2015.05.19 Tuesday
国際博物館の日2015:リニューアル後のカタルーニャ美術館(MNAC)
毎年5月18日は「国際博物館の日」ということで、先週の土曜日はバルセロナ市内に点在する80を超える博物館・美術館が午後19時から午前1時まで入場無料でした。
このイベントは40を超える地域で開催されていた為、週末の夜を博物館・美術館で楽しく過ごした人達が世界中で大勢いたことだろうと想像します。
カタルーニャ美術館(バルセロナ)では、午後22時を回った頃から音楽が流れ始め、ホールが巨大ディスコに様変わり!みんなで楽しげにサルサを踊って夜を更かしたんですね。ちなみに上の写真は午前0時を回ったところを撮影したもので、この宴が午前1時まで続くという熱狂振り(笑)。いつものことながら、「カタラン人達の人生を楽しむエネルギー」には驚かされます。 ←多分、人生を楽しむことに掛けてはカタラン人の右に出る民族はいないんじゃないのでしょうか?そして僕がいつも感心してしまうのは、その為の装置やインフラが、市側(官)によって整備されているということ。そう、この街ではバルセロナという都市全体が、「人生を楽しむ為にデザインされている」かの様なのです。
今回の「真夜中の博物館」という企画もその一つで、グローバルに展開してるそのイベントを、ローカルな事情に合わせているところが大変興味深いかな、、、と。世界広しと言えども、夜中の1時まで博物館・美術館を開放している地方は少ないと思うんですね。一見どこの地域においても同じに見えるイベントの中に「ちょっとした差異を発見する」、そのちょっとした違いのことを我々は文化と呼んでいるのです(地中海ブログ:バルセロナで売ってるプリングルズの生ハム味に見るグローバルとローカルの問題)。
という訳で、今年はモンジュイックの丘の上に聳え立つカタルーニャ美術館に行ってきました。去年、ディレクターが代わり、美術館全体に及ぶ大規模なリニューアルをしてからは初来館です!
←館長選出については一悶着あったみたいで、結局、元ピカソ美術館の館長だったセラさんが就任されたみたいです。セラさんと言えば7年前にピカソ美術館の館長に「突然」抜擢された際、「ナルシス・セラ(民主化後初のバルセロナ市長であり、スペイン副首相も勤めた大物政治家)の甥だからだろう」と、カタルーニャ社会全体を巻き込んだ大論争が記憶に新しいのですが、その批判をバネに次々と新機軸を打ち出し、ピカソ美術館を未だかつてないほど魅力的にした行動派。その辺の事情については、以前の記事に書きました(地中海ブログ:バルセロナ・ピカソ美術館の企画展:「秘められたイメージ:ピカソと春画」その1:ピカソ美術館が好企画展を連発する裏事情)。
さて、カタルーニャ美術館のリニューアルに伴い、僕が大変楽しみにしてきた作品がこちらです:
1978年にバルセロナのIBM社屋の為にジョアン・ミロが製作したセラミックの壁画なんですね。ミロ独特の世界観がセラミックのねっとりとした質感と相俟って、非常に不思議な雰囲気を醸し出しています。
後ろでは学芸員のかたがJosep Llimonaの彫刻を丁寧に説明されていました。そう、国際博物館の日に伴う真夜中の博物館イベントでは、各博物館・美術館の学芸員の方々が15分おきくらいにツアーを敢行し、各博物館・美術館が保有するコレクションの魅力を存分に説明してくれるのです!
そんな中、今回のリニューアルで非常に嬉しかったのは、Fortunyの作品が増えていたことかな。
カタルーニャ出身の画家としては、ピカソ、ダリ、ミロなどを始め、ルシニョール(Santiago Rusiñol)やラモン・カザス(Ramon Casas)などが知られていると思うのですが、大変不思議なことにMariano Fortuny(マリアノ・フォルトゥーニ)ほどの画家が何故か日本には全く紹介されていないのです。
カタルーニャ美術館では以前は6点前後が展示されていただけだったのに、今回のリニューアルに伴い展示作品数が20点前後に増えていました。これは大変嬉しい誤算!
と、テンションが上がってきたところで、一階のロマネスク部門へGO!
