2012.05.21 Monday
国際博物館の日(International Museum Day):世界屈指のロマネスク美術コレクションが凄いカタルーニャ州美術館(MNAC)
毎年5月18日は「国際博物館の日」という事で、その同じ週の土曜日は世界中で40を超える国や地域の美術館、博物館(3,000以上)が入場無料になり、我が街バルセロナでも市内に点在する50以上の美術館、博物館が午前1時まで入場無料になるという、美術館好きには堪らない企画が開催され、真夜中まで美術を楽しむ人達で賑わっていました。

週末の夕暮れ時に、ちょっと着飾って恋人や友達と街中に繰り出し、日が暮れるまで命一杯楽しむ。そんな彼らを後押しするかの様に公共側が様々な企画を用意している。そんな光景を目の当たりにすると、「やっぱり地中海の住民達というのは人生の楽しみ方を知ってるよなー」と思わずにはいられません。っていうか、この地域の人達ほど、街を自由に使いこなし、どんな時でも人生を謳歌する事を忘れない、いや、人生を楽しむ事に執念を燃やしている民族はいないのでは?と、心の底からそう思う程なんですね。

かく言う僕も昨日は夜中まで美術館をハシゴしてたんだけど、真夜中に訪れる美術館というのは昼とは又違った幻想的な雰囲気を醸し出してて、特にリチャード・ロジャース設計のバルセロナ現代美術館(MACBA)なんて昼夜で全く違った顔を見せてくれるから驚きです。

全面ガラス張りのファサードからは、スロープを上り下りする人達の影が浮き彫りになり、それ自体がまるで芸術作品であるかの様ですらあります。

今回僕がバルセロナ現代美術館を訪れたのは23時くらい(イタリア人達の間でも「本場ナポリの味を忠実に再現している!」と評判のイタリアンレストランでマルガリータを軽く頬張った後)だったのですが、ディナー前の時間を利用して昨日最初に訪れた美術館がコチラです:

じゃーん、モンジュイックの丘の上に堂々と聳え立つカタルーニャ州美術館(MNAC)。世界屈指のロマネスク美術の宝庫であるこの美術館については、当ブログではことある毎に言及してきました(地中海ブログ:カタルーニャ美術館(Museu Nacional d’Art de Catalunya(MNAC))開館75周年記念展覧会:ドラゴンの違いに見るヨーロッパとアジアの違い、地中海ブログ:ロマネスク美術と地中海:カタルーニャ、トゥールーズ、ピサ、1120−1180(Romanesque art and the mediterranean, catalonia, Toulouse and Pisa, 1120-1180))。ちなみにこの美術館、最近館長さんが変わって、現在は元ピカソ美術館で敏腕を振るっていたペペさんが館長を務めています(地中海ブログ:バルセロナ・ピカソ美術館の企画展:「秘められたイメージ:ピカソと春画」その1:ピカソ美術館が好企画展を連発する裏事情)。そんなカタルーニャ州美術館が誇る、というかカタルーニャが誇る必見のお宝中のお宝がコチラ:

ピレネーの山奥にひっそりと佇むロマネスク教会の祭壇に掲げられていた、息を飲むほど美しい壁画や祭具の数々なんですね。

カタルーニャ州美術館にはこの様な素晴らしいロマネスク時代の芸術作品が「これでもか!」と言うくらい沢山収蔵されているんだけど、この裏にはちょっとした逸話が隠されていて、と言うのも、それまで山奥の中で殆ど見捨てられ、手入れもされていなかったロマネスク教会から、良く言えば「それらの芸術作品を後世に残す為に」、悪く言えば「元あった場所からそれらの壁画を引き剥がしてきた」と、そう言う事が出来るからなんです。勿論剥ぎ取られた壁画があった場所には瓜二つの作品が描き直され、今でもロマネスク教会を訪れる人々に唯一無二の体験を提供してくれていますし、美術館に運ばれたオリジナルの方は、丁寧に修復した上で、美術館内に教会の空間構成を忠実に再現しつつ我々の目を楽しませてくれていると、まあ、そういう訳なんです。

美術館内に再現された空間構成なんだけど、特に教会のアプス部分が丁寧に創り込まれ、その前に建つと、現地の教会においてロマネスクの壁画や祭具などが「どの様に配置されていたのか?」が直感的に分かる様に工夫がされています。裏側から見ると、こんな感じ:

そしてこの様な素晴らしい壁画と共に見逃せないのがコチラです:

何とも素晴らしい祭壇画の数々なんですね。この祭壇画なんて、当時の処刑方法を描いたものだと思うんだけど、ロマネスク風にデフォルメ化されてると、これが結構笑えたりする。

