis Moya Blancoという建築家によって、炭鉱で親を亡くした子供達の為の孤児院として計画されたと言う事が分かりました。と言っても、その建設途中で計画が変更になり、最終的には大学として使用される事になったそうなのですが。特筆すべき事は、この建物は自給自足を前提に計画され、人々の生活が「この建物の中で完結する都市」というコンセプトの下に設計された建築物らしいと言う事。その為、生活に必要な施設がこの建物の中に全て盛り込まれた事から、規模がかなり大きくて、総面積は270,0002、現在スペインで2番目に大きい建物と言う事になっているそうです。



それから何十年と月日が流れ、半分廃虚の様な状態になっていた建物を「文化施設の核にする事によって蘇らせよう」という機運が市民の間で高まり、1997年、芸術文化センター、オビエド大学社会経済学部兼観光学部などが入る複合文化施設として蘇ったという経緯から現在に至っているそうなんですね。

そんな事全く知らずに、「へェー」とか思って、色々と歩き回ってみたのですが、確かに面白いデザインの所もチラホラと見受けられます。



教会の楕円形天井のデザインなんかはナカナカ面白い。



更にメインエントランスから見える塔と、中庭の中心軸をワザとずらす事によって得られる効果なども、それなりに考えてある気がします。でも、何かイマイチ心に訴えてきません。多分、リフォームの仕方なんかがちょっと中途半端なんじゃないのかな?例えばコチラ:



旧工場を改築し、展覧会などを開く事が出来るスペースに再利用した空間なんだけど、コレだったら、元々あった「明り取り」から光を取り入れる方が数段良い空間が出来る様な気がする。構造的にもそちらの方が素直な気がするし、今のように明り取りをワザワザ塞いでしまう理由が良く分かりません。



と、まあ、色々と気になる所は沢山あるのですが、現代建築の秀作が限り無く少ないヒホン市にあっては、絶対に見るべき建築の内の一つになる事は間違い無いと思いますけどね。

と言う訳で、星一つです!!

| EUプロジェクト | 23:25 | comments(0) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
EUプロジェクト提出!:都市こそが鍵である
先週から昨日にかけて、EUプロジェクトのプロポーザル提出の最後の追込みの為に近年稀に見る忙しさに苦しんでいました。多分こんなに忙しかったのは、僕がバルセロナに来て以来初めての体験だったかもしれない。

EU
プロジェクトに関しては僕の重要な仕事の一つである事から当ブログでは事ある毎にその話題に触れてきました(地中海ブログ:EUプロジェクト、ICING (Innovative Cities for the Next Generation)最終レビュー)。一応、今の僕の肩書きは「EUプロジェクトの責任者」という事になってますから。「えー、cruasanって、パエリアとか食べて適当に感想とか書く人じゃなかったのー???」って思ったあなた、地獄に落ちてください。「えー、cruasanって、単なる旅行好きかと思ってたー!!」って思ったあなたも火あぶりの刑、決定です。一応、僕はヨーロッパでは欧州プロジェクト・マネージャー&歩行者計画のスペシャリストって事になってるの!!(冷汗)。

ではEUプロジェクトとは一体何なのか?

EU
は毎年、各分野の研究テーマに対して幾らかの予算を付けていて、定期的に「我々は今、こんな分野のこんな事に興味があるので、これくらいの予算を付けます」という要綱を発表します。例えば、「ITを駆使した新しい交通計画や交通情報システムに関する提案」みたいな。この要綱を読んだ人の中で、「このテーマだったら、こんな事が出来るなー」みたいに考えた人が、そのアイデア実現に向けて、ヨーロッパ中の研究機関、大学、私企業もしくは都市などからパートナーを選びチームを編成して、EUからの補助金を勝ち取りに行くという、云わば団体戦みたいなものなんですね。

勿論そこには幾つかのルールがある訳なんだけれども、最も重要且つ、絶対に守らなければならないルールの内の一つが「3カ国ルール」です。これは、各チームにはヨーロッパの国々の中から最低3カ国以上のメンバーを加える事という規則です。

何故か?