ロマネスク・コレクションの数と質で世界的に知られてるカタルーニャ美術館なのですが、ここのロマネスク・コレクションが素晴らしいのは、その展示方法にも起因していて、来館者にオリジナルの気分を味わってもらおうと、教会のアプスを作って、そこに展示するという工夫をしています。
教会の小窓とかも忠実に再現してあって、あたかも本当に現地に来ているかの様な気分に。裏側はこんな感じになっています:
祭壇の前面部分を飾る板絵のコレクションも素晴らしい。数多ある板絵の中でも、僕のお気に入りがこちらです:
ドゥロ(Durro)のサン・キルク聖堂に飾られていた板絵です。3世紀の末頃、シリアで殉教した聖女ユリッタとその息子である聖キリスクを描いた板絵なんだとか。へぇー、へぇー、へぇー。
熱湯でグツグツと煮られたり、ノコギリで切り刻まれたりと、テーマ的にはかなり残酷なんだけど、それがコミカルに、、、というか、ロマネスク風に描かれると、かなり微笑ましく見えてくるから不思議です。そしてこちら:
ラ・セウ・ドゥルジェイの教区教会にあった祭壇板絵(12世紀初頭)。12使徒をピラミッド状に配置した構図といい、黄色と赤色を基調とする鮮烈な色彩が魅力的。お次は壁画:
ラ・ギンゲタのサンタ・マリア聖堂の壁画。6翼多眼の天使セラフィムが素敵すぎる。
よーく見ると、翼に付いた眼がかなり不気味なんだけど、なんか微笑ましい。そしてそして、このカタルーニャ美術館が誇るお宝中のお宝がこちらです:
タウイのサン・クリメント聖堂の内陣を飾っていた「栄光のキリスト」の登場〜。「我は世の光」と記された書物を持っています。
こんな素晴らし過ぎるロマネスク美術なのですが、カタルーニャが自国のお宝に意識的になったのはごく最近、しかもそれは「再発見されたものであった」ということは以前のエントリで詳しく書いた通りです(地中海ブログ:国際博物館の日(International Museum Day):世界屈指のロマネスク美術コレクションが凄いカタルーニャ州美術館(MNAC))
カタルーニャのロマネスク研究は、モデルニスモ期の建築家、プッチ・イ・カダファルクが1909年から1918年にかけて表した大著「カタルーニャのロマネスク建築」という本がその基礎を築いたということになっていて、フェルナンド・ブローデルなんかも「地中海」の中で言及していたりするんですね。
しかしですね、実はそれ以前にロマネスク研究の筋道を付けた人物がいたということは案外知られてなくって、近年進んでいる現地での研究成果によると、その道筋を立てたのは、プッチの師匠でありガウディのライバルでもあったドメネク・イ・ムンタネールであったということが明らかにされつつあります。
上の写真は、19世紀当時のサン・クリメント教会の「栄光のキリスト」が当時 どの様に扱われていたかを生々しく表しています。そう、あたかもその絵画を隠すかの様に、異物が貼り付けられているのを見ることが出来るんですね。
僕たちの価値観や美意識というものが如何に時代によって激しく変わっていくかということを指し示しているかの様で、非常に考えさせられる一枚だと思います。だからこそ我々は歴史に学ぶ必要があるということを再認識させてくれたりもするのです。
更に更に、鋭い人はもう気が付いたかとは思うのですが、もともと山奥に打ち捨てられていたロマネスクの壁画が何故この美術館に大量に保存されているのか‥‥???つまりは、山奥の教会堂などで手入れもされずに打ち捨てられていた壁画などを、よく言えば「芸術作品と見做し、後世に伝える為に保存した」、悪く言えば「もともとあった場所から引き剥がしてきた」ということなんですね。
‥‥と、こんな感じで、ここのロマネスク・コレクションを見ていると色んな事を考えさせられる訳なのですが、今回のリニューアルを経てもう一つ「考えさせられること」が増えました。それがこちら:
祭壇の左奥に見える十字の絵画、あれ、何か分かりますか?僕は見た瞬間、自分の眼を疑いましたが‥‥あれは紛れもなくタピエスです(地中海ブログ:スペインの新聞(La Vanguardia)のオマケが凄い!ダリ、ミロ、ガウディなど12種類のマグカップ)。そう、今回のリニューアルでは、ロマネスク美術と同じ空間に現代美術を飾るというかなり大胆な決断がされているのです。