これなんて「煮えたぎる鍋の中に放り込まれるー!」っていう何とも恐ろしい地獄絵なんだけど、こうして見ると、二人でお風呂に入ってるみたいで何とも微笑ましい(笑)。もしくはコチラ:

なんかノコギリで切られてるし‥‥。
さて、今でこそロマネスク教会やロマネスク美術といったものは「カタルーニャが世界に誇るお宝」という事になってるんだけど、実はカタルーニャがそんなお宝を発見したのは意外にもごく最近、20世紀に入ってからの事だと言ったら皆さん驚かれるでしょうか?
国際的に知られているのは、モデルニスモ期の建築家プッチ・イ・カダファルクが1909年から1918年にかけて著した大著「カタルーニャのロマネスク建築」という本かな。これが「カタルーニャのロマネスク研究の基礎を築いた」という事になっていて、かのフェルナン・ブローデルも「地中海」の中でカダファルクのこの本に言及してるくらいですからね。ちなみに僕はこの本のオリジナルが欲しくて、数年前、古本屋をぶらぶらしていた時に偶々見つけたんだけど、3,000ユーロ(日本円で30万円相当)とか言う高値が付いていてビックリした覚えがあります。

で、ここからが面白い所なんだけど、確かにプッチ・イ・カダファルクはその大著によってロマネスク研究の基礎を築いたって事になってるんだけど、実はそれ以前にロマネスク研究の筋道を付けた人物がいたという事は意外と知られていません。何を隠そう、その人物こそドメネク・イ・ムンタネールだったのです(地中海ブログ:リュイス・ドメネク・イ・ムンタネール(Lluis Domenech i Montaner)によるモデルニスモ建築の傑作、サンパウ病院(Hospital de la San Pau):病院へ行こう!どんな病気も直ぐに治るような気にさせてくれるくらい雰囲気の良い病院、地中海ブログ:リュイス・ドメネク・イ・ムンタネール(Lluis Domenech I Montaner)の傑作、カタルーニャ音楽堂:コーディネーターとしての建築家の役割を再確認させてくれる名建築)。

ドメネク・イ・ムンタネールと言えば、ガウディのライバルでありカタルーニャ音楽堂やサン・パウ病院など数々の傑作を生み出してきたモデルニスモ建築の巨匠中の巨匠として知られているんだけど、そんな彼は実は大変熱心な研究者としての顔も持っていて、その功績の一つがカタルーニャの山奥に眠っていたロマネスクの価値を見出したって事だったのです(注意:これは別に彼が最初にロマネスクを発見したと言っている訳ではありません)。

記録に残っている所では1879年にバルセロナ近郊のサンクガットの修道院に調査に行った記述があったり、そのちょっと後(1893年の4月、10月、11月)にはカタルーニャ地方の南西方面へロマネスク教会を訪ねる旅行をしてたりします。
それ以来、彼は若手建築家などを同伴しては、ちょくちょく現地調査に行き、写真やスケッチを残してたりするんだけど、その記録がちょっと凄いんです!何が凄いって、当時のカタルーニャにおいてロマネスクが如何に扱われていたのか、どんな待遇を受けていたかという事が明白な写真が目白押しだからなんですね。例えばコチラ;

この写真は、数あるロマネスク芸術の中でも最高峰に位置するサン・クリメント教会の「全能者キリスト」の壁画なんだけど、そのお宝中のお宝の上に、何か訳の分からない異物が、まるでその絵画を隠すかの様に蔓延り付いているのがはっきりと見えるかと思います。

コチラはその部分の拡大写真。本当ならアプスの奥に下記の様な素晴らしい壁画が見えるはずなんだけど、5つ程の三角形の尖塔みたいなものが邪魔してその壁画が見えなくなっているのが分かるかと思います。

これは一例でしかないんだけど、この様な驚くべき事態が当時のカタルーニャ社会では普通に行われていたという事なんですよ!ここでは「何故こんな事が行われたのか?」の詳細には立ち入りませんが、一つだけ言っておくと、この写真こそ、我々の価値観と言うものが如何に短い間に変わっていくのか?という事の動かぬ証拠だと思います。だからこそ我々は「歴史を学ぶ必要性があるのだ」という事を思い出させてくれますね。

この様な、息を呑むほどのお宝で一杯のカタルーニャ博物館のコレクションは大きく分けて3つの分野に分かれています。今日紹介したロマネスク部門はそれらの内の一つでしかありません。それに加えて2階にはラモン・カザスを初めとするコレ又素晴らしい絵画やジョセップ・リモナのうっとりする様な彫刻群などのコレクションがザックザック!バルセロナに来られたら必見の美術館である事は間違いないと思います。
それにしてもロマネスク美術は見れば見るほど新たな発見があります。「それがロマネスク美術の醍醐味なのかなー」とか思いつつ、今年の国際博物館の日は過ぎていきました。