それについては以前のエントリでこんな風に書きました:

"
・・・しかしながら、いちパートナーとして実際にEUプロジェクトに参加していて気が付いた事は、これらEUプロジェクトには、この表向きの目的の他にもっと大切な裏の目的があるんじゃないかと言う事です。それは一つのプロジェクトの実現を通して各都市の結束を固め、都市間のコミュニケーションを円滑にし、その結果、創造性を増幅する事によりEU全体の競争力を高めるという裏目的が存在するような気がしてしょうがないんですね。

一つのプロジェクトを様々な文化と専門のバックグラウンドを持ったパートナー達と実現していくという事は決して楽な事ではありません。話す言語は違うし、扱う専門用語も違う、働き方も違うし思考形態も違うパートナー達と一緒に働いていていると、仕事の生産性という観点から見た時、「自分達だけでやった方が
楽なのに」と思う事はしばしばです。笑い合う事がある数だけ、「データが無い」とか「言語間の違い」とかで怒鳴りあう事がある事も事実なんですね。

しかしながらこのような仕事の生産性の指標だけでは計れない「何か」がある事も又事実です。それは明らかに文化間の違いが生み出す多様性に依っていて、プロジェクトを豊かなモノにしている。自分達とは違う文化圏の人の働き方や休息の仕方といった生活様式に触れる事によって、人間が成長するんですね。


どうも僕が見た感じ、
EUはプロジェクトの生産物に期待するというよりは、プロジェクトを通した各国間・各都市間のコミュニケーション促進の方に期待しているのではないかと思えてきます。その結果、プロジェクトに投資した何倍もの見返りが、そこで構築されたネットワークから出てくる新しいプロジェクトや提案という形でEUに還元される訳です。実際ICINGプロジェクトからは草の根的に幾多のプロジェクトがパートナー間で既に生まれています。結果としてEU都市間の結束が固まり、EU全体の競争力の強化に繋がる訳です。

僕が関わっているもう一つの
EUプロジェクトである、ロボットプロジェクト(URUS Project)ではその傾向というか、EUの戦略性はより明らかです。現在のロボット技術の強力なセンターは日本とアメリカだそうです。その2つの地域に比べて明らかに遅れを取っているのがヨーロッパ。そこでEUEU各国からロボットのエキスパートを集めてコミュニケーション型ロボットを創るというEUプロジェクトを立ち上げました。ロボットを創ると言ってもロボットは色んなパーツや機能から成り立っているので各部分によってどの国のどの都市が優れているとかいう優劣があるわけです。その良い所取りをして最上級のロボットを創ろうというのが表の目的。

しかしですね、ココには明らかに裏の目的があるわけです。それは各国各都市でばらばらなプロトコルや基準、用いる言語などを今の内に統一して来る次世代ロボット戦争に備える為に、日本やアメリカに負けない強力なセンターを創り出そうという戦略が見えるわけですよ。一つの生産物を創り出すという目的に従って、定期的にミーティングを開き、技術的な問題を解決
EUで統一していく事に加えて、上述のような各国・各都市のコミュニケーションを促進する役割をも果たす、正に一粒で二度美味しい戦略。

こういう事って、紙の上に書かれた経過報告書やプロジェクトレポートといったオフィシャルな記録からは絶対に見えてこない事です。
EUが正に結束を強めているこの時期に、日本人として、その中心に直にリアルタイムに関わる事が出来るというのは、この上ない幸せだなと思います。"地中海ブログ:EUプロジェクトを通して見えるEUの戦略:二つのEUプロジェクト・ミーティングを通してから抜粋)

さて、このような、「ヨーロッパ委員会が発表する要項には書いてないけど、経験者の間では共有されている暗黙の了解」みたいなのが幾つかあって、例えば、一つの提案に対する予算はだいたい3百万ユーロ(4億円)前後だとか、スタートアップ企業をパートナーに加えた方が有利になるだとか、実際に現場を体験しないとナカナカ分からない事が多いんですね。(実はヨーロッパの中でもこのシステムを熟知している人は比較的少数で、今、そういうスキルを持った人達の奪い合いが始まろうとしています。)

そのような暗黙の了解の中でも僕が近年非常に注目しているのが「都市の重要性」です。こんな事は勿論何処にも書いてないし、公式な見解じゃないんだけど、パートナーに都市(バルセロナ市やパリ市など)が参加しているかどうか?という点は、プロポーサルが認可されるかどうか?という一線を決める、非常に重要な要素だと確信しています。

何故か?