横にあった説明を見てみると、「カタルーニャの前衛と伝統が織りなす対話」とある。まあ、実際、タピエスがロマネスク好きだったことは専門家の間では周知の事実だし、ここへロマネスクを見に来た人が、現代美術に興味を持つキッカケになるかもしれない。なにより、こういう「攻めてる感じ」は、僕は嫌いじゃありません。
と、そんなことを考えながら作品を見ていたら、結局閉館(午前1時)まで居てしまいました。
ちょっとお腹が空いたので、近所のバルで軽食、家に着いたら3時過ぎだった。それでも公共空間には人が溢れ、「夜はこれから」と言わんばかりに盛り上がっている‥‥。
これこそ、地中海都市の生活の質の高さであり、この都市の正しい楽しみ方だと、僕はそう思います。
このイベントは40を超える地域で開催されていた為、週末の夜を博物館・美術館で楽しく過ごした人達が世界中で大勢いたことだろうと想像します。
カタルーニャ美術館(バルセロナ)では、午後22時を回った頃から音楽が流れ始め、ホールが巨大ディスコに様変わり!みんなで楽しげにサルサを踊って夜を更かしたんですね。ちなみに上の写真は午前0時を回ったところを撮影したもので、この宴が午前1時まで続くという熱狂振り(笑)。いつものことながら、「カタラン人達の人生を楽しむエネルギー」には驚かされます。 ←多分、人生を楽しむことに掛けてはカタラン人の右に出る民族はいないんじゃないのでしょうか?そして僕がいつも感心してしまうのは、その為の装置やインフラが、市側(官)によって整備されているということ。そう、この街ではバルセロナという都市全体が、「人生を楽しむ為にデザインされている」かの様なのです。
今回の「真夜中の博物館」という企画もその一つで、グローバルに展開してるそのイベントを、ローカルな事情に合わせているところが大変興味深いかな、、、と。世界広しと言えども、夜中の1時まで博物館・美術館を開放している地方は少ないと思うんですね。一見どこの地域においても同じに見えるイベントの中に「ちょっとした差異を発見する」、そのちょっとした違いのことを我々は文化と呼んでいるのです(地中海ブログ:バルセロナで売ってるプリングルズの生ハム味に見るグローバルとローカルの問題)。
という訳で、今年はモンジュイックの丘の上に聳え立つカタルーニャ美術館に行ってきました。去年、ディレクターが代わり、美術館全体に及ぶ大規模なリニューアルをしてからは初来館です!
←館長選出については一悶着あったみたいで、結局、元ピカソ美術館の館長だったセラさんが就任されたみたいです。セラさんと言えば7年前にピカソ美術館の館長に「突然」抜擢された際、「ナルシス・セラ(民主化後初のバルセロナ市長であり、スペイン副首相も勤めた大物政治家)の甥だからだろう」と、カタルーニャ社会全体を巻き込んだ大論争が記憶に新しいのですが、その批判をバネに次々と新機軸を打ち出し、ピカソ美術館を未だかつてないほど魅力的にした行動派。その辺の事情については、以前の記事に書きました(地中海ブログ:バルセロナ・ピカソ美術館の企画展:「秘められたイメージ:ピカソと春画」その1:ピカソ美術館が好企画展を連発する裏事情)。
さて、カタルーニャ美術館のリニューアルに伴い、僕が大変楽しみにしてきた作品がこちらです:
1978年にバルセロナのIBM社屋の為にジョアン・ミロが製作したセラミックの壁画なんですね。ミロ独特の世界観がセラミックのねっとりとした質感と相俟って、非常に不思議な雰囲気を醸し出しています。
後ろでは学芸員のかたがJosep Llimonaの彫刻を丁寧に説明されていました。そう、国際博物館の日に伴う真夜中の博物館イベントでは、各博物館・美術館の学芸員の方々が15分おきくらいにツアーを敢行し、各博物館・美術館が保有するコレクションの魅力を存分に説明してくれるのです!
そんな中、今回のリニューアルで非常に嬉しかったのは、Fortunyの作品が増えていたことかな。
カタルーニャ出身の画家としては、ピカソ、ダリ、ミロなどを始め、ルシニョール(Santiago Rusiñol)やラモン・カザス(Ramon Casas)などが知られていると思うのですが、大変不思議なことにMariano Fortuny(マリアノ・フォルトゥーニ)ほどの画家が何故か日本には全く紹介されていないのです。
カタルーニャ美術館では以前は6点前後が展示されていただけだったのに、今回のリニューアルに伴い展示作品数が20点前後に増えていました。これは大変嬉しい誤算!
と、テンションが上がってきたところで、一階のロマネスク部門へGO!
