8年前、初めてローマを訪れた際に「たまたま」見かけたこの彫刻との出会いは、僕に今まで感じた事の無い深い感動を呼び起こしました。その時はじめて、彫刻の素晴らしさ、ベルニーニの偉大さの片鱗を見たような気がしたんですね。
トラステヴェレ地区(Trastevere)の片隅に建つ小さな教会堂の左祭壇一番奥に、このベルニーニ晩年の最高傑作は眠っています:
左側の窓から差し込む柔らかい光に照らされて、暗い教会堂内部でここだけが鈍く白く光っています。ベットに横たわっている福女アルベルトーニさんの表情は苦しんでいるようにも見え、また喜んでいる様にも見えます。
顔の表情や手のしぐさといった身体全体でそんな感情を表しているかのようなんですね。
そんな決定的瞬間を捉えた「一コマ」は、この女性の感情がまるで内面から滲み出てきているかのような、そんな表現の極地に達しています。そしてこちらが、いまにも動き出しそうな服の襞の詳細:
コレが本当に素晴らしい。硬い石をこんな風に柔らかく見せる事が果たして可能なのか?と思わせる程の技です。
と同時に、ある種過剰とも言える服の襞の表現は「光の視覚化装置」としても機能している事に気が付きます。彫刻の表面が服の襞などによって波打っていることによって、窓側に近い部分では光が強く、遠ざかるに従って段々と弱くなっていくという光の移行を目に見える形=ヴィジュアリゼーションしてくれているんですね。
もう一つ僕が面白いなーと思ったのは、この彫刻の色彩です。今まで見た彫刻は、そのほとんどが真っ白だったのに、この彫刻には色が付いています。そしてこの彫刻の色と仕上げの質の違いによって階層を表現しているんですね。先ずは最下段の毛布の部分。ここに上の部分とは区別されるかのように、赤っぽい色の大理石が使われています。更に衣服の襞に比べ幾分「おおあじ」な襞表現にする事によって、上との区別を付けているかのようなのです。
その毛布とアルベルトーニさんの服の間にあるのがベットのシーツ部分。ここは流れるようなツルツルの表現にしています。そしてその上に載る福女アルベルトーニさんという階層分けをしているのです。
いずれにしてもベルニーニの彫刻の素晴らしい所は「ある種の瞬間」を的確に捉えている事だと思います。そして「パシャ」と撮った正にその瞬間の場面から、その前後の物語がまるで走馬灯のように展開していく‥‥。
動かないが故に、(その瞬間を捉える事によって)動きを展開すること。そう、これこそ彫刻の真骨頂であると教えてくれる彫刻、それがベルニーニの彫刻なのです。
(注)僕はこの教会に3日間通いました。朝早く(8時頃)3回、10時頃1回、そして午後5時頃1回。
この彫刻を見るベストの状態はやはり自然光だと思います。祭壇下部にライトが付いているのですが、ライトは光が強すぎて光の陰影などが楽しめません。この教会堂は午後の部は16時に開くのですが、開くと同時に神父さんがライトを付けてしまう(多分、我々観光客の為に配慮してくださって)ので、お薦めではありません。更に、午前10時頃に行った時は丁度ミサが終わる直前だったのですが、終わると同時に神父さんがライトを付けてくださいました。多分、ライトを消してくださいと言えば消してくれるとは思うのですが、ナカナカ言いにくいですね‥‥。朝早く(8時頃)に行った時は誰も居なくてライトも付いてなく、最高のコンディションで彫刻を鑑賞する事が出来ました。と言う訳で朝一番がお薦めです。
この教会は今でも使用されている教会で、多くの信者の皆さんがお祈りに訪れています。我々はあくまでも「見学させて頂いている」という事を忘れないよう、お祈りの邪魔にならないように心がけましょう。その旨、教会の入り口に書いてあります。