何故ならこの種のプロジェクトではフィールドテストをする事が出来るかどうか?が非常に重要な鍵となってくるからです。「じゃあ、都市を加えればいいじゃん」って思うかもしれないけど、実はコレが一番厄介なんですね。先ず第一に、欧州に都市は星の数ほどあるわけなのですが、当然、パートナーに値する魅力的な都市というのは限られているわけで、それら都市の奪い合いが始まるからです。更に各国間や各都市間で政治的な取引が絡んでくるので、事態はもっと厄介になってくると言う訳です。

近年、欧州委員会はサステイナビリティを達成する為には「都市こそが鍵である」と謡っていますが、EUプロジェクトに関して言えば、この格言は全くそのまま当てはめる事が出来ます。

「都市こそが鍵である」。今回の体験から学んだ一番重要な事柄だったかも知れません。
| EUプロジェクト | 04:21 | comments(2) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
itchyさんとの出逢い:もう一人いた!欧州プロジェクト・マネージャー
大変嬉しい事に最近はブログを通して色んな方々とお会い出来る機会が多くなってきたのですが、昨日は、ブログに何時も切れのあるコメントを残してくれるitchyさんにお会いする事が出来ました。

(私の記憶が確かならばー)itchyさんが初めてコメントを残してくれたのは約1年くらい前だったと思います。ヨーロッパの北と南の違いに関する内容のエントリを書いた所、「実はそれはイメージであって、現実とは違うんじゃないの?」みたいな大変鋭い指摘をされていたんですね。正直言って「あ、やられた」と思いました(笑)。更に、短いコメントながらも、その行間には体験に裏打ちされたであろう深い知識が見え隠れしていたので、その時以来、僕にとっての「要注意人物」(笑)となりました。

そしてその後、僕が関わっている欧州プロジェクトに関するエントリを書いた際、またまたitchyさんがコメントをくださり、僕が全く知らない様な事まで指摘されているのを見るに付け、「やはり、この人はやり手だ!」と確信するに至ったという経緯があります。

そんなこんなで、「一度是非お会いしたいなー」とは思っていたのですが、名前は勿論、何処で何をされているのか?などは全て謎。文面から、ヨーロッパの北の方でお仕事をされているのでは?と思ってはいたのですが‥‥そんなitchyさんからお誘いのメールを頂いたのが先週頭の事だったと思います。

トントン拍子に事は運び、バルセロナにて、昨日お会い出来る事となったという訳です。

バルセロナでも一・二を争うオシャレな地区、ボルン地区で待ち合わせをして、近くのレストランへと移動。そこで色々なお話を聞かせて頂いたのですが、やはり思った通り、今まで色んな国で沢山の経験を積まれているとの事。どうりで彼のコメントの端々には、書物から得られる薄っぺらな知識では無く、自分の体験としての知識が溢れている訳だ!

「自分の体験に基つく知識の構築」、それこそ僕がココ何年かで成し遂げたい目標であり、今、こうして膨大なお金と時間を注ぎ込んで欧州に身を置いている理由でもあります。何故なら今後、ありとあらゆる情報がデータベース化され、何処に居てもどんな情報でもネット社会の神様=グーグルを通して手に入れる事が出来る世の中においては、経験として身体に蓄積された情報がどんどん価値を持つ時代に入っていくのでは?と思うからなんですね。自分の目で見た情報、耳で聞いた情報、五感を通して体験した情報などが、どんなモノにも代え難い時代がきっとやってきます。そしてそれはお金で買えるものでは無いし、クリックする事で得られるものでもありません。何年、何十年という時間をかける事でのみ、自分の中に蓄積されていくものなのです。

昨日お話を伺っていて、itchyさんは正にそのような事を実践されている類い稀な日本人なのでは?と確信するに至りました。

僕は欧州で5年程、欧州プロジェクトに携わっていますが、未だかつて日本人を見た事はありませんでした。とは言っても、ヨーロッパの大学などで研究職に付いている日本人は年々増えている様ですから、研究者として欧州プロジェクトに関わっていらっしゃる方は結構いるのでは?とは推測はしていました。しかしながら、僕らの様にプロジェクト・マネージャーという立場から、もしくは公的機関(大学じゃなくて市役所や政府)の側から、その国の人々に混じって欧州プロジェクトに参加している人は果たして存在するのか?と思っていたんですね。

そんな状況下、itchyさんの仕事は、僕にとってとても新鮮な驚きでした。(色んな人がいるもんだなー。)

itchyさんのお話によると、EUプロジェクトに関わっている日本人の方をもう一人ご存知だとか。itchyさんとも話していたのですが、欧州に限らず、世界中で欧州プロジェクトに関わっている日本人ネットワークが出来たら、素晴らしい事だと思います。ネットワークを作って、欧州の悪口、失敬(笑)、情報交換をしましょう!