ロマネスク・コレクションの数と質で世界的に知られてるカタルーニャ美術館なのですが、ここのロマネスク・コレクションが素晴らしいのは、その展示方法にも起因していて、来館者にオリジナルの気分を味わってもらおうと、教会のアプスを作って、そこに展示するという工夫をしています。
教会の小窓とかも忠実に再現してあって、あたかも本当に現地に来ているかの様な気分に。裏側はこんな感じになっています:
祭壇の前面部分を飾る板絵のコレクションも素晴らしい。数多ある板絵の中でも、僕のお気に入りがこちらです:
ドゥロ(Durro)のサン・キルク聖堂に飾られていた板絵です。3世紀の末頃、シリアで殉教した聖女ユリッタとその息子である聖キリスクを描いた板絵なんだとか。へぇー、へぇー、へぇー。
熱湯でグツグツと煮られたり、ノコギリで切り刻まれたりと、テーマ的にはかなり残酷なんだけど、それがコミカルに、、、というか、ロマネスク風に描かれると、かなり微笑ましく見えてくるから不思議です。そしてこちら:
ラ・セウ・ドゥルジェイの教区教会にあった祭壇板絵(12世紀初頭)。12使徒をピラミッド状に配置した構図といい、黄色と赤色を基調とする鮮烈な色彩が魅力的。お次は壁画:
ラ・ギンゲタのサンタ・マリア聖堂の壁画。6翼多眼の天使セラフィムが素敵すぎる。
よーく見ると、翼に付いた眼がかなり不気味なんだけど、なんか微笑ましい。そしてそして、このカタルーニャ美術館が誇るお宝中のお宝がこちらです:
タウイのサン・クリメント聖堂の内陣を飾っていた「栄光のキリスト」の登場〜。「我は世の光」と記された書物を持っています。
こんな素晴らし過ぎるロマネスク美術なのですが、カタルーニャが自国のお宝に意識的になったのはごく最近、しかもそれは「再発見されたものであった」ということは以前のエントリで詳しく書いた通りです(地中海ブログ:国際博物館の日(International Museum Day):世界屈指のロマネスク美術コレクションが凄いカタルーニャ州美術館(MNAC))
カタルーニャのロマネスク研究は、モデルニスモ期の建築家、プッチ・イ・カダファルクが1909年から1918年にかけて表した大著「カタルーニャのロマネスク建築」という本がその基礎を築いたということになっていて、フェルナンド・ブローデルなんかも「地中海」の中で言及していたりするんですね。
しかしですね、実はそれ以前にロマネスク研究の筋道を付けた人物がいたということは案外知られてなくって、近年進んでいる現地での研究成果によると、その道筋を立てたのは、プッチの師匠でありガウディのライバルでもあったドメネク・イ・ムンタネールであったということが明らかにされつつあります。
上の写真は、19世紀当時のサン・クリメント教会の「栄光のキリスト」が当時 どの様に扱われていたかを生々しく表しています。そう、あたかもその絵画を隠すかの様に、異物が貼り付けられているのを見ることが出来るんですね。
僕たちの価値観や美意識というものが如何に時代によって激しく変わっていくかということを指し示しているかの様で、非常に考えさせられる一枚だと思います。だからこそ我々は歴史に学ぶ必要があるということを再認識させてくれたりもするのです。
更に更に、鋭い人はもう気が付いたかとは思うのですが、もともと山奥に打ち捨てられていたロマネスクの壁画が何故この美術館に大量に保存されているのか‥‥???つまりは、山奥の教会堂などで手入れもされずに打ち捨てられていた壁画などを、よく言えば「芸術作品と見做し、後世に伝える為に保存した」、悪く言えば「もともとあった場所から引き剥がしてきた」ということなんですね。
‥‥と、こんな感じで、ここのロマネスク・コレクションを見ていると色んな事を考えさせられる訳なのですが、今回のリニューアルを経てもう一つ「考えさせられること」が増えました。それがこちら:
祭壇の左奥に見える十字の絵画、あれ、何か分かりますか?僕は見た瞬間、自分の眼を疑いましたが‥‥あれは紛れもなくタピエスです(地中海ブログ:スペインの新聞(La Vanguardia)のオマケが凄い!ダリ、ミロ、ガウディなど12種類のマグカップ)。そう、今回のリニューアルでは、ロマネスク美術と同じ空間に現代美術を飾るというかなり大胆な決断がされているのです。
横にあった説明を見てみると、「カタルーニャの前衛と伝統が織りなす対話」とある。まあ、実際、タピエスがロマネスク好きだったことは専門家の間では周知の事実だし、ここへロマネスクを見に来た人が、現代美術に興味を持つキッカケになるかもしれない。なにより、こういう「攻めてる感じ」は、僕は嫌いじゃありません。
と、そんなことを考えながら作品を見ていたら、結局閉館(午前1時)まで居てしまいました。
ちょっとお腹が空いたので、近所のバルで軽食、家に着いたら3時過ぎだった。それでも公共空間には人が溢れ、「夜はこれから」と言わんばかりに盛り上がっている‥‥。
これこそ、地中海都市の生活の質の高さであり、この都市の正しい楽しみ方だと、僕はそう思います。