週末の夕暮れ時に、ちょっと着飾って恋人や友達と街中に繰り出し、日が暮れるまで命一杯楽しむ。そんな彼らを後押しするかの様に公共側が様々な企画を用意している。そんな光景を目の当たりにすると、「やっぱり地中海の住民達というのは人生の楽しみ方を知ってるよなー」と思わずにはいられません。っていうか、この地域の人達ほど、街を自由に使いこなし、どんな時でも人生を謳歌する事を忘れない、いや、人生を楽しむ事に執念を燃やしている民族はいないのでは?と、心の底からそう思う程なんですね。

かく言う僕も昨日は夜中まで美術館をハシゴしてたんだけど、真夜中に訪れる美術館というのは昼とは又違った幻想的な雰囲気を醸し出してて、特にリチャード・ロジャース設計のバルセロナ現代美術館(MACBA)なんて昼夜で全く違った顔を見せてくれるから驚きです。

全面ガラス張りのファサードからは、スロープを上り下りする人達の影が浮き彫りになり、それ自体がまるで芸術作品であるかの様ですらあります。

今回僕がバルセロナ現代美術館を訪れたのは23時くらい(イタリア人達の間でも「本場ナポリの味を忠実に再現している!」と評判のイタリアンレストランでマルガリータを軽く頬張った後)だったのですが、ディナー前の時間を利用して昨日最初に訪れた美術館がコチラです:

じゃーん、モンジュイックの丘の上に堂々と聳え立つカタルーニャ州美術館(MNAC)。世界屈指のロマネスク美術の宝庫であるこの美術館については、当ブログではことある毎に言及してきました(地中海ブログ:カタルーニャ美術館(Museu Nacional d’Art de Catalunya(MNAC))開館75周年記念展覧会:ドラゴンの違いに見るヨーロッパとアジアの違い、地中海ブログ:ロマネスク美術と地中海:カタルーニャ、トゥールーズ、ピサ、1120−1180(Romanesque art and the mediterranean, catalonia, Toulouse and Pisa, 1120-1180))。ちなみにこの美術館、最近館長さんが変わって、現在は元ピカソ美術館で敏腕を振るっていたペペさんが館長を務めています(地中海ブログ:バルセロナ・ピカソ美術館の企画展:「秘められたイメージ:ピカソと春画」その1:ピカソ美術館が好企画展を連発する裏事情)。そんなカタルーニャ州美術館が誇る、というかカタルーニャが誇る必見のお宝中のお宝がコチラ:

ピレネーの山奥にひっそりと佇むロマネスク教会の祭壇に掲げられていた、息を飲むほど美しい壁画や祭具の数々なんですね。

カタルーニャ州美術館にはこの様な素晴らしいロマネスク時代の芸術作品が「これでもか!」と言うくらい沢山収蔵されているんだけど、この裏にはちょっとした逸話が隠されていて、と言うのも、それまで山奥の中で殆ど見捨てられ、手入れもされていなかったロマネスク教会から、良く言えば「それらの芸術作品を後世に残す為に」、悪く言えば「元あった場所からそれらの壁画を引き剥がしてきた」と、そう言う事が出来るからなんです。勿論剥ぎ取られた壁画があった場所には瓜二つの作品が描き直され、今でもロマネスク教会を訪れる人々に唯一無二の体験を提供してくれていますし、美術館に運ばれたオリジナルの方は、丁寧に修復した上で、美術館内に教会の空間構成を忠実に再現しつつ我々の目を楽しませてくれていると、まあ、そういう訳なんです。

美術館内に再現された空間構成なんだけど、特に教会のアプス部分が丁寧に創り込まれ、その前に建つと、現地の教会においてロマネスクの壁画や祭具などが「どの様に配置されていたのか?」が直感的に分かる様に工夫がされています。裏側から見ると、こんな感じ:

そしてこの様な素晴らしい壁画と共に見逃せないのがコチラです:

何とも素晴らしい祭壇画の数々なんですね。この祭壇画なんて、当時の処刑方法を描いたものだと思うんだけど、ロマネスク風にデフォルメ化されてると、これが結構笑えたりする。

これなんて「煮えたぎる鍋の中に放り込まれるー!」っていう何とも恐ろしい地獄絵なんだけど、こうして見ると、二人でお風呂に入ってるみたいで何とも微笑ましい(笑)。もしくはコチラ:

なんかノコギリで切られてるし‥‥。
さて、今でこそロマネスク教会やロマネスク美術といったものは「カタルーニャが世界に誇るお宝」という事になってるんだけど、実はカタルーニャがそんなお宝を発見したのは意外にもごく最近、20世紀に入ってからの事だと言ったら皆さん驚かれるでしょうか?
国際的に知られているのは、モデルニスモ期の建築家プッチ・イ・カダファルクが1909年から1918年にかけて著した大著「カタルーニャのロマネスク建築」という本かな。これが「カタルーニャのロマネスク研究の基礎を築いた」という事になっていて、かのフェルナン・ブローデルも「地中海」の中でカダファルクのこの本に言及してるくらいですからね。ちなみに僕はこの本のオリジナルが欲しくて、数年前、古本屋をぶらぶらしていた時に偶々見つけたんだけど、3,000ユーロ(日本円で30万円相当)とか言う高値が付いていてビックリした覚えがあります。

で、ここからが面白い所なんだけど、確かにプッチ・イ・カダファルクはその大著によってロマネスク研究の基礎を築いたって事になってるんだけど、実はそれ以前にロマネスク研究の筋道を付けた人物がいたという事は意外と知られていません。何を隠そう、その人物こそドメネク・イ・ムンタネールだったのです(地中海ブログ:リュイス・ドメネク・イ・ムンタネール(Lluis Domenech i Montaner)によるモデルニスモ建築の傑作、サンパウ病院(Hospital de la San Pau):病院へ行こう!どんな病気も直ぐに治るような気にさせてくれるくらい雰囲気の良い病院、地中海ブログ:リュイス・ドメネク・イ・ムンタネール(Lluis Domenech I Montaner)の傑作、カタルーニャ音楽堂:コーディネーターとしての建築家の役割を再確認させてくれる名建築)。

ドメネク・イ・ムンタネールと言えば、ガウディのライバルでありカタルーニャ音楽堂やサン・パウ病院など数々の傑作を生み出してきたモデルニスモ建築の巨匠中の巨匠として知られているんだけど、そんな彼は実は大変熱心な研究者としての顔も持っていて、その功績の一つがカタルーニャの山奥に眠っていたロマネスクの価値を見出したって事だったのです(注意:これは別に彼が最初にロマネスクを発見したと言っている訳ではありません)。

記録に残っている所では1879年にバルセロナ近郊のサンクガットの修道院に調査に行った記述があったり、そのちょっと後(1893年の4月、10月、11月)にはカタルーニャ地方の南西方面へロマネスク教会を訪ねる旅行をしてたりします。
それ以来、彼は若手建築家などを同伴しては、ちょくちょく現地調査に行き、写真やスケッチを残してたりするんだけど、その記録がちょっと凄いんです!何が凄いって、当時のカタルーニャにおいてロマネスクが如何に扱われていたのか、どんな待遇を受けていたかという事が明白な写真が目白押しだからなんですね。例えばコチラ;

この写真は、数あるロマネスク芸術の中でも最高峰に位置するサン・クリメント教会の「全能者キリスト」の壁画なんだけど、そのお宝中のお宝の上に、何か訳の分からない異物が、まるでその絵画を隠すかの様に蔓延り付いているのがはっきりと見えるかと思います。

コチラはその部分の拡大写真。本当ならアプスの奥に下記の様な素晴らしい壁画が見えるはずなんだけど、5つ程の三角形の尖塔みたいなものが邪魔してその壁画が見えなくなっているのが分かるかと思います。

これは一例でしかないんだけど、この様な驚くべき事態が当時のカタルーニャ社会では普通に行われていたという事なんですよ!ここでは「何故こんな事が行われたのか?」の詳細には立ち入りませんが、一つだけ言っておくと、この写真こそ、我々の価値観と言うものが如何に短い間に変わっていくのか?という事の動かぬ証拠だと思います。だからこそ我々は「歴史を学ぶ必要性があるのだ」という事を思い出させてくれますね。

この様な、息を呑むほどのお宝で一杯のカタルーニャ博物館のコレクションは大きく分けて3つの分野に分かれています。今日紹介したロマネスク部門はそれらの内の一つでしかありません。それに加えて2階にはラモン・カザスを初めとするコレ又素晴らしい絵画やジョセップ・リモナのうっとりする様な彫刻群などのコレクションがザックザック!バルセロナに来られたら必見の美術館である事は間違いないと思います。
それにしてもロマネスク美術は見れば見るほど新たな発見があります。「それがロマネスク美術の醍醐味なのかなー」とか思いつつ、今年の国際博物館の日は過ぎていきました。


































