Itchyさん、今日は貴重な時間をどうもありがとうございました。今後ともヨロシク御願いします。

P.S.
今日行ったレストランはボルン地区にあるカタラン料理のレストランなのですが、すごく美味しかったです。しかし、話に夢中になるあまり、写真取るのを忘れた!
| EUプロジェクト | 21:36 | comments(0) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
アイルランド国民投票でリスボン条約を批准承認:そしてその後の問題
今日の各新聞(El Pais, La Vanguardia)はどれも、昨日アイルランドで批准承認されたリスボン条約の記事を一面に持ってきていますね。EUにとっての大事件だったので当たり前と言えば当たり前なのですが。

EUが長い時間をかけて熟成させてきたリスボン条約にアイルランド国民がNOを叩き付けてから約1年(詳しくはココ:地中海ブログ:リスボン条約:アイルランド国民投票批准否決とEUプロジェクト)。これでようやくEUも前進出来そうな気配がしてきました(実はまだまだ障害はあります)。

今回の投票率は58%(前回の投票率は53.1%)。その内賛成が67.1%を占めています。前回の反対が53.4%だった事を考えると、ものすごい伸びだという事が分かります。各種メディア、何故アイルランド国民がこれ程の短期間に意見をガラリと変えたのか?について、分析をしていますが、多分、La Vanguardia紙の言っている事が結構当たっているんじゃないのかな?この記事は冒頭にこんなフレーズを引用して始まります:

“Poderoso caballero es don dinero” Francisco de Quevedo

「偉大な紳士はミスター金持ちである(金こそ権力である)」:フランシスコ・デ・ケベド

“El miedo es el mas peligroso de los sentimientos colectivos”, Andre Maurois

「不安は集団的感情よりも危険である」:アンドレ・モロア


ケルティック・タイガー(Celtic Tigre)という名で良く知られているように、アイルランドはEUのテコ入れのおかげで最悪の経済状況からヨーロッパの優等生と言われる程の成長を遂げました。そして訪れたのが今回の経済危機。ボロボロになりかけていた国内の危機的状況に助け舟を出したのは、またもやEUだったんですね(詳しく言うと、ヨーロッパ銀行)。

だから、もし今回EUに賛成しとかないとせっかく良くなりかけていた経済が又下降するという「不安」が国民の間に広がったのではないのか?そして2度もNOを叩き付ける国にテコ入れ(欧州中央銀行)をする程EUは甘くは無い、という認識もあったのかもしれません。更に言えば、MicrosoftとIntelの後押しもかなり良い方向に働いたと考えられています。MicrosoftとIntelは共に、アイルランドをEU戦略における拠点にしています。つまりここでアイルランドがEUに背を向けるような事があれば、アイルランドに拠点を築いている意味が全く無くなるんですね。

何はともあれ批准承認され、「良かった、良かった」となったわけなのですが、懸念されるのは今後です。リスボン条約に調印していないのはチェコとポーランド、2カ国のみとなりました。しかしですね、今一番の障害だと考えられているのは、実は英国なんですね。英国保守党のDavid Cameronは今日の新聞記事内で、「もし来年の選挙に勝ったら早急に国民投票を行い、全力を持ってリスボン条約の批准を妨げる」と宣言しています。チェコが調印しないのは、来年の英国の選挙後の出方を伺っているという見方もあるようです。

逆に先日、欧州委員長に就任したばかりのJose Manuel Durao Barrosoは「年末までにチェコの合意を取り付ける」という大変強気な発言をしています。

この数ヶ月間程、EUの動きが慌ただしくなりそうな予感がします。
| EUプロジェクト | 22:41 | comments(0) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
ベルリンミーティング:夏休みの取り方に見る文化の違い
一昨日から某プロジェクト・ミーティングの為にベルリンに来ています。ベルリンに来るのは何と3年ぶり!未だ寒いのかな?と思ったら、思った程寒いと言う事も無く、ただ、急に雨が降り出したり、ものすごい風が吹いたりと、天候が不安定でした。

今回のプロジェクトは今まで関わったプロジェクトの中でもかなり大規模なプロジェクトの類に入るのですが、総パートナー数は7カ国に渡る39機関に上ります。



これだけ大きなプロジェクトになると、各パートナー間の利害調整をするのが本当に大変。各々やりたい事があって、みんな好き勝手な事を言いますから。(よくやってるよな、コーディネーターのBさん。感心しちゃいます)

そんな中、今回のミーティングで一番の問題になったのが、実は夏休みの問題なんですね。これについては、前回のエントリのコメント欄で少しだけ話題に上りました。(地中海ブログ:渡辺千賀さんのOn Off and Beyondで「海外で働いている人の体験談募集」というエントリがあったので:スペインの場合のコメント欄)笑っちゃうかも知れないけど、欧州プロジェクトにおいて夏休みの問題は本当に深刻な問題なんです。

今回の場合は、大変に重要な提出期限が9月の頭にあります。そうすると、言うまでも無く8月というのは最終調整をする追い込みの月になるのですが、スペインで8月に働く人は先ず居ません。だから最初にスペインのパートナーが「8月1日から9月1日までは夏休みです」と言い出します。すると、オランダのパートナーが「私の所は7月中旬から8月の頭まで休みです」と切り替えします。7月、8月が夏休みでつぶれるのは、まあ、分からないでも無いけど、ここに北欧のパートナーが入ってくると、話しがややこしくなる。というのも、彼らは気候の関係で一年で一番良い季節の6月から7月にかけて夏休みを取るからです。白夜です、白夜。(欧州プロジェクトの良い所は、ミーティングの度に各国を訪れる事が出来ると言う所なのですが、どうやって場所を決めるかというと、季節柄一番良い都市を選ぶというのが定石になっている感がします。だから7月、9月にかけて、やたらプロジェクトミーティング、国際会議、カンファレンスやらがバルセロナで増える事になるんですね。)

案の定、今回のヘルシンキのパートナーは6月中旬から7月の頭にかけて夏休みを取ると言っていました。

そうすると、プロジェクトとしては6,7,8月という3ヶ月間を失う事になるわけですよ。これは長い!!!「一人くらい欠けたって良いじゃないか!」と思うかもしれないけど、そううまい具合にいかないのが現実なんですよね。プロジェクトをコーディネートする側にとっては、かなり頭の痛い問題だと思います。

どんなに仕事が詰まっていても、どんなに重要な提出期限があろうが、自分の時間を第一に考えるのがヨーロッパ人。日本人のように自分の時間を犠牲にしてまで仕事のクオリティを極限まで磨き上げていく民族もいれば、時間内で出来る所まで精一杯やって終わりと割り切る民族もいる。

どちらが優れているとか、どちらが劣っているとかそういう問題ではありません。ただ単に考え方が違うだけです。そして我々はそれを「文化の違い」と呼んでいる、ただそれだけの事です。
| EUプロジェクト | 20:22 | comments(0) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
URUS Project: Ubiquitous Networking Robotics in Urban Settings プロジェクト、第2回審査会(Project Review)
今日は朝から欧州委員会の人達を交えたURUSプロジェクトのレビュー(審査会)がバルセロナ某所で開かれています。いつもながらに、このプロジェクトの朝は早い。朝8時集合!スペインでこの時間は考えられない!!!昨日のディナーなんて、夜1時解散だったし・・・ロンドンから来ている人達にとっては朝7時(時間差があるので)??かわいそー。

さて、プロジェクトレビュー(審査会)とは一体何か?というと、欧州委員会+外部のスペシャリスト(2−3人)を交えてのプロジェクトの経過審査ですね。欧州プロジェクトは一つのプロジェクトに対して、何億−何十億というお金が動くので、欧州委員会の方も「お金をあげて、はい、お終い」と言う訳にはいかないのです。

この審査会の結果次第によっては計画がストップしたり、予算の一部を返上しなければいけなかったりと、パートナー達にとっては、大変重要な決定が成される日なので、今日ばかりはみんな真剣そのものです。





以前のエントリでも書いた事なのですが、欧州プロジェクトの目的の一つは、多様な社会文化的バックグラウンドを持った人々の協働作業を促進させる事にあると思います。プロジェクトという一つの目的を与える事によって、それを達成する過程で他都市、他文化間の結び付きを強めようという隠された意図があると思うんですね。URUSプロジェクトのマネージャーもその事をよく分かっているから、昨日のプレ・ミーティングでも、「各都市間で連絡を取り合って創り上げたという過程を強調しよう」という事で合意しました。

そうこうしている内に、僕の出番が回ってきました。今日は同僚のA君がプレゼンを担当するので、ちょっとは気が楽です。しかしながら、突然の予期せぬ鋭いツッコミには気を付けなければいけないので気は抜けませんがね。

追記:ついさっき、僕達のプレゼンが終わりました。思った通り、かなり鋭いツッコミが飛んできたので、ちょっと焦ったりもしましたが、何とか2人で乗り切ることが出来ました。
| EUプロジェクト | 23:29 | comments(2) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
ロボットミーティング(URUS: Ubiquitous networking robotics in urban settings)
今日は朝から欧州プロジェクト、ロボットミーティングに参加しています。しかもスペインでは珍しい朝8時から!早過ぎ!
約2年前から始まったこのプロジェクトミーティングについては当ブログで何度か報告しています。

1:建築家という職能:ヨーロッパ・ロボット計画

2:EUプロジェクトを通して見えるEUの戦略:二つのEUプロジェクト・ミーティングを通して

3:ロボットミーティング in Lisbon

毎度の事ながらこのミーティング程疲れる会議も珍しい。各国のパートナー達が集まるので時間を最大限有効に使う為に何時も過密なスケジュールが組まれるんですね。その上、ロボット領域の専門用語全快なのでディスカッションを追っていくだけでもかなりの集中力が要求されます。

ラッキーな事にも今日のミーティングでは僕のプレゼンが一番最初の8時30分にプログラムされていました。何時もは昼前くらいなので、プレゼンをする時には何時も精神的にクタクタの中でプレゼンをしていたのですが、今日は元気満タンだったので質問等にも切れ良く答える事が出来ました。マンモスラッキー!!!

次のミーティングは1月終わり、トゥールーズ(Toulouse)で開催という事で合意。2月に欧州委員会の前でプレゼンがあるので、僕も来週辺りから本気でドキュメントを用意し始めなければいけない予感がします。

| EUプロジェクト | 13:09 | comments(0) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
EUプロジェクト、ICING (Innovative Cities for the Next Generation)最終レビュー
9月25日、バルセロナ都市計画局・情報局にある「バルセロナの部屋」にて3年近く続いたEUプロジェクトの最終レビューが行われました。ちなみにこの部屋、関係者以外立ち入り禁止なのですが一見の価値あり。







床一面がバルセロナの地図で多い尽くされていて、しかもそれが光る仕組み。



壁にはバルセロナ市が受賞したデザイン・都市計画関連の表彰状がずらりと掛けられています。ちなみに上の写真はハーバード大学が1987年にバルセロナの公共空間プロジェクトに送った、かの有名なGraduate School of Design Prince of Wales Prize in Urban Design賞の表彰状です。

さて、今回のレビューは最後とあって、ヨーロッパ3都市から全てのパートナーの代表11人が勢揃い。みんなで集まったのはプロジェクト初日以来かな?という気がします。そしてEU委員会からPさん、プロジェクトを批評する3人の外部専門家を加えて午前9時に最終レビューがスタートしました。

さて、今回のEUプロジェクトの総括として、気が付いた事を幾つか書いておきたいと思ったんですが、前のエントリを見たら結構巧く纏めてあったのでそれをコピーする事にします。(今日はちょっとお疲れモードなので・・・)一つだけ付け加えたいのは、昨日の夕食会でたまたま隣の席になったオーストリアから来たレビューアーが言っていた言葉です。

夕食の長テーブルを見つめながら、「見てごらん、一つのテーブルを囲んでココに幾つの文化が存在していると思う?こんな機会でもなければ絶対に知り合う事の無い人々が、一つのプロジェクトを通してこんなにも和気藹々と語り合う姿は滅多に見る事が出来ない。違う文化や言語を操るもの同士、一つの事を達成するまでには様々な困難やジレンマがあったと思うけど、僕はこの風景こそがEUプロジェクトの成果だと思う。」

彼の言う通り、この3年間は苦しい事の連続だったと言っても良いかもしれません。ヘルシンキの誰々が返事をくれないとか、ダブリンの事務所がいつまで経ってもデータを送ってこないとか、そんな苦労ばかりが思い返されます。でもプロジェクトが終わった今となっては、それらも良い思い出。来週からは毎日30通以上届いていたメールや引っ切り無しに掛かってきていた電話が鳴らないかと思うとちょっと寂しさすら感じます。

ヨーロッパで最先端のプロジェクトに関わりながら、日本人として文化の多様性というヨーロッパの真髄に直接触れる事の出来た幸運。昨日の夜見た風景を僕は生涯忘れる事は無いでしょう。


EUプロジェクトを通して見えるEUの戦略:二つのEUプロジェクト・ミーティングを通してから抜粋

" しかしながら、いちパートナーとして実際にEUプロジェクトに参加していて気が付いた事は、これらEUプロジェクトには、この表向きの目的の他にもっと大切な裏の目的があるんじゃないかと言う事です。それは一つのプロジェクトの実現を通して各都市の結束を固め、都市間のコミュニケーションを円滑にし、その結果、創造性を増幅する事によりEU全体の競争力を高めるという裏目的が存在するような気がしてしょうがないんですね。

一つのプロジェクトを様々な文化と専門のバックグラウンドを持ったパートナー達と実現していくという事は決して楽な事ではありません。話す言語は違うし、扱う専門用語も違う、働き方も違うし思考形態も違うパートナー達と一緒に働いていていると、仕事の生産性という観点から見た時、「自分達だけでやった方が楽なのに」と思う事はしばしばです。笑い合う事がある数だけ、「データが無い」とか「言語間の違い」とかで怒鳴りあう事がある事も事実なんですね。

しかしながらこのような仕事の生産性の指標だけでは計れない「何か」がある事も又事実です。それは明らかに文化間の違いが生み出す多様性に依っていて、プロジェクトを豊かなモノにしている。自分達とは違う文化圏の人の働き方や休息の仕方といった生活様式に触れる事によって、人間が成長するんですね。

どうも僕が見た感じ、EUはプロジェクトの生産物に期待するというよりは、プロジェクトを通した各国間・各都市間のコミュニケーション促進の方に期待しているのではないかと思えてきます。その結果、プロジェクトに投資した何倍もの見返りが、そこで構築されたネットワークから出てくる新しいプロジェクトや提案という形でEUに還元される訳です。実際ICINGプロジェクトからは草の根的に幾多のプロジェクトがパートナー間で既に生まれています。結果としてEU都市間の結束が固まり、EU全体の競争力の強化に繋がる訳です。

僕が関わっているもう一つのEUプロジェクトである、ロボットプロジェクト(URUS Project)ではその傾向というか、EUの戦略性はより明らかです。現在のロボット技術の強力なセンターは日本とアメリカだそうです。その2つの地域に比べて明らかに遅れを取っているのがヨーロッパ。そこでEUはEU各国からロボットのエキスパートを集めてコミュニケーション型ロボットを創るというEUプロジェクトを立ち上げました。ロボットを創ると言ってもロボットは色んなパーツや機能から成り立っているので各部分によってどの国のどの都市が優れているとかいう優劣があるわけです。その良い所取りをして最上級のロボットを創ろうというのが表の目的。

しかしですね、ココには明らかに裏の目的があるわけです。それは各国各都市でばらばらなプロトコルや基準、用いる言語などを今の内に統一して来る次世代ロボット戦争に備える為に、日本やアメリカに負けない強力なセンターを創り出そうという戦略が見えるわけですよ。一つの生産物を創り出すという目的に従って、定期的にミーティングを開き、技術的な問題を解決・EUで統一していく事に加えて、上述のような各国・各都市のコミュニケーションを促進する役割をも果たす、正に一粒で二度美味しい戦略。

こういう事って、紙の上に書かれた経過報告書やプロジェクトレポートといったオフィシャルな記録からは絶対に見えてこない事です。EUが正に結束を強めているこの時期に、日本人として、その中心に直にリアルタイムに関わる事が出来るというのは、この上ない幸せだなと思います。"
| EUプロジェクト | 20:29 | comments(0) | - | このエントリーをはてなブックマークに追加